楽園63   王虎

密林から現れたのは、巨大な鋼鉄の塊だった。マンモスたちはそれを見てまるで宇宙怪獣でも現れたかのように悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすように山の方に逃げて行った。

「すごい。あっという間に古代獣たちを追っ払たわ」

「って、あれ、戦車だよな」

「なんか、陸上自衛隊の基地の祭りとかで見る91式戦車みたいだけど…?でも、何か古い型のだな」

その戦車は、プラモデルなどでも見たことがあるものだった。すると、コクピットのハッチが開き、内部から、

「よお、皆、大丈夫か?はるみさんとカトレアさんも降りてきて」

拓斗がひょっこりと現れた。

「拓斗!!!」

「これは、いったい?」

「そのでっかい戦車は、何なんだ?」

拓斗とその車体は、迷彩柄が施された車体に巨大な無限軌道キャタピラに天空まで砲火が届きそうな砲身。

「私と拓斗が基地の隠れ部屋みたいな所で見つけたんだ」

「僕も初めて見たよ。これは、ドイツが大戦末期に開発した重戦車「王虎キングタイガーだ。主にエジプトのアフリカ戦線やロシア戦線、ベルリン攻防戦で大活躍したドイツ軍の最高傑作だよ」

キングタイガー、プラモデルや戦争映画や漫画には出てくる有名な重戦車だ。ドイツ軍は第二次世界大戦中に虎、豹、巨象などの名前をつけた戦車が戦場で大暴れしていた。今、目の前にタイガーが、王虎の名にふさわしい車体がいる。

しかも、それが王国を守ったのだ。

「拓斗と私で出来るだけ整備したけど、ここまで快調に動くなんて思わなかったわ」

二人の共同作業で、眠っていた王虎に魂を与え、そして、戦いに勝利を収めた。

「だけど、なんで、ドイツの重戦車がこんな島に隠されていたんだ?ドイツから遠く離れたこんな島に?」

「どうやら、戦争末期に日本軍がドイツから本土決戦のために購入したらしい。僕らが海底で閉じ込めたられたUボートは日本までこれを運ぶためにはるばる来たみたいだ」

拓斗とはるみが暗い海の底で一時消息不明になりかけたあのドイツ潜水艦はこのキングタイガーを日本に運ぶためにやってきたのだ。基地で最終整備をして本土に向かう手筈だったが潜水艦が空襲に遭い沈没してしまい、それ以来七十年以上、人知れずにこの楽園の基地で眠っていたのだ。そして、今日、拓斗とはるみが生命を与えて武器となり蘇った。

「本当なら、東京に運ばれて日本の重戦車造りの礎になるか、沖縄や硫黄島でアメリカ軍と一線交えるのが任務だったが、楽園で人知れずなんて、だけど、そのおかげで僕らはマンモスたちと戦えた。これからは、どんな脅威があっても、王虎が王国の守護神になってくれる」

拓斗がキャタピラーを触り言った。

他の皆も、強い味方に、いや、新しい仲間に歓迎と祝福を贈った。激しい戦闘の疲労で皆は深い眠りについた。

拓斗とはるみは、王虎の中でともに眠った。これまでは戦時と無縁の日本で暮らす十代の男子学生と二十代の普通の女性社会人をしていたのだ。それが、いきなり、戦車や戦闘機を駆り、謎が多いが美しく生きやすい楽園に王国を創り、護るために戦うことになるなんてほんの数日前までは思いもよらなかった。

だが、若き夫婦たちはひとつの確信があった。

それは、迫りくる脅威に、古代の怪獣たちに優位になったと。










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