楽園50 彼方へ…
歌い終わった後は、彼らは歓喜に満ちていた。
三分ほどの曲だが、その歌に心を、これまでの日々の苦労も忘れられた。それくらいビーラブの初シングルは最高の曲だったのだ。
「みんな、ありがとうね」
由香里がお礼を言った。
リンクは無言で頭を下げるが、それは不器用な彼なりの最高のお礼なんだろう。
六人も楽園に着いてから、久しく音楽を耳にしていなかったので、今回のライブには心打たれた。
本当に素晴らしい時間だった。
「こんなの一生に一度しかないわ」
「ああ、ビーラブのライブなんて、普通なら一万円近く出さないと見られないな」
「ああ、武道館や東京ドームや京セラドームの最前列ならもっとする」
「ビーラブ万歳!!」
拓斗と翔は感動のあまりに泣き出していた。
「由香里さん、リンクさん万歳」
すると、由香里は一人づつに…
「みんな、大好きだよ」
“ハグ”のお礼をした。
拓斗、博樹、翔は大喜び、麗子とはるみ、カトレアも同性だが大はしゃぎだった。
その時、時計が、バラバラだった時計たちが同じ時刻を秒針が刻み、“ゴーン、ゴーン”と鳴り始める。
何かを合図するかのように時を告げる。それは、昼なのか、夜なのかわからないが十二時だった。
「はっ!!」
拓斗は目を覚ます。そこは見慣れた部屋だった。
「夢…?」
雨は上がっていた。
「夢か、そうだよな。ビーラブの由香里さんたちがいるはず無いよな…」
拓斗が言うと、他の皆も目を覚ました。
「ビーラブの由香里さん?」
「拓斗くんや博樹も見たの?ビーラブの由香里さんとリンクさんに出会う夢」
「私、あんなコンサートはじめてだったから、嬉しかったわ」
「私も」
「俺もだ」
全員が同じ夢を見ていたのだ。
不思議な町で、憧れのビートラヴァーズの美女歌手「由香里」とイケメンベースの「リンク・ハワード」と出逢えた。
そして、彼らが人々の心に刻んだ名曲を目の前で聞けたことが永遠に残る。ただ、その真実だけは皆同じだった。
「みんなの思いがひとつの形に、夢の中で実現したんだな。やはり、俺たちは大きな絆で結ばれているんだな」
翔がニコリと笑う。
すると、拓斗もはるみもカトレアも博樹も麗子も顔を合わせて大爆笑した。
「そのとおりだ」
「まったく、締めの言葉としては最高ね」
「アハハハ」
雨上がりの夜、皆は笑った。
ずっと…
「無事に帰れたかな。あの人たち」
由香里は見上げて言うと、リンクは
「帰れたはずさ、楽園とか言っていたから、よほど楽しく大好きな場所なんだろう」
「リンク、また、会えるかな。あの人たちに…」
由香里の瞳に涙が潤んでいた。
リンクは、優しく彼女に近づき、涙を拭い。
「会えるさ。少しのお別れさ、だから、歌おう」
リンクは左手を差し出してくれた。由香利は笑顔でこう言う。
「うん」
再びステージに登り、歌い出した。
さあ、あなたの好きな歌は、感動する曲はなんですか…?
この歌詞を好きな曲に載せてみて…。
〜夜明けだ。風の吹き荒れる時間に君の手を掴んだ。いや、僕から差し出した。
なぜなら、それが楽園への切符に見えたから、捨てたくなるような辛い毎日から逃げ出せそうだったから、
Go to the other side!!
彼方へ、君の声がする方へ、
進もう。脇目も振らずにあの場所へ、そこには今よりも、昔よりも笑える居場所があるから行こう。
永遠に…彼方へ
もし、途中でつまづいて、迷って泣いてしまっても、闇に遮られて怖くなっても自分を殺さないで、他人を殺さないで、終わらない苦しみなんて無いさ、それは自分で終わらせられる変わる事が出来るから、
GO to the other side!!
誰だって、傷はある。間違いはあるから笑い飛ばして走って行こうおおー。
最高の終着点が待っているから、彼方へ行こうよ。
Go to the other side!!!
その彼方へ、
光と楽しもう。光と笑おう。
心の底から声を出して大好きなことを叫ぼう。
それが出来る場所が僕の生きるべき場所、楽しめる世界だ〜
由香里とリンクの大熱唱が終わった。天井や床から照らされたいくつものスポットライトに、周りの観客たちに大声援を送られて二人の真のライブは終結した。
ビートラヴァーズ、略してビーラブはまさに日本の現代音楽の歴史を塗り替えたと言っても過言でないと、後世の人々に言わせたのを由香里とリンクは遠い世界で耳にして微笑んだ。
もちろん、拓斗、はるみ、博樹、翔、麗子、カトレアも一緒に…
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