楽園55  再建、新たな旅立ち

雲間から少しづつ明かりが射し込んできた。心地よい風が拓斗の額や鼻の汗を拭いてくれる。

「夜明けだ」

亡霊たちの襲撃から時間が経ち、ようやく夜明けを迎えられた。

「皆、朝だよ」

拓斗が船室に戻る。

「おはよう」

「拓斗くん、お疲れ様。ご飯、どうぞ」

「美味しいそう」

朝食を取る六人は、昨日の恐竜たちがどうなったかわからないが、王国の様子が気になるので、このあと、一休みしたら、様子を見に行くことにした。

あそこには、苦心して育ってた畑や作物、漁場や温泉もある。何より、このまま逃げたらかっこ悪いと感じたからだ。

だが、闇雲に戻り恐竜たちの攻撃されては洒落にならない。なにか対策して行こうと皆で会議をすることにした。

拓斗はだいぶ疲れたのか、そのまま泥のように眠りに付いた。

あんな騒ぎのあとから、一晩中警戒していたのだから緊張がほぐれたのだろう。はるみが優しく、母が赤子を寝かしつける。

「拓斗…」

博樹と麗子は考えていた。

石オノなどでは、ティラノサウルスやアロサウルスには太刀打ちが出来ない。もう少し、強い武器が欲しい。

さらには、罠や怪我をした時の対策法も考えなければ…

「何か、こう、強い武器がいいな。大砲とか爆弾やミサイルみたいな」

「バカ、そんな危ないものあるか」

「そうよ。私たち、自衛隊や警察じゃないから無理よ」

日本には、危険物の規制に関する法律や銃刀法などあるため、一般人が銃や爆発する爆弾などを触る機会はない。

それこそ、自衛隊に入るか警察官や海上保安官や麻薬取締官になるしか…

「待った。俺、爆弾なら使ったことがある」

博樹があることを思い出した。

皆は“え?”と口を開けて驚く、まさか、爆弾テロみたいなことでもしたのかと心配した。

「工事現場の解体作業で使うやつがあるだろう。あれに近いやつなら俺したことがあるんだ」

博樹の親戚の伯父が解体作業の会社で働いていて、博樹も一緒にバイトをしていたことがあるのだ。

奥多摩や八王子の山中の工事現場で、免許がないとだめなので、資格を持っている先輩たちがしているのを見学し、実務しているところを間近で見させてもらったのだ。

「興味があって、先輩たちの爆破処理の免許の教本を読ませてもらって覚えたんだ」

すると、カトレアが、

「私も、教え子のおじいさんが花火職人さんをしているから、その子と見学させてもらったことがあるわ。火薬の粉も臭いとか色とかも」

なんと、二人も爆発物の関係者がいた。

だけど、材料がないから作ると言っても、一から作るには相当な労力がかかる。何か使えるものがあればいいのだが、船にはそのようなものがない。

いったい、どうすれば…?

「危険を承知で、始まりの地に降りてみて?」

拓斗が、会議中の皆に伝える。

「拓斗」

「始まりの地とは?」

「このビーチで僕らの王国が始まった。もしかしたら、困った時の何かヒントがあるかもしれない。また、襲撃を受けるかもしれないので、小舟か筏を作って、ビーチに上陸して調べてみよう」

拓斗の提案は、アイランド号の船倉に使えそうな丸太や板があるので、それを切って、小舟か筏にしてビーチに上陸しようというのだ。

その後は、博樹と翔、拓斗が船倉から大き目の丸太を甲板に運び出した。

「行くぞ」

「OK!!」

「そーれー」

丸太は2メートルはあり、一般的な小船が作れるくらいだ。早速、中をのこぎりや普通の斧で切り、人が入れるスペースを作っていく。カンナを使ってはるみがオールを作る。カトレアと麗子はマストと帆を作り、拓斗は木箱に必要な武器(石オノにナイフ、弓矢など)と薬を入れて用意する。

「完成だ」

「やったわ」

「あとは上陸だ」

アイランド号からゆっくり、小船を海に浮かす。

拓斗と翔が試しに乗ってみるが、沈ます、前にちゃんと進んだ。

「進水式もしたし、ゆっくりと進んでみましょう」

その時、拓斗がある詩を呟く。

「秋の日のヴィホロンのため息を」

皆は、なぜ、常夏の場所でそれを言ったのか、わからなかった。日本にいた時も夏だったのに…?

「上陸のゲン担ぎ」

ニマリと笑う。

ちなみに、ゲン担ぎと言うがこれは、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線最大の上陸作戦「ノルマンディー上陸作戦」の作戦コードである。連合軍はこの戦いでダンケルクの雪辱を果たし、ナチスドイツ軍に勝利したのだ。

拓斗は、この上陸に成功し勝利すると言う意味を込めて言ったのだ。

船には、翔とカトレア、はるみが見張りで残り、拓斗と博樹、麗子が上陸した。

「不思議な気持ちだ。王国に来てから二週間は経つが、ここから始まったんだよな」

博樹が森の入口に立ち、口にした。

「ええ、氷壁の洞窟やら、沼の幽霊船と色々あったけど、まさか、恐竜たちが甦るなんて…ここを出発してからわずかな間に数え切れないくらい色々あったわね」

麗子が答える。

「奪われた王国を取り戻して、再建しよう。今度こそ、壊れないような王国に改造しよう」

拓斗が意気込むが、それは、二人にではなく自身に言い聞かせているのだろう。

ビーチに降り立つ、辺りを見渡すがティラノサウルスたちみたいな敵はいないようだ。森に向かって進むが、いきなり攻撃されて全滅は免れたいので、拓斗が斥候として安全を確認しに向かった。

 斥候…偵察兵のこと

右腕を挙げる。

「安全ね」

「行くか」

まず、拓斗は森の木を切り、王国の再建の材料にする。麗子と博樹は木の実を取ってきたり、川の魚を捕まえてくる。

一度にたくさんは運べないので、ある程度の量になったら、船に運びに行った。その時は安全のために全員で戻る。

「お昼までに、どのくらい出来るかしら?」

「わからないけど、アイランド号に載せられる分だけだから、たくさんは持っていけないしな」

「あと、一番欲しいのは強い武器だな」

だが、そんなものが木の実や魚みたいにどこにでもあるとは思えない。RPGゲームやアクションゲームみたいに宝箱や樽を壊したら中から出てくるなんてことはない。どうすればいいのか…?

アイランド号で荷積みをして再び島に向かう拓斗たち、だが、彼は偶然にもあるものを見つける。

拓斗も二人の手伝いで木の実を探していた。すると、麗子が茂みの奥に隠れていた何かを見つけた。

「あら、何かしら?大きな何かがあるわ。車かしら」

博樹が茂みをナイフで払う。すると赤錆た何かが出てきた。

「これは、なんだ?大砲?」

「沼の海賊たちのかしら?」

二人が不思議な目をしていると、拓斗が、

「これは、日本の大砲だよ。旧日本軍で使われていた野戦砲九五式野砲だ。すごい、初めて見た。」

拓斗の話では、この旧日本軍が南方や大陸の戦線で活用した兵器で、威力もあり移動に便利と言う代物だ。

「おそらく、田端さんの仲間が使っていたんだろうな。見た所、戦傷があるからこの島の防衛に使っていたのかな?」

「いずれにしても、戦争が終わり、ここに放棄されたのかしら…?」

拓斗は野砲を見ながら、あることを思い付いた。

「拓斗たち遅いな」

「四十分も経つけど、何しているのかな?」

船番をしているはるみたちが心配そうにビーチを見ていると、

「あ、帰ってきたわ!!」

カトレアが、三人の姿をマストから確認出来たが、何か運んでいる。

「ただいま」

「ちょっと、何なのよ?後ろのそれは?」

拓斗と博樹が、「大砲!!」と軽いノリで言うと麗子が補足して言った。

「偶然見つけたから、持って帰ってきたの。すぐ近くの廃屋に弾が入った箱があったから、拓斗くんが射撃が出来るって教えてくれたの」

拓斗たちは、野砲の近くにあった物置小屋みたいな所に弾の入った木箱があり、廃屋を壊して簡単な筏を作り小川からビーチまで運んで来たのだ。

「何かのはずみで爆発したら危ないので慎重に運んだぜ」

「本当に怖かったわ」

三人が危険を顧みず、ここまで運んでくれた。それは、皆の願いである“王国を再建する”その思いがあってだから運べたのだ。

野砲と砲弾を積み込んだ。

さあ、行こう。

自分たちの帰るべき王国へ!!!

アイランド号の帆は高らかに揚げられた。































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