楽園48   涙化粧の先に光る

楽園にスコールが降る。熱帯雨林特有の恵みの雨と言われている空からのプレゼントが王国に降り注ぐ。

六人は船や家で雨音を聞きながら読書や昼寝、チェスや将棋、トランプなどで時間を過ごす。歌にある雨が降ったらお休みだ。

「雨なんて久しぶりだな」

「前に降ったのが一週間前だからな」

「楽園にはじめて来た日みたいに嵐にはなってほしくないわね」

「カトレアさんの言う通りだね」

「雨音を聞きながらの時間もまた風情、原点を思い出すのも良き良き」

楽園に来てからどれだけの時間が経ったのかわからない。色々と危険な目や恐怖を味わったりもしたが、それでも毎日が今の時間にも不満がない。もとの現代日本の自身たちが暮らしていた生活に戻りたいと思うこともあまり無くなかった。なぜなら、ここには自分たちだけの時間と場所があるからだ。

それは、誰にも邪魔されず壊されない王国だからだ。

学校や会社も、職歴や学歴もない、家柄も才能も言われない。

真の平等な場所だからだ。

「日本にいたら、中々作れないもんな」

法律や憲法、常識、マナーや伝統などあらゆるものが存在する現代社会、それらを遵守しなければ無法者扱いされ、淘汰されたり、疎外される。

文明社会を守るのに必要なことだが、どこか息苦しく感じる。

だが、先日のカトレアの急病のように、突然の病気や怪我をしてもすぐに回復出来るかと言えば、それは状況にもよる。なぜなら、満足な治療法や薬、医療設備も無い、医師や看護師も薬剤師もいないから手術やリハビリなどは出来ない。

気休め程度の手当てしか無理だ。だからこそ、健康には気を付けねばならない。

「徳川家康様も健康オタクで、かなり気を使い、家来たちに石鹸を渡していたらしいぜ」

「マジか?」

「本当なの?」

「おかげで、戦場で病気したり、破傷風になったり、感染症で亡くなる人は減ったらしいよ」

拓斗の雑学はつまらないが、退屈を紛らわす時は役に立つ。

蛇足だが、とうの家康は健康に気を付けていたが、最期は鯛の天ぷらの食中毒で亡くなったらしい。

さて、雨が強くなり雨音のコンサートもいよいよフィーナレに近づいているようだ。

拓斗、博樹、はるみ、翔、麗子、カトレアは何も考えずに横になった。なぜなら、こんなコンサート会場は本来なら一万円以上はするチケットを買わなければ聞けないからだ。それが無料だから、嬉しい。

顔を見合わせて笑う六人はそのまま目を閉じた。

やがて、一人づつゆっくりと目を開けた。

そこには、ある景色が広がっていた。

船の外の雨はさらに強くなり、まるで、涙雨のようだった。

「どこだ?ここは?」

青や水色、緑色に光る謎の町、どこか時間が止まった世界のような場所に来ていた。工事現場の足場みたいな鉄骨の階段や橋に時間がバラバラに刻まれた時計、照明など不思議な場所だった。

「どこだろう?」

だが、不思議な町だが、恐怖はなかった。反対に探検したいと好奇心が強くなった。子供が公園やテーマパークで遊ぶかのように、六人は町の塔に登ったり、水路を覗き込んだり、橋を渡って町を見下ろしたり、空を眺めたりなど時間の限り楽しんだ。

「遠足や修学旅行みたいだね」

六人はノリノリで探検していたが、服装が学生服やセーラー服、ブレザーに変わっていた。

「やだ、少し恥ずかしいわ」

「本当、学生時代を思い出すわ」

はるみ、麗子、カトレアが当時の制服を着込む、だけど、サイズが少し小さく成長した身体は合わずピチピチだった。

拓斗たちは、すでに同い年や一、ニ歳上の上級生女子ではなく年上彼女が無理してコスプレするラブコメの王道のように感じていた。

(眼福だよな)

(ああ)

(最高だよ。はるみさん)

橋を渡り、次の時計台に登る少年三人は次に見える景色に胸踊らせていた。

蒼穹の彼方まで見渡せるくらい巨大で高い時計台だからだ。

「スカイツリーや東京タワーみたいだな」

「あべのハルカスを思い出すな」

「ランドマークタワーも負けてないぜ」

拓斗たちは、女性陣をエスコートしながら、進む。ちなみに、はるみたちは衣装チェンジしていた。

「やはり、こちらがいいわ」

はるみは赤のジャージでポニーテールの体育教師、麗子はスカートに白のブラウスの数学教師、カトレアは白衣を纏った保健室の養護教諭だ。

「やっぱり、年上女性と年下男子の旅行ならこうね」

「さあ、みんな、行くわよ」

「遅刻したら、赤点よ」

はるみとカトレアは、スイミングのインスタントラクターと小学校教師だからかなり、様になっている。ちなみに、麗子も入社してから十人は新人社員の教育係をしているので教えるのも出来る。(蛇足だが、何人かは営業所の所長や子会社の専務や副社長になっている)

屋上に辿り着く。すると時計台の真上に大海原のように青く輝く青空が広がり、足元には地球の中心まで行くかのような深い青色の螺旋階段が広がっていた。
















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