楽園2  新しい仲間

どれだけ走ったのかわからない。拓斗と博樹は、気が付けば目的地の町に向かう海岸づたいにずっと南に伸びる県道を潮風の中走っていた。

ガードレール越しに見る青い海と空、照りつける太陽が眩しく。

街路樹として立ち並ぶ椰子の木が南国の雰囲気を出していて、まるでハワイやサイパンの道路を走っているようだった。

「行ったことあるのか?」

博樹の問いに拓斗は「ない。漫画や映画で見ただけだ」と胸を張って言った。

だろうなと博樹は苦笑いをしながら、ため息をつく。拓斗は昔からたまに漫画やらアニメ、時代劇のネタをところかまわず言う変わった癖があった。本人は冗談のつもりだろうが、周りは振り回される。

「まあ、そうだろうと思ったけどな」

しばらく行くと、自動販売機のコーナーが見えて来た。

二人は、自転車を停めて休憩所で一服することにした。ジュースを買い、家から持ってきたお菓子の封を開けた。

「マップでもう一度確認しておこう」

「ああ、この自販機コーナーを通りすぎて、さらに海岸線に沿って進めば夕方には到着するな」

進路を確認していた時、一台の自転車がやって来た。

「キーキ」とブレーキ音がし、二人の前に一人の少年が現れた。

「ご免なさい。少しいいかな?」

彼はヘルメットを脱いで、初対面の二人に対して物怖じせずに声をかけてくる。拓斗は「何か?」と返した。

「白糸屋と言う旅館はこの道を進めばいいかな?」

その名前を聞いた二人は、驚いた。

「知っているも何も俺たちもその白糸屋に進んでいるところさ」

「休憩しながら、打ち合わせ中さ」

「へぇ、偶然だな。失礼だけど、二人ともどちらから?俺はかける、富山翔だ。吉川市から来たんだ」

「俺は、難波博樹、生まれは北橋町だが、今は東京の深川に住んでいる。よろしくな」

「俺は加賀拓斗だ。北橋町在住の高校三年、博樹とは幼なじみでこないだばったり再会したんだ。夏休みの思い出に白糸屋までサイクリングしようって」

「おお、すごいな。俺と同じで

高校最後の青春旅行みたいなところか?」

「失礼だけど、翔も高三なのか?」

「ああ、吉川南高校の三年だ」

「全員花の十八歳だな」

拓斗、博樹、翔、同い年と言うこともあり、初対面でもすぐに仲良くなれた。

翔が、白糸屋に行きたいのは、部活の合宿で利用したことがあり、その時仲間と楽しんだからだ。高校卒業後は、県外に進学予定なので、夏休みの思い出作りにやって来たのだ。

博樹は、ある提案をする。

「翔も目的地が一緒なら、このまま三人で白糸屋まで行かないか?

「え、でも、博樹と拓斗は二人で計画練ってきたんだろう。いいのか?」

拓斗も賛成だった。

「行こうよ。旅は道連れ、世は情け。多いほうが楽しいよ」

翔は二人の誘いに、心から喜んだ。

新たな仲間が加わり、拓斗、博樹、翔は白糸屋の目的地に向かい、それぞれの愛車にまたがり、ペダルを漕ぎ始めた。

三人の少年は、海岸をまっすぐに進んだ。

時刻は昼前、海から来る風は背中を押してくれる。どんな夏を少年たちにプレゼントしてくれるのだろうか。

しばらく行くと、砂浜の近くであるものを見つけた。

「おい、あんな所に船が打ち上げられているぞ」

拓斗が、指差している先には、古くなった漁船が打ち上げられていた。船体には錆びが目立つがそれでもまだつい最近この場所に流れ着いたものと思われる。

三人は、興味しんしんに漁船に近づき、何かの調査員みたいに調べだした。

「かなり古い船だな。この浜に捨てられて五年か六年は経っていると思うぞ」

船内の汚れや朽ち方を見て、翔がいつぐらいからここにあるのか推測する。

「翔、これ見ただけでわかるの?」

拓斗がなぜ、そのように思えるのか彼に尋ねた。

「家の手伝いで、掃除したりしていると、物置の隅とかに野菜や果実を置いたままにしていて傷んだらカビが発生するだろう。俺ん家の物置は昔ながらの木造だから、前にそれで床が真っ黒になったことがあるんだ」

拓斗と博樹は、翔が自分たちより大人に見えた。学校以外で掃除するなんて滅多にないからだ。せいぜい年末に自分の部屋に掃除機をかけるぐらいだ。

その時、外が急に暗くなり、三人の耳にものすごい雷鳴が入ってきた。

「うぉ、何だ」

「さっきまで天気良かったのに、急に変わったな」

拓斗と翔は、舷窓から外の様子を見て驚いた。自宅を出る前に確認した天気予報で今日は晴天で、暑くなるとあったのに、突然、嵐のような空になった。そして、次の瞬間にものすごい大雨が降りだした。

「しばらく、この幽霊船にお世話になるか」

三人は、愛車を船の中に入れて雨宿りをすることにした。船内は窓が開いていても閉めきった空間なので湿気がひどかった。

「暑い、まるでサウナだ」

「倒れそうだ」

博樹と翔は、リュックからタオルを取り出して額から流れる汗をしきりに拭きながら、暑い暑いと口に出して言う。

「二人とも飲んで」

拓斗が自転車に付いているカバンから、冷たいペットボトルのスポーツドリンクと炭酸飲料を取り出して、紙コップに注いでくれた。そして、ポテトチップスやクッキー、煎餅、チョコレートなどを開封して広げた。

「雨が上がるまで、ここでプチパーティーしようぜ」 














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