ライオン(51番 ネコ目ネコ科ヒョウ属ライオン)

第35話 うちのこをさがそう

 そして夜も更けて。


 私の隣で目を閉じていたヘラジカ(クジラ偶蹄目シカ科ヘラジカ属ヘラジカ)が、不意に目を開けた。


「遅い……! 遅すぎる!」


 ……うん。確かに遅いと思うなぁ。


 あ、ヘラジカが遅いって言っているのは、オーロックスとアラビアオリックスを探しに行ったシロサイとハシビロコウ。それからパンサーカメレオンのことだよ。


 近くにいるはずだーって、ヘラジカが言って、みんなでそうだなーって意気投合して、探しに行こうーって、なったんだけど……誰も帰って来ないんだよね。


 待ち合わせにした場所は分りやすいし、迷うなんてことは無いと思ったんだけど……やっぱり何かあったのかなぁ。


 でも、夜だし、暗いし……うーん。

 って、私があれこれ考えていたら、ヘラジカがむむむっと唸って言ったんだ。


「やっぱり、私が行った方が良かったのではないか?」

「まぁまぁ、落ち着いてさ。もう少し待とうよー」


 私は、ふわぁーっと、あくびをしながら、なだめた。

 ヘラジカの気持ちは十分わかるし、心の中じゃ、同じくらい焦ってはいたんだけどね。


 ……えっ、私が誰かって?

 もちろんライオン(51番 ネコ目ネコ科ヒョウ属ライオン)だよ。


 いやー、まいったまいった。

 このゲーム、とんでもないね。

 だってさ、『ゆうえんち』から出た瞬間、サバンナシマウマとアクシスジカが風船を潰されて倒れてるんだもん。

 誰もゲームに乗るなんてこと、想像もしてなかったから、ほんとにびっくりしたよ。


 で、ちょっと大失敗しちゃった。


 あのね。私が『ゆうえんち』を出たのは、大分最後の方で、残ってたのはセリリアンハンターのリカオン、それから助手とPPPぺパプのプリンセスしかいなかったんだ。


 だから、他のグループと合流する良い機会だったのかもしれないんだけど……

 出てすぐ見た光景にびっくりした私は、とにかく、へいげんちほーのみんなと合流しないとって、走ってしまったんだよね。


 だから、誰とも、他のどことも話が出来なかったんだ。


 まぁ、それはそれとしてね。

 目的地に到着した私は、すでに着いてたヘラジカ達と合流して、この場所で他の仲間が来るのをずっと待ってたんだけど……

 その間、何度も腕時計が作動するパンって音が聞こえたし、放送でどんどんフレンズが減っていってるってのも聞いた。


 トキの歌も聞こえてて、迎えに行った方が良いよーって話と、まだ全員と合流できてないし行くのは危険かも―って話が出て。


 まぁ、それでもヘラジカと私が「行くべき」って言ったら、みんなも行く気になったんだけど。


 誰が行くか決めている内にトキの叫び声が聞こえてね。

 その後すぐ放送でトキの名前が呼ばれて、みんなでガッカリしたってこともあった。


 なんだか、すごい雲行きが怪しい。

 私たち、いったいどうなるんだろう。


 放送で、へいげんちほーの仲間も呼ばれてたから、嫌な予感はしてたんだ。

 最初の放送でオオアルマジロ。夕方の放送でニホンツキノワグマ、それからアフリカタテガミヤマアラシ。


 もう、三匹もいない。

 私とヘラジカと……へいげんちほーのみんなで集まって、モツゴロウをやっつけようって作戦を立てるはずだったんだけど、仲間がどんどん減って行ってる。

 はやく、何とかしないとなー。


 うーん、でも、どうしよう。


 と、その時、ヘラジカが私に言ったんだ。


「やっぱり落ち着いてなんかいられない。なぁ、ライオン。私たちも探しに行かないか?」

「おおー、それは名案かもしれないねぇ」


 でもでも、それはちょっと待ってね。


「だけどさ、もし、私たちが探しに行って、その間にみんなが帰ってきたらどうする? 心配されそうだし、いやだなぁ」

「む、それもそうか」


 ヘラジカがむむむっと黙った。

 きっと、どうすれば良いのか、一生懸命に考えているんだと思う。


 ……全くもう、しょうがないなぁ。

 長期戦になりそうだし、あんまり疲れることはしたくなかったんだけど、まぁ、しょうがないか。

 わたしは胸を張ると、言った。


「だったら、ヘラジカは留守番しててよ。私が行ってくるからさぁ」

「……ほう?」

「ヘラジカが留守を守ってくれたら、安心だなって」


 ヘラジカはそれを聞くと、トンっと自分の胸を叩いた。


「うん! そうだな! そうしよう! ここは任せておけ! 頼んだぞ、ライオン!」

「はいよー!」


 そんなわけで、探しに出たんだけど……とりあえず山を下ろうかー、ってしばらく歩いてた。

 暗い道をてくてく。


 うん。こんな暗い夜だからねー、もし迷ってたらはやく助けに行かないと。

 って、そんなことを思ってたら、何やら大きな建物が。


「『たてもの』だ。木で出来てるみたいだけど、まさかこんなところにはいないよねぇ」


 いや、誰かいるかもしれないし、一応、見てみよう。

 そろりそろりと、建物に入って、奥に進んでみる。


 ……お? なにやらドタバタ争った形跡があるねぇ。


 ひっくり返ってるテーブル。

 足跡が複数。

 どったんばったんしてたのかな?

 暗いし、入り乱れてて、誰の足跡なのか良く分からないや。


 いや、とにかく奥を見てみよう。

 慎重に、慎重に……


 そろり。


 そろり。


 そろりッ。


「……やっぱり、誰もいない?」


 それもそうか。

 例え誰かがいたとしても、これだけどったんばったんした形跡があるなら、いつまでもこの場所にいるはずがないよね。


「じゃあ、外に……えっ?」


 その時、私は見つけた。

 油断してたから、驚いて飛び上がってしまった。

 暗かったし、黒かったし、ほんとにびっくりした。


 そこには、ニホンツキノワグマ(39番 ネコ目クマ科クマ属ニホンツキノワグマ)が倒れてたんだ。


「つ、ツキノワグマ? なんで、こんなところに?」


 私は近づいてみた。

 ぐっすり眠っているようで、起きない。


 うん。

 やっぱり風船がぺしゃんこになってる。

 よく考えたら、夕方の放送で名前を呼ばれていたや。

 そうか、こんなところにいたのか……ツキノワグマ……


「ここで、何があったんだろう……本当に」


 私は、その近くに倒れていた、アフリカタテガミヤマアラシ(03番 ネズミ目ヤマアラシ科ヤマアラシ属アフリカタテガミヤマアラシ)も見つけて、ちょっとパニックになっていた。


 この二匹が、争うなんてことは考えられない。

 だって、同じへいげんちほーの仲間じゃないか。

 お互いが認識しあっていたのなら、絶対に潰し合いなんかしない。

 だとすれば、考えられることは一つだ。


「うちの子に、手ぇ出した奴がいるってことだよね?」


 ……許さないよ。絶対に。

 誰がやったか、手掛かりを探さないと。


 と、探してたら部屋の中をにじゃぱりまんが入ったカゴを見つけて、お腹がグーっと鳴ってしまった。


「とりあえず、食べようかな。丸一日、何も食べてなかったし」


 空腹も限界だった事に、初めて気づいた。


「ヘラジカも、お腹空いてるよね。持って行ってあげないと」


 私はじゃぱりまんをモグモグ食べて、それから持てるだけ持って『たてもの』を出ることにした。

 きっと、お腹を空かせてヘラジカは限界だ。


 カゴごとじゃぱりまんを……と思ったんだけど、流石に止めておく。

 そんなにたくさん持って行っても、全部は食べきれないし、持って歩いてたら目立ちそうだし、急に襲われたら、咄嗟に動けないかもしれないし。


 で、建物を出た瞬間、遠くで誰かの声がした気がした。


 ……誰かいる?

 近くに生えているたくさんの木々の葉が風でざわざわと騒いで、わたしはとっさに警戒態勢を取った。

 腰に付けた風船に目をやって、周囲の気配を探る。


 ……いる。

 確実に、誰かがこっちを見ている。


「誰かいるの? 誰かいるんだよね?」


 返事はない。

 私は風の中に、見知った誰かの匂いを感じた気がして、その方向へ歩くことにした。

 もちろん、いつ、どの方角から襲われても動けるように、警戒しながら、そろり、そろりと。


 でも、私は何かピンと張ったツルに足を引っかけてしまって、転びそうになった。

 遠くで何かが落ちる音。

 そして、誰かがいると言う、決定的な音。


「……君は、誰だい?」


 声。

 フレンズの、声。

 暗い森の中で、私と、その誰かの声だけが響く。

 私は、威厳のある声で答えた。


「私はライオンだ。そっちは、誰だ?」


 意外にも、相手は答えてくれる。


「私はタイリクオオカミ(34番 ネコ目イヌ科イヌ属タイリクオオカミ)だ。潰し合いをする気は無いよ。でも、そっちがやる気だって言うのなら、全力で戦わせてもらう」

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