アライさん(04番 ネコ目アライグマ科アライグマ属アライグマ)

第29話 こんなときこそ

 アライさん(04番 ネコ目アライグマ科アライグマ属アライグマ)なのだ……!

 今、アライさんは走ってるのだ……!


 なんでかって?


 なんでかって、大変なのだ!

 た、助けて、フェネック!

 潰されたのだ!


 トキと、ショウジョウトキと、アルパカ。

 潰し合いなんかしないでって、歌ってたから、仲間になりたくて、やっとアライさんにも一緒に戦ってくれる仲間が見つかったと思って近寄ったら、誰かに、風船を潰されたのだ!


 アライさんは声をかけようとして、でも、そしたらちょうどアルパカの風船が潰されてて、それからショウジョウトキと、トキも……

 アライさんは、一目散に逃げだしたのだ!


 暗くて、三匹の風船を潰したのが誰なのかアライさんには分からなかったけど、トキが捕まって、風船を潰される前に叫んでて……


 うう、アライさんは怖くて、見捨てて逃げてしまったのだ。

 アライさんは最低なのだ……


 アライさんを許してほしいのだ! 助けて欲しいのだ……!


 フェネック……! フェネック……!

 一生懸命走ったせいか、息が苦しくて、アライさんはもう、ダメかもしれないのだ。

 どこにいるのだ!

 早く、助けに来て欲しいのだ……!


『アラーイさーん。またやってしまったねー』


 うう、フェネックの声が聞こえる気がするのだ。

 ここにいるわけない。

 フェネックは、モツゴロウに、捕まってしまったのだ。


『大丈夫だよー、少し落ち着こうよー』

 

 でも、でも、フェネックはすごいのだ。

 もしかしたら。

 もしかしたら、上手く逃げ出して、アライさんを助けに来てくれたのか?


「フェネック……! どこにいるのだ?」


 探せないのだ。足が痛いのだ。

 うう、少し、休むのだ。


 と、思ったら、近くの茂みが動いてる……!


「うわーん、もうダメなのだー! こうなったら、こうなったら、アライさんも、戦うのだー!」

「お?」


 でも、そこから聞こえて来たのはどこかで聞いた声。


「こんなところで何をやってるのですかー?」

「お、お前こそ、こんなところで何をやってるのだ?」


 スナネコ(33番 ネコ目ネコ科ネコ属スナネコ)だったのだ。

 てくてく、のん気に近づいてくる。


「ま、まず、答えるのだ! アライさんの風船を潰しに来たんなら、アライさんは……!」

「何を言ってるのですかー? せっかく会えたんだから、お話しましょ?」


 ぐぬぬぬぬ……!

 何を考えているのか、分からないのだ。


「……」

「ど、どうしたのだ?」

「でも、まぁ、お話しするほどでもないかー。先を急ぎましょー」

「えぇーっ?」


 変な声を出してしまったのだ。


 と、思ったら、スナネコが出てきた茂みが、またガサガサ。


「そんなこと言わないでよよよ。怖いけものじゃ、なさそうだよよよ」


 気が抜ける話し方……

 カピバラ(19番 ネズミ目カピバラ科カピバラ属カピバラ)なのだ。


「お、お前たち、ずっと一緒にいたのか? 何をしてるのだ?」

「えっとー、すっごく大きな声で仲間になろーって聞こえたので、二匹で向かっててー」

「歌?」


 それは多分、トキの歌なのだ。


「歌は、もう、無理なのだ……。行っても、誰もいないのだ。歌ってたのはトキで、トキと一緒にいたアルパカとショウジョウトキも、みんな、誰かに風船を潰されたのだ」

「よよよ……?」


 カピバラが、元気をなくして座り込んでしまったのだ。

 そう言えば、放送でもトキたちの名前呼ばれてたのだ。

 だから、アライさんが言ってることが本当のことだって、多分、信じてくれたのだ。


「アライさんは、アライさんが、声をかけようとしたら、みんな、風船を潰されてしまって、アライさんは必死で逃げて来たのだ……」

「逃げてきた」


 スナネコがアライさんの言葉を繰り返したのだ。


「だから、もう。あの場所には風船を潰してるけものしかいないから、これ以上進んだら危ないのだ。アライさんと一緒に逃げるのだ!」

「逃げるって、どこに行くのですか?」

「それは……」


 よく考えたら、どこに逃げるかなんて、考えてなかったのだ。

 アライさんは、フェネックがいないと、ここがどこかも良く分からない。


「行くところがないなら、僕たちと一緒に行きますか?」

「えぇっ! お前たち、どこか逃げる場所に心当たりがあるのか?」

「温泉……」


 カピバラがほわほわ喋り出したのだ。


「こんな時こそ、心を落ち着かせなきゃだよよよ。温泉は、あったかくて、とっても最高だからねねね」

「温泉……僕も行きたいです」


 温泉って、ゆきやまちほーのか?

 でも、寒いところなら、寒さが苦手なフレンズは来ないかもしれないし、逃げるなら、ちょうど良いのかもしれないのだ。


「僕たちと温泉、行きますか?」

「い、行くのだ!」


 独りは嫌なのだ!

 それに、それに、やっと会えた、仲間なのだ。


 ……仲間?


 フハハハハハ! 

 そうか! そうなのだ! アライさんにも、やっと仲間が出来たのだ!

 仲間と一緒に進むのだ!


 独りだと怖かったけど、一緒なら、アライさんは大丈夫なのだ!

 安心なのだ!


 ……でも、安心したら、疲れがドッと出て来たのだ。


「でも、アライさんは少し疲れたのだ。お前たちは大丈夫なのか?」

「夜行性なので、大丈夫だよよよ」

「僕も、普段から夜に動いてるので大丈夫です」


 夜行性。

 アライさんもどちらかと言うと夜行性だけど、でも、ずっと走ってたから疲れたのだ。


「す、少しだけ、休んでいいか?」

「んー」

「よよよ」


 スナネコもカピバラも、あんまり疲れてなさそうなのだ。


「でも、まぁ、しょうがないか」

「よよよ」


 大きな声も出してしまったので、少しだけ場所を移動したのだ。

 木がいっぱいあるので、隠れるところには困らない。


「少しだけ、一休み、一休み」


 フェネック。

 アライさんの反撃は、今から始まるのだ。

 きっと、もっとたくさん仲間が集まるのだ。


 例えば、かばんさん。

 そうだ! あのかばんさんなら、モツゴロウと戦える、すっごいことを思いついてくれるのだ!

 それから、あと、サーバルも。


 あの二匹がコンビを組めば、さいきょうなのだ!


 フェネック!

 待っててほしいのだ!

 絶対、アライさんが助けに行くからから、アライさんを信じて、待ってて欲しいのだ!


(残り40匹)

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