オカピ(15番 偶蹄目キリン科オカピ属オカピ)

第31話 ふたりなら、やれるよ

 キリンなの? シマウマなの?

 どっちでもないよっ! オカピだぞー!(15番 偶蹄目キリン科オカピ属オカピ)

 

 そんなわけで、私たちは夜になってから走り始めました。


「サーバルちゃん、ほんとにこっちで合ってるの?」

「多分だけど、こっちに行けば大丈夫!」


 サーバルちゃん(27番 ネコ目ネコ科ネコ属サーバルキャット)は、私の手を取って、どんどん進んでいきます。


 ……今、なんでサーバルちゃんと一緒にいるかって言うと、それはちょっとわけがあるんだ。


 まず、ゲームが始まって、モツゴロウと黒いでっかいボスにゆうえんちの外に出されたんだけど。

 でも、遊園地の外に誰もいなくて、私、怖くなっちゃったんだ。


 どこかから、誰かに狙われている気がして。だから、自分がどっちに向かっているかもわからないで、走って。

 で、疲れてもう動けない―ってなったから、草の中に隠れてたんだ。


 そしたら、そこにサーバルちゃんが来てくれた。

 サーバルちゃんも怖い目に遭ったみたいで、それでどこかから走って来たみたい。


「た、食べないで!」

「た、食べないよ!」


 なんて、最初に会った時、サーバルちゃんには食べられるかと思った。

 自分が臆病で、それで、必要以上に怖がっていたんだって今なら思えるけど、あの時は怖かったなぁ。

 怖すぎて、自分の風船が潰される前に、潰さなきゃ……とすら思い始めちゃってたもん。

 だけど、サーバルちゃんはにっこり笑って、私にこう言ったんだ。


「あは、あははは! かばんちゃんみたい!」

「か、かばん、ちゃん? あなた、だれ?」


 そう言えばサーバルちゃんが他の子と歩いてるの、見たことあった。

 ちょっと前にじゃんぐるちほーで、ボスと、何の動物かも分からないフレンズと一緒に歩いてた。

 その時、ちょっぴりだけど、お話したっけ。


「私、サーバルキャットのサーバル! あなたは、えっと、そうだ、オカピ!」


 わたしを覚えててくれた。

 サーバルちゃんは、暗く沈んでた私の気持ちを、明るい方へ変えてくれたの。

 すごいなぁ。

 このゲームの中で、あんなに前向きになれるんだもん。


 それから、一緒に、お話して、それで夜まで待ったんだ。

 動き回るのも危ないって、私が提案したからなんだけど。


 で、夜になって、モツゴロウの放送が終わってから、走り出したんだ。

 潰し合いをしない仲間を探そうって、相談して。

 まずは、かばんって子を探そうって。


 ……で、今、走ってるんだけど、ちょっと疲れて来ちゃったな。

 サーバルちゃん、走るの早いし、すっごいなぁ。


「ねぇオカピちゃん!」

「え?」


 走りながらサーバルちゃんが、私の名前を呼んだけど……オカピちゃん?

 名前に、を付けてくれた?


「もう、お友達だからいいでしょ? オカピちゃん! ね、一回だけ一休みしよっか。ずっと走ってたら、疲れちゃうし」

「う、うん!」


 嬉しくて、心があったかくて。

 私はサーバルちゃんの手をぎゅって握って、それからふたりで隠れるところを探したんだ。


「でも、サーバルちゃん。ゆうえんちの方に行かなくて良いの?」

「何が?」

「かばんちゃんを探さないとって、言ってたじゃない。入り口で待ち合わせしてたって」

「うーん」


 サーバルちゃんは少しだけ唸って、それから言ったんだ。


「でも、ゆうえんちの近くにはもう、いないと思うんだ。私が出た時も、アクシスジカが暴れてて……あそこ、すっごく危ないから」

「……そっか。アクシスジカ、ゲームに、乗っちゃったんだよね? それから、モツゴロウの放送でも名前、呼ばれてたけど、これってゆうえんちの入り口で潰し合いが起きちゃったってことだよね」

「うん。でもね、私、アクシスジカも怖かっただけだと思うんだ。だから、この後、モツゴロウをやっつけて、ゲームが終わった後も、責めないであげてね」

「そうだね」


 私も、アクシスジカの気持ち、わかる。

 自分より強い動物、いっぱいいるし、もし、そう言ったフレンズに自分の風船が狙われたらって思うと……


「でも、サーバルちゃん、すごいなぁ」

「え、なんで?」

「だって、こんな状況なのに、もう、モツゴロウをやっつけた後のこと、考えてるんだもん」

「ふふーん! だって、かばんちゃんの名前は放送で呼ばれてなかったから、これって無事ってことでしょ? だったら、まだ希望はあるんだよ! きっと、かばんちゃんなら、一緒に戦ってくれるよ! だから、探して、会ってからみんなでいろいろ考えよ!」

「……そうだね、サーバルちゃん!」


 サーバルちゃんは、きっとかばんちゃんって子のこと、信じてるんだ。


「えへへ、かばんちゃんはすごいんだよ! 誰も考えつかないこと、いっぱい考えられるの! 素敵なけものなんだ!」

「そうなんだ」


 ちょっぴり、嫉妬しちゃうな。

 でも、サーバルちゃんがそんなに言うなら、きっとモツゴロウと戦える方法とか、いろいろ考えついてくれるよね!


 かばんちゃん、じゃんぐるちほーで会った時は、少ししかお話ししなかったけど、一回、じっくりお話してみたいなぁ。


「でも、オカピちゃん、私と一緒に来てくれてありがとう!」

「え?」

「私、オカピちゃんと一緒なら、ふたりなら、きっとやれるよ。仲間を集めて、モツゴロウなんかあっという間にやっつけちゃうんだから!」

「う、うん。でも、わたしなんか……」

「えー? 何で自信ないの? あんなに元気なのに! わたしと一緒にあんなに走れたんだから、自信持てばいいのに!」


 あははははって、サーバルちゃんが笑う。

 元気は関係ないでしょ、って言いたくなったけど、でも、それでも、嬉しい。


「サーバルちゃん、私、キリンっぽくて、でも、シマウマっぽいし、中途半端で」

「そこが良いんだよ。それがオカピちゃんなんだから。キリンっぽくて、シマウマっぽい、素敵な動物がオカピちゃんなんだから! 自分に自信持って! ほら、オカピちゃんの足、すっごく奇麗だし!」


 顔が熱い。多分、真っ赤っか。


「そう言えば、サーバルちゃん、私たち、どっちに向かってるんだっけ?」

「サバンナだよ?」

「さばんな?」

「かばんちゃんと始めて会った場所だから、もしかしたら、かばんちゃんも来てくれるかなーって思ったんだ」

「そ、そっか!」


 うん。そうだよね。

 二人の絆は、私が考えている以上に、ずっと強いみたい。

 きっと、きっと大丈夫。

 かばんちゃんって子に、きっと会えるよ。


 ああ……みんながみんな、サーバルちゃんとかばんちゃんみたいに信じあえれば、潰し合いなんか起きないのになぁ。

 ううん。サーバルちゃんなら、これからみんなを説得して回ることだってできる。

 そしたらきっと、もう、潰し合いなんか起きない。


 ほら、セリルアンハンターの三匹とか、そうげんちほーのフレンズたちとか、信じあえるけものは、いっぱいいるよ!


 だから、仲間を探そう。

 探して、みんなでモツゴロウをやっつけるんだ!


(残り40匹)

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