楽園6  パラダイスアドヴェンチャ 

六人はそれぞれの用意していた水着に着替えて、白い砂浜を海風に抱かれて駆けた。

そして、遠い水平線の彼方を見つめながら、ゴーと指差して海に飛び込んだ。“ザッパン”と大きな音がそこら中に響き渡り、お互いに水を掛け合う。

「そりゃ」

「やったな」

翔が博樹の顔にかけると間から麗子が割って入り、二人を頭から水面に付ける。

「ずるいわ!!私も混ぜなさい」

突然のお姉様の攻撃に二人は、目を輝かせて再度おねだりした。麗子さん、もういっかい。など陽光に光る真夏の海に現れたマーメイドにお願いすると彼女は何度もかけてくる。

拓斗もはるみとカトレアの近くまで潜り、浮上と同時に波しぶきをかける。

「きゃあー!!」

拓斗はあははと笑うと、コラーと追いかけてお仕置きに波に頭を掴んで沈める。苦しさにギブアップしてごめんなさいと謝るが、はるみは五回連続で沈めたは、“わかればよろしい。”と許す。

カトレアも横でキャハハと笑うが、皆でニコニコしていた。それは今が最高に楽しいからだ。

誰も知らない南国の島、青い世界に六人だけの笑い声が響き渡る。

やがて夕暮になり、六人はキャンプの用意をする。

浜に流れ着いた流木を砕き、石を集めてかまどを造り、拓斗が持っていたメモ帳から一枚ページを取りマッチで火を点けて焚き火を起こした。海に沈む太陽が放つ夜が来る瞬間を見ながら、赤い炎を囲む六人はほんの二時間前に出会ったとは思えないくらいにフレンドリーに楽しんでいた。

「イェイー」

翔と拓斗が焚き火を振り回してファイヤーダンスをする。博樹が丸太を叩き太鼓やボンゴみたいに音を出して三人の美女を喜ばせる。その明かりと奏でる音は楽園が彼らだけを歓迎しているようだった。

散々騒いで楽しみ、疲れたのか砂浜にシートを敷いて横になり、身体を休めた。

“楽しいな。突然やって来た南の島とは言え、ここは心から安心して楽しめる楽園だ”

拓斗は頭上に輝く星空の天蓋を見渡して、隣で眠る博樹と翔の親友二人と出会ったばかりだがともに楽しめる麗子たちの寝顔を見て幸せな気持ちになる。

日本の自分の町にいた時は、家族や友達とギクシャクし、好きな女性に冷たくされて正直何もかも嫌になっていたが、幼馴染の博樹と再会し、たまたま出会えた翔とも仲良くなり、何よりもはるみに麗子、カトレアと言う六歳年上の美女と楽しい時間を過ごせることになり嬉しいし、嫌になることなど考えずともいいので心を縛っていた鎖が外れて全身が軽かったのだ。

拓斗の前に一匹の蛍が現れ、彼の前を飛び、闇の向こうにある何かに誘う。

(なんだろう?)

拓斗は、そ~と蛍のあとを追う。

茂みの向こうにある何か、幸い月夜で星の輝きで周りは多少明るく見えたので、ゆっくりと付いていく。

やがて、眼下に巨大な入り江が広がっている場所に着いた。蛍が案内してくれたのか、拓斗は目を奪われた。まるで街角ですれ違った美女に一目惚れするかのように、

「綺麗…」

その時、身を乗り出し過ぎて崖から落ちそうになった。

「わぁ」

「おバカ、何やっているの!!」

はるみが拓斗の左手を掴み身を助けた。

「はるみさん」

「夜にうろつくなんて、何考えているの?ここは楽園とは言え、未開の島なんだよ。死んだらどうするの!!」

はるみに厳しく叱責させれる。

彼女の言うとおり、ここは整備されたリゾート地ではなく迷い込んだ異世界でもある。なにがあるかわからないから気を引き締めねばならない。

「ごめんなさい。綺麗な蛍に誘われて…」

「え?」

はるみは、拓斗が指差す方に瞳を動かす。

闇夜のそこには、空に光り輝いている星がそのまま地上に舞い降りたかのように、岸壁やそこに生える植物、いつからあるのかわからないが座礁した難破船か何かにもたくさんの蛍たちが留まり、湾岸都市のよいな夜景を造っていた。

「綺麗ね。蛍たちが素敵なプレゼントをくれたのね」

「うん、ここは光の世界、大自然が作った光の、夜の芸術だ」

拓斗が柄に無く冗談を飛ばす。

闇夜の二人だけの寝室、拓斗とはるみが腰を降ろして眺めていると、難破船が、何かに変わった。

それは、闇夜を光輝く満艦装飾した戦艦や巡洋艦、駆逐艦、空母、潜水艦など今はもう日本にないものたちだった。

そして、聴こえてくるのは海軍曲だ。

「守るも攻めるも黒鉄の」

拓斗が歌うのは有名な軍歌だ。

「古い歌ね」

はるみが問いかけると、拓斗が

「僕のじっちゃん、昔連合艦隊を間近で見たって言っていたな」

拓斗がふいに呟く。はるみが聞き返す。

「連合艦隊?」

「うん、戦艦大和や武蔵を中心にした大日本帝国海軍の誇る艦隊だよ。僕と同い年の時に海軍の伊号潜水艦に乗艦していて、ちょうど、ラバウルに差し掛かった時に、洋上に停泊していた時に、旗艦大和を始め連合艦隊の主な艦船が勢揃いしていたんだ。今でも話す時は興奮して言うんだ」

拓斗の祖父の一(はじめ)が、少年兵として志願し、厳しい試験を通過して海軍の隠密任務の潜水艦に乗艦していた。ラバウル小唄でも有名な場所は南国の楽園で、かつては日本の主要な基地があった。日本が誇る零式艦上戦闘機「ゼロ戦」が配備され、坂井三郎氏など数多のエースパイロットが活躍した地だ。

ちょうどミッドウェー海戦の半年前に一が乗る伊18号は秘密任務のためラバウル島の近くに立ち寄った時、艦が一時だけ浮上した時、当時の日本、いや世界一の大戦艦「大和」と停泊していたのだ。それに付き従うように長門や比叡、陸奥、空母の赤城や加賀、飛龍など連合艦隊の多くの艦艇が巨大な都市のように浮かんでいた。一少年はその黒鉄の城たちに心を奪われた。そして、若さゆえか“日本が勝利するという確信や信念を疑わなかった。”と度々拓斗に話していた。

「じっちゃん、元気にしているかな」

ぽそりと呟く彼をはるみが優しく包み込むように抱きしめた。









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