かばん(43番 ヒト)
第30話 かばん、ろっじにて
かばん(43番 ヒト)です。
僕は、愕然とした気持ちで暗闇の中にいました。
「かばん……! 今すぐ、ロッジの中に避難です! ここは目立ちすぎるのです!」
助手さんが僕の手を掴みます。
トキさんの叫び声が聞こえて、それから放送でトキさん達の名前が聞こえて。
もう、40匹しか、けものがいない?
……なぜなんですか?
どうして、みんな、潰し合いなんかしてしまうんですか?
でも、考えている暇はありません。
僕は、助手さんに連れられて、ロッジへ向かいます。
助手さんの手は力強く、必死に僕の手を引いて、それから二人でロッジの中に隠れました。
「かばん、大丈夫なのですか? しっかりして欲しいのです。気を強く持ってほしいのです」
「……トキさん、助けられなかった」
「仕方が無かったのです。しょうがなかったのです」
「うっ……うう」
涙が、後から後から出て来て止まりません。
「かばん、泣かないで欲しいのです」
「助手さん……! なんでなんですか? どうして? トキさんみたいな仲間がいるってわかったら、手を取り合えばいいのに。こんなの、ひどいです!」
「……かばん。このゲームは本当に良く出来ているのです。このゲームは、仲間を一つ作るのにも、難しく出来ているのです」
「難しい、って?」
「かばん。皆、怖いのですよ。想像して欲しいのです。例えば、誰かが仲間なったとしても、自分だけ助かりたいと思ってしまって、誰かの風船を潰そうとするかもしれない、と」
「僕は、そんなことしません」
「そうです。誰もが自分はそんなことしないと思うのです。でも、問題は自分以外の誰かがそれをするかもしれないと思ってしまうことなのです」
僕は助手さんの顔を見つめることしか出来ません。
何かを言おうとしましたが、言葉が上手く出て来ませんでした。
「そんな……でも、みんな、友達、だから、それは」
「かばん。それはゲームの外での話です。普段はみんな信頼できる仲間です。お互いを想いあえる、素敵な友達です。群れの仲間なのです。でも、今は誰がやる気になっているのか分からない状況なのです。それに、誰がやる気になるのか分からない状態と言っても良いのです。そんな状況で仲間を増やしても、仲間になったフレンズを疑わないでいられるですか? 仲間になったフレンズが、最初から自分を騙していて、風船を潰すつもりで仲間になったのだとしたら? と。例えそうじゃなくても、ゲームが進んで怖くなって心変わりしたら? と。そんな疑いが少しでも生まれれば、信じるのはとても難しいのです」
「……」
涙が出てきます。
「仲間を信じるのが難しいのなら、仲間がいるのが不安になるのなら、仲間なんて最初からいない方が良いとすら思ってしまう。トキを潰したフレンズが誰なのか、どういうつもりで襲撃したのかは我々には分かりませんが、それでも、そう言ったことで潰したかもしれないと言うことを、考えて欲しいのです」
助手さんは冷静で、それでも淡々と語る助手さんの顔は、今の状況に酷く傷ついているようでした。
「……ところで、かばん。あなたは、今の状況で、私を信頼できるですか?」
「え?」
「モツゴロウと戦う手段の話なのです」
そう言えば、戦える手段の話を、まだ聞いていません。
「あの、モツゴロウさんとは、どうやって戦うんですか? 手段は?」
「それは……」
ごくり、とツバを飲みました。
助手さんは、グッとため込んで、それから言います。
「手段は……まだ言えないのです」
「言え、ない?」
まだ、言えない?
「なんで、ですか?」
「この方法は、温泉についてから教えたいのです。温泉に着く前にモツゴロウ側に知られるときっと上手くいかない。下手をすると、問答無用で腕時計を作動させられてしまうのです。それから、温泉に向かうまでに仲間を増やすのも良いですが、出来れば少ない方が良い」
「……少ない方が良いって? そんな。仲間を増やすわけにはいかないんですか?」
「さっきも言った通り、他のフレンズを信じるのはとても難しいことなのです。それに、フレンズの全てが我々のように賢いわけではないのです。何がきっかけであいつらにバレるか分からないのですよ。念には念を入れたいのです。それに、教えたフレンズにこの作戦が上手くいかないと思われて、邪魔をされても終わりです。だから、かばんに教えるのは、最後の最後です。温泉に到着するか、もしくは私とかばんと、本当に信頼できる仲間以外のフレンズの風船が潰れてからなのです」
「で、でも、それは……そんなのは……!」
「ええ、分かります。だから聞いたのです。かばん。あなたが私を信用してくれるかどうかを」
助手さんは、真っ直ぐに僕の目を見て、それから言いました。
「かばん。あなたは私を疑うことが出来るのです。いえ、疑うべきなのです。……本当はモツゴロウと戦う手段なんか無くて、私は優勝するまでの仲間が欲しいだけなのかもしれない。そして、温泉に着いた頃にはゲームは最後の方まで進行していて、残りは我々以外のフレンズはみんな潰されてしまった後かもしれない。その状況で、私がかばんの風船を潰す。優勝は私と言うことになる」
「そんな、そんなこと……」
「少しも思わないのですか?」
頭が、混乱しています。
でも、ここで助手さんを信じなければ、モツゴロウと戦う手段なんて思いつきもしません。
僕は心を決めました。
「……助手さんが僕を騙そうとしてるなんて、考えたくはないですけど、それを少しも疑わないのかって言うと、嘘になります。でも、僕は、それでも助手さんを信じます。信じて、一緒に戦います」
「良いのですか?」
「はい。その……僕は、何もできません。今も、本当は自信がないんです。足が速いわけでもないし、空も飛べません。泳げないし、でも、それでも、みんなを助けられるって言うなら、みんなの力になりたい。こんな僕でも、戦えるって言うなら、みんなのために、戦いたい」
「かばん」
助手さんが、僕の手を握りました。
「良く言ってくれたのです……! かばんとこのゲームの中で会えて、本当に良かった……!」
助手さんがポロリと涙をこぼしました。
手が、震えています。
きっと、助手さんも僕に信じてもらえるのか、不安で仕方がなかったのだと思います。
「……ところで、あなたはどうするですか? ――アリツカゲラ」
えっ、と、助手さんが声をかけた方に顔を向けると、アリツカゲラさんがいました。
「お部屋から出て来ていたんですね、アリツカゲラさん」
「はい。それで、助手さんのお話、聞いていました」
アリツカゲラさんは、グググっと感情が爆発しそうな表情で僕たちを見つめて、それから言います。
「私も、助手さんとかばんさんと、戦わせてください。今も怖いけれど、でも、みなさんとロッジを守れるなら、私も……!」
「アリツカゲラさん……!」
心がいっぱいになります。
仲間が増えていく。
一緒に、モツゴロウと戦うための仲間が。
僕と、助手さんと、アリツカゲラさん、それから……
「そう言えば、ツチノコさんは?」
「まだ来ませんね。でも、きっと無事です。ツチノコの名前は放送で呼ばれなかったのです。温泉で落ち合う手はずになっているので、きっと後で会えるのです。かばん、さっそく出発しましょう」
「い、今からですか?」
「ええ、トキの風船を潰したフレンズが、こちらに向かっているかもしれないのです。今、すぐにでも来るかもしれない」
思えばそうです。
すぐにでも出発しなければいけません。
きっと、僕たちは大丈夫。
モツゴロウさんを倒せるから。
だから……!
……
サーバルちゃん。
もし、このゲームの中でサーバルちゃんに会えれば、どんなに心強いことかとは思うけれど、でも、僕、サーバルちゃんのためにも、助手さんと、アリツカゲラさんと頑張ります。
今、どこにいるのか分からないけれど、どうか、無事で。
(残り40匹)
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