楽園51  新たな発見は太古の王たち

雨の日、いや、ビーラブのライブから四日ほど経った。六人の耳にも心にも余韻は残っている。

そのせいか全員が幸せな顔で各人の作業をしていた。

「釣りに行ってくるよ」

「山菜や果物を見つけてくるわ」

「畑も少しづつ芽が出てきているぞ。じゃがいもや人参、なすび、トマトがたべられるぞ」

六人とも久しぶりの現代的な楽しみに心が踊っているのだ。やはり、人は娯楽がいっときだけでもあればやる気も元気も作れる。それだけで日常は変わる。

「Go to the other side〜」

拓斗は焚き木を拾いながら口ずさんでいた。憧れのライブを見られて興奮が今も抑えきれないでいた。

だが、少しだけ考えることがある。

(楽園は、楽しいだが、どうもおかしいんだよな。昨日のライブの夢をはるみさんや博樹たち、皆と気持ちが通じているから見るのは絆の深さや強さを現しているが、船で見つけた種や道具はもともとあったにせよ。偶然にしては出来すぎている。これから、どうなるのか?新たな楽園を、いや、王国を作り守れるのか?それとも

破滅へのカウントダウンが始まろうとしているのか?)

拓斗が考えていると、突然頭に柔らかい何かが当たる。

「え?木の実」と顔を上げると。

「作業中に余所事はだめよ」

一緒に作業をしていたはるみのふくよかなたわわが彼に激突したのだ。

「拓斗は何かを思い、考える知識がたくさんあるけど、今を楽しめたらそれでいいじゃない。不安や恐怖はあるかもしれないけどそれはその時よ。ねぇ」

はるみの優しい笑みに拓斗は、杞憂に怯える自分がかっこ悪く思い、「はい」と返事をした。

だが、何かがはじけた。

はるみには、これまでも恋愛に近い気持ちを抱き、向こうもそれを承知してくれている。だが、拓斗はそれ以上にある夢が生まれた。

(はるみさんと夫婦になりたい)

十八歳と二十四歳の六年差だが、それでも若き少年、いや、青年は南国と言う楽園で生涯をかけて幸せにしたいと願える女性ひとを作れたのだ。

「はるみさん…僕」

「え…何?」

頬を真っ赤にして言おうとする拓斗…

「はるみ、拓斗くん、また、新たな発見よ。集合して」

カトレアが二人に集合をかけた。

拓斗は「ちぇっ」とがっかりしていたが、カトレアが先に行ったのを確認したら、「拓斗」と彼を呼ぶと甘い柔らかいものを彼の唇に贈った。拓斗は大興奮して、はるみの手を繋いで走った。

彼のアドレナリンはさらに強力になったようだ。

「あ、はるみと拓斗くんが帰ってきたわ」

「遅いぞ。拓斗」

悪いなと拓斗は頭を下げながら皆の所へ向かう。そこは、カトレアが倒れた時に冷たい氷を取ってきた洞窟だった。熱帯の楽園にしては珍しく、奥の方から冷気の風吹く冷たい所だ。

ここは、翔と拓斗がたまたま狩りをしていた時に見つけたものだ。休憩がてら入ったそこはひんやりとしていて気持ちよく、しかも、奥に氷があることを発見した。それからは、食事の飲み物に氷が入り、ナイフで削った氷の粉に蜂蜜やラム酒をかけてかき氷にして楽しんだ。熱中症と日射病の対策には角砂糖くらいにカットした氷をハンカチに包んで持参した。

ろ化した川の水を箱や袋に入れて氷を補充して、穴の奥に置いた。そうすると奥から冷たい風が吹いて、自然に氷を作ってくれる謂わば天然の冷凍庫なのだ。

しかし、今回、さらに何かを翔とカトレアが発見したらしいのだ。

「前から奥がどうなっているのかきになっていてな。それで、調べてみたんだ。セノーテみたい何かあると思って、そしたら…」

そこには巨大な光が反射し、洞窟の中とは思えないくらい明るい部屋があった。

そお、天井から床まで覆われた氷壁があったのだ。しかも、手前にはセノーテと違い、地下から湧き出る水源があった。

「だけど、外と違い寒いわ」

「本当だ。南国だからって、ここは天然の冷凍庫だ」

「風邪引く」

一旦外に出る。

王国に戻り、六人は探検するための準備を始めた。椰子の木の皮を削り繊維を作り簡単な布地を作るのと同時に、船倉に眠ていた古い敷物や絨毯があり、それらを洗い太陽の当たる甲板に広げて干して乾かし、それを裁断して少し生地を詰め込んで、厚めの防寒着を作った。

これなら、多少の寒さは防げると確信していた。ココナッツミルクで作った油と蜂の巣を溶かして糸を入れた自家製キャンドルを点火し、探検に再度出発。

冷気は感じるが防寒装備でしのげる。

少しずつ進んだ六人だが、奥に行くに連れて寒さが増してくる。

「この奥に何があるんだ。氷壁に囲まれた光の世界だが、ここから先には何があるんだろうか?」

「わからないけど、謎解きが終わったら、ここならもっとたくさんの食料を保存出来るわ」

麗子が持ってきた温度計を見て言う。

今いるここだけでも、スーパーや工場にある業務用冷凍庫と同じくらいだ。

「魚や貝を何日も新鮮な状態にして、寿司や刺し身、鍋には困らないな」

「果物はたくさんあるから、シャーベットも作りたいわ」

「ラム酒やこないだから作っている野葡萄のワインもいつでも美味しく飲めるわ」

そんな話をしながら、中を進むと拓斗があるものに気付いた。

「みんな、それも可能性があるけど、一大エンターテイメントも味わえるよ」

ココナッツランプを前に出すと、そこには…

「嘘」

「まじかよ」

「本当に現実なの、これは…?」

言葉を失うくらいの何かがあった。

それは、氷壁の中に眠る太古の世界に地上に君臨した王者たちだった。

「マンモス」

氷壁の中に巨大なマンモスが眠っていた。いや、仁王立ちのようにして立ち尽くしていた。

太古の世界に人類が狩り尽くして絶滅したマンモスが、六人の先祖も石槍や石斧などの石器で狩っていたであろう巨大な獣の王が…

「ペルーでは、インカ帝国の生け贄にされた子供のミイラがそのままの姿で発見された話は聞いたことがあるわ」

はるみが、あまりにも巨大な氷壁に眠るマンモスにあっけに取られているが、マンモスだけでは無かった。

「見てくれよ」

「あれって」

マンモスの隣には、マンモスを狩ろうとしたのか、三匹の黄色い毛皮をした獣がいた。

「サーベルタイガー」

巨大な牙が特徴の虎の先祖であるサーベルタイガーがいた。

「このサーベルタイガーたちはマンモスを狩っている時に一緒に氷漬けになったのかな?」

「そうみたいだけど、まるで、博物館の展示品解説のジオラマみたいだわ」

麗子と翔は不思議そうに見ていると、カトレアが、

「あっちにも何かいるわ。熊さんみたいなのが」

カトレアが見つけたのは、マンモスと同じくらい巨大な身体の怪物だった。

「メガテリウムだ。大昔のナマケモノだよ。しかも、隣にはゴリラの先祖ギガントピテクスが…」

メガテリウムにギガントピクテスと相次ぐ太古の巨大生物たちには、度肝を抜かれた。

「SF映画のワンシーンみたい」

「よく、クローンや遺伝子組み換えやらで絶滅した生物や人間を復活させたり、改造しようとするようなシーンの」

「あるある。それで、復活して襲いかかってくるのよね」

だが、さらに驚くものがあった。

「マンモスたちだけでなく、まさか、彼らもいるなんてな」

「おい、ここは氷壁の冷凍庫なのに、なんで、こんなにいるんだよ?」

氷壁の中に、白亜紀を代表する恐竜たちがいた。

「ティラノサウルスにトリケラトプスの対決って恐竜図鑑の王道テンプレかよ」

ティラノサウルスに戦いを挑む三本角のトリケラトプスのバトルシーンだ。

「ブラキオサウルスにステゴサウルス」

「アロサウルスまでいるわ。ギガノトサウルスも」

かつて、人間が地上に現れるまで君臨した王者たちが氷壁にそのままの姿でいる。化石でもない。レプリカでもない。

その時代を生きた者が現代にタイムカプセルのように現れたのだ。

天然の冷凍庫と思っていた場所、そこは、太古に栄華を誇った者たちが眠る王墓だったのだ。





















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