楽園5  出会ったら南国!!

遠くから吹く潮風と眩しい輝きを放つ青い海。

麗子たち三人の車は颯爽と走って行くがすれ違う車も人もいない海沿いの道路はアスファルトさえも美しく見えた。

「ハイウェイをゴーゴー」

「夏よ。今年も来てくれてありがと」

仲良く、ノリノリでかつて青春時代に耳にした流行りの歌を大合唱しながら進む三人は今夏の流行トレンドの服で可愛いらしい帽子でお髪から足下まで決めていた。

はるみは、緑を基調とした長いロングスカートとセクシーな胸元を黄色の生地に蝶をあしらったTシャツ、長い艶のあるチョコレートのようなブラウンカラーを海風になびかせている。ちなみにチャームポイントは麦わら帽子だ。

麗子は、運転しやすいデニムのスポーツパンツに、ピンクのタンクトップにハイビスカスや果実をあしらった胸びらきのTシャツを羽織り、高級ブランドメーカーのサングラスをしている。

カトレアは水色のワンピースにポニーテールをピンクの髪留め、夏らしい白のサンダルを履いている。

普段は会社の中間管理職、インストラクターや教師など責任を背負っている彼女たちもまだ二十代のお年頃の女性、何もかも忘れて青春を謳歌したいだろう。

「麗子、白糸屋には何時に着くの?」

カトレアが麗子にどのくらいで目的地に到着するか尋ねる。

「渋滞もしていないし、スラスラと進んでいるからお昼には着くわ」

カーナビで道路状況を確認して伝えると、はるみが後部座席からひょこと顔を出して、二人に飲み物を渡す。

「麗子はカフェオレでよかったよね。カトレアはオレンジジュースでいい?」

「うん。はるみちゃん、ありがと」

「ありがと。運転中だから、そこのホルダーに置いて。今夜の楽しみは地ビールと魚介類のフルコースを予約しているからたっぷり飲んで食べるわよ」

「やだ、豪華絢爛」

楽しい話で盛り上がる三人だったが、「パーン」左側から何か大きな音がし、車のスピードが落ちた。

何かしら?と車を近くの自販機コーナーに停車して、三人で状況を確認する。どうやら、パンクしたようだ。

「弱ったわ。どうしよう」

麗子は保険屋さんに電話してレッカー車を手配して貰おうと連絡するが、海沿いで風が強いせいか繋がらななかった。

「ダメだわ。うんともすんとも言わないわ」

「いよいよお手上げね」

はるみたちの携帯も同じで電波がまったく入らない状態だった。

そんな彼女たちにさらに追い打ちをかける事態が起こった。

生暖かい強い風が吹き出し、青空は黒く支配され夜のようになった。

「これって悪天候になる前触れってやつじゃ」

カトレアの言った不安はすぐに現実になった。

豪雨が降り、風も吹き出して辺りは視界が遮られてしまい、何も見えなくなった。

「どうしよう」

「危険だし、車に戻りましょう」

「うん、そうしよう」

車を停めて待つこと三十分経つが、風雨はどんどんひどくなる。回復するのを待つのは絶望的だった。

「困ったわね」

楽しい旅行が突然の中断。麗子とカトレアは空に「キィー」となり睨んだ。その時、はるみが何かに気が付いた。

「ねぇ、何か海岸に船が打ち上げられているよ。漁船か何かが座礁したのかな」

はるみが豪雨の先を指差す。

その時、船から誰か雨合羽を着て出てきて、自分たちの方に歩いて来た。しかし、少し不安になった。漁師や商船の船員ならまだしも、船がそれに化けた海賊みたいな奴らだったら、何をされるかわからない。

麻薬や人身売買の売人かもしれない。危害を食らわさせられる恐れがあるかもしれないと思うと怖い。

麗子はドアをロックし、はるみとカトレアは自販機で買ったジュースを空け、あくまで休憩しているフリをした。船から降りて来た人物は一歩一歩と豪雨の中進んでくる。

どんな相手かわからないほど恐ろしいものはない。三人は心の中で神に祈った。

(神様)

そして、その人物が車の近くまで差し掛かった時、

“ドテッ”と音がした。

恐る恐る確認すると、警戒していた人物が車の横で倒れていた。

「大丈夫ですか?」

はるみがドアを開けて倒れた人物に寄る。

麗子とカトレアは、突然のはるみの行動にびっくりしたが、人として目の前で他人が倒れたなら声かけするのが人情というものだろう。はるみに手を差し伸べられて起き上がったのは、

「ありがとうございます。段差があるとは知らなかったので気が付かずに足を取られてしまって」

「気をつけないと」

拓斗だった。

廃船で博樹や翔とパーティーしている時に、飲み物が無くなったので自販機まで買いに行く途中だったのだ。

助けてもらったお礼に、拓斗は三人を船に案内し、自身らのパーティーに招待した。

「博樹、翔、悪いな遅くなって、美人ゲストを三人呼んできたぜ」

二人は拓斗の台詞に目を丸くした。外は酷い豪雨

のにどこから美人など連れて来れるのかと疑ったが、「お邪魔します」

はるみ、麗子、カトレアの順に入って来た。拓斗の言う突然の美女たちに二人は十八の少年らしく目をハートにして喜んだ。

「いらっしゃいませ」

「ようこそ、僕らの秘密基地へ」

カビ臭いと思っていた船内も拓斗たちは念のためと思って用意していたブルーシートをカバンから取り出し、お花見をするように広げてそこに縦にしたらランプになるタイプの懐中電灯を置いて暗い船内を輝かせていた。

それを見た麗子は、この前行ったアンティークなカフェを思い出し、魅力を感じた。

はるみとカトレアも、クリスマスパーティーみたいで楽しい気持ちになれた。

まず、それぞれが互いに自己紹介し始めた。

「拓斗です。よろしくお願いします。」

「俺、博樹だ。よろしく」

「翔だよ。二人とはこの旅で仲良くなったんだ」

「私、はるみ」

「カトレアです。よろしくね」

「麗子よ」

小さく狭い船室での紹介だが、悪天候に遭遇し、目的地に行けない者同士として少し親近感が湧いてきたのか、六人とも思った

「楽しい!!」

ジュースで乾杯し、持ち寄ったポテトチップスやチョコレート、キャンディー、クッキーなどでワイワイと楽しんだ。

外の雨はどんどん強くなるが、先ほどまでの恐怖するものではなく。彼らに楽しい時間を作ってくれる笑顔のきっかけに変わったから…。

どれだけ、楽しんだのだろう。全員疲れて深い眠りに付いていた。

麗子が先に目を開けて、軽く背伸びをした。

「う〜ん、よく寝た。あら、雨が止んだようだわ。みんな、起きて晴れたわ」

みんなを起こす麗子、はるみと拓斗が目を覚ました。

「すっかり眠り落ちたわね。ちょうどいい時間潰しになったわね」

「こちらこそ、はるみさんたちと居られて楽しかったです」

博樹と翔、カトレアも続けて起きたので、六人は船外に出た。すると、暗いところにいたせいか外から放たれる日の光は眩しかった。

だけど、六人は目を疑った。

「え、ここはどこだ」

「なぜ、こんなところに?」

そこに麗子たちの車を駐めていた自動販売機のコーナーが無くなった海岸線、船の横に拓斗たち三人が停めていた自転車も無くなっていた。

それだけではない。先ほどまで見えていた県道のガードレールやカーブミラー、街灯、お店や旅館の看板などもすべて無くなっていた。

青い海と空がどこまでも続き、白い砂浜に椰子の木が立ち並び、南国特有の風に乗って珍しい花や果実の匂いが六人に送られてきた。

「オレたち、なんで南国に来たんだ!?」

「ここはまだ未開の島みたいね。人の住む居住地も山の反対側に行かないとないかもしれないわ」

「麗子さん、地形見ただけでわかるのか?」

博樹は、海岸線や山を見て推理する彼女に

海外旅行や留学経験の麗子はここが南国と言ってもリゾート地みたいな島ではないと気付いた。

「整備された道路もないし、リゾートならホテルやペンションみたいな建物があるはずよ。パフォーマンスショーのステージなんかもあるけど、どこまでもヤシの木とジャングルが広がっている。憶測だけど、ここは人が手を入れていない土地みたいだわ」

麗子と博樹が話している横で、カトレアが、

「わぁ、綺麗な場所!まるで、映画に出てくる恋人たちの秘密の楽園みたい!!」

すると翔も連れらて叫んだ。

「確かに、青い空と海が目の前に広がっているんだ。考えるのは後にして、楽しもうぜ」

拓斗やはるみも早速泳ぐ準備を初めて青いステージに飛び出そうとしていた。

「みんな、行こうぜ」

「南国ヘダイブ!!」







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