楽園56  変わり果てた王国

アイランド号は、少しづつ王国に近づいた。

「もう少しだ」

ゆっくりと進むと、そこには目を覆いたくなる光景が広がっていた。

「ひどい」

「いや」

「ひでー」

恐竜たちの乱闘で、休憩所や食料庫や物品倉庫、医務室、調理場や温泉の脱衣場、トイレなども見るも無残な光景に変わっていた。

カトレアなどショックで泣き出していた。

「ひどいよ。みんなで頑張ったのに」

「だからこそ、再建するんだろう。まずは、恐竜たちがいないか確認しよう」

博樹はマストに登った。

双眼鏡で辺りを覗くが、恐竜たちの姿はいない。拓斗と翔が小船で近づくと茂みの方からすごい悪臭がした。

安全のために筏を組み立てる。拓斗がまた斥候として慎重に近づこうとする。

はるみがその様子を見て、

「拓斗、大丈夫かな?いつも危険なことばかりさせて…」

「はるちゃん」

「はるみ、夫を信じているんでしょう。真実の愛なら、彼を信じてあげなさい。夫の思いを、信念を!!!」

麗子は強く揺らぐはるみを叱咤した。

「はるみさん、あいつなら大丈夫だよ。ガキの頃から色々している奴だからな」

その言葉を聞いて、拓斗の帰りを待つことにした。

筏でゆっくりと茂みに近づく拓斗、ちなみに、茂みに見えるが南海にあるマングローブのように、海と川が入り交じった岬のような場所だ。

“鬼が出るか、蛇が出るか、南無三”

と心の中で唱えた。

茂みの向こうでは、アロサウルスが横たわっていた。赤い液体を身体から流して…

いきなり眼をあけて、最後の一撃をしてくるやもしれない。拓斗は石を投げて試してみた。

アロサウルスは動かない。近くによって木の枝で顔を力いっぱい叩いたが、アロサウルスは動かなかった。体に触れて見ると、

「硬くなっている。死んだのか┅」

拓斗はそのまま筏に乗り、翔の待つ小船に戻り報告した。

「アロサウルスだけか?ティラノサウルスとギガノトサウルスはいなかったのか?三つ巴の争いをしていたのに…」

「だが、まだ生きている可能性がある。こりゃ、再建には細心の注意が必要だな」

「ああ」

アイランド号に戻った二人は報告した。

「そんな。それじゃ、まだ恐竜たちが生きているかもしれないの?」

「怖いわ」

カトレアとはるみがそれを聞いて恐怖するが、麗子は、

「何を言っているの?そのために、大砲を持ってきたのよ。このまま、逃げ回るなんてかっこ悪いわ。戦うのよ」

「麗子」

「俺たち、皆で戦おう。そしたら、怖いものなんて、ないよ」

博樹が笑う。

「必要なら、また、武器を探したり、作ろうぜ」

拓斗も二人を安心させる。

「まずは、計画だ」

翔が地図を取り出すと拓斗は、このために考えていたことを話す。

「これから、襲撃を受けた時のために、変わり果てた王国のままでは危険なので、少し移動させる。だけど、全体じゃなく、寝床だけを温泉の近くにある岩山、あそこに穴を掘り、海に繋がる地下水路を作る」

拓斗の話では、アイランド号を岬の岩場に隠し、襲撃時は海から応戦するという考えだ。ちなみに、温泉の岩山に穴を掘り、ティラノサウルスたちが攻撃してこれないようにするのだ。そして、地下通路を造り岬まで掘り緊急時はアイランド号に逃げられるようにしようという考えだ。

「時間と体力がかかるわね」

「スコップやツルハシがあっても、硬い岩とかがあったら無理だし、削岩機みたいな道具も排出した土砂を運ぶ荷車やダンプカーも無いんだ。そんな時に恐竜たちに襲撃されたら、どうするんだ?」

「木の上にツリーハウスみたくするという手もあるわ」

「でも、ティラノサウルスやギガノトサウルスみたいな大型恐竜たちがまだ生きているかもしれないんでしょう。大木にツリーハウスを造っても倒されたら一巻の終わりだわ」

話し合ううちに、たくさんの問題点が浮き彫りになった。

一番目∶温泉横にある岩山に穴を掘り、居住スペースにする案は恐竜やマンモスたちが襲ってきても地下なら逃げられて、弓矢と発見した大砲で応戦は可能。畑や温泉も近くなり、湧き水も飲みやすくなる。

しかし、岩山を掘る道具がないのと体力がかかり、時間もどれだけかかるかわからない。海からも遠くなるから、魚貝類や海藻を手に入れるのも厳しくなる。

二番目∶森の木の高い所にツリーハウスにし、ロープなどであっちこっちを蜘蛛の巣みたく張り巡らせて木の上の砦にする。

だが、大型恐竜やマンモスなどが体当たりなどをされたら、一発で倒れる恐れあり、また、サーベルタイガーやギガントピテクスみたいな巨木に登ることが出来る相手だったら追い詰められる。また、木の上なら蜂やら蛇みたいなのもいるので警戒が厳しい上に、嵐が起こると倒壊の危険がある。

三番目∶岬の洞窟が入江になっているので、アイランド号を停泊させて本拠地とする。これなら、いつでも海に漁に行けるし、王国の再建も可能だ。

だが、入江に地震があったら船ごと岩に押し潰される可能性があるのと、温泉や畑、漁場、調理場を度々離れないといけない。

「今の所、課題を要約するとこれね」

麗子が紙に書き表した。

どうするのか考えているとカトレアが何かをひらめいた。

「そうだわ。こんなのはだめかしら、温泉や畑の周りにいくつか小川や拓斗くんと翔くんがお野菜や果物を作るのに掘った用水路があるでしょ。それらを今より深く掘るの。お城の掘りみたくして恐竜やマンモスたちの襲撃に備えたら、どうかな?」

カトレアは前に、学生時代の同級生で町のお城の博物館で学芸員をしている子に日本古来からある城の防衛法や造りを教えてもらったことがあるのだ。

「水を通すのもよし、空堀みたく掘りだけにして、畑と温泉の周りを独立させて砦みたいにするのもありね」

「漫画や映画みたいに」

「アイランド号はどうするの?」

「アイランド号は、今まで通りに海岸に近い場所に停泊させておくの。岬の入江なら中に入れなくても大丈夫でしょう」

確かに、温泉や畑の真下は岬だ。そこからならすぐにアイランド号に逃げられる。

はるみがも簡単な模型を作り、カトレアの案を具体的に見せる。

それは、さながら、戦国時代の軍議のようだ。

ここで、はるみと麗子は女傑巴御前のような大鎧を着装、カトレアは胴巻を巻き、額当てをし、刀を背中に差したくの一の忍び頭の出で立ちになり、陣頭陣指揮を取るような場面になった。

同じように、拓斗は戦国の当世具足、博樹は足軽大将になり、翔は荒武者のような姿でカトレアの作戦を聞きながら、模型と地図の配置を眼に焼き付けた。

「カトレアさんの言う通り、温泉から岬までなら後ろは断崖絶壁ではなく緩やかな丘、だったら、抜け道を造っておこう」

「それなら、すぐにアイランド号に逃げられるな。他にもロープをマストに繋ぎ、ロープウェイみたいにしておくのもありだな」

「それいいね」

「博樹もナイスアイデア」

「でも、万が一の守りはどうするの?ロープウェイや抜け道を万が一断たれた時は、どうするの?」

麗子は、地形を見て冷静に判断した。

確かに緩やかな丘は恐竜たちに責められる恐れもある。

「それなら、脇に穴を掘るのはどうかな。ロープウェイや抜け道が壊れた場合は、そこを地下を使って、防空壕みたく隠れたり、アイランド号のあるビーチまで逃げる道を作っておけばどうかな?それなら、岩山を削るより体力も時間も使わないよ」

拓斗が当初考えた案をもう一度出した。

「拓斗くん、グッジョブ」

「皆で、早速、準備をして取り掛かろうぜ」

「オッケー!!」

ダブル、いや、トリプルで安全な生存法の計画が出来、六人は、早速、変わり果てた王国を再建に向けて始動した。














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