ハシビロコウ(40番 ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属ハシビロコウ)
第32話 わたしをおいて、はやくにげて
怒鳴り声。
武器と武器がぶつかる音。
暗闇の中で、私たちは危機に陥っていた。
私はハシビロコウ。(40番 ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属ハシビロコウ)
今、目の前で起きていることが全く信じられず、戦いのあまりの迫力に、私は動くことも出来ない。
事実、私は、まるで金縛りにあったかのように戦いを見つめることしか出来ていないの。
「なんですの? いきなり攻撃してきて……! おやめなさい! 私達は、潰し合いをするつもりは……!」
「そうはいくか!」
「そうだ! もう、騙されるものか!」
戦っているのはシロサイ。(32番 ウマ目サイ科シロサイ属シロサイ)
襲ってきたのはオーロックス(14番 クジラ偶蹄目ウシ科ウシ属オーロックス)と、アラビアオリックス(07番 クジラ偶蹄目ウシ科オリックス属アラビアオリックス)で、シロサイは彼女たちの攻撃を、必死に食い止めてる。
助けなきゃ。
そう思ったけど、体が動かない。
私、腰を抜かしている。
本当に情けないと思うんだけど、私、こんなに弱かったんだ。
槍と槍がぶつかる音。
それが耳をふさぎたくなるくらい大きな音で、合戦の時なんかとは比べ物にならないくらい、相手が怒ってて、怒鳴ってて。
怖くて、動けない。
思えば、この潰し合いのゲームが始まった時から、私は動けなくなることがあった。
ゲームが始まった時。
ゆうえんちの外に出たら、風船を潰されたアクシスジカとサバンナシマウマが転がっていて、座り込んでしまったら、その場から動けなくなって……
そんな時、私の次に出て来たパンサーカメレオン(41番 有鱗目カメレオン科フサエカメレオン属)が、私を助けてくれた。
ううん、彼女も、顔を真っ青にしてたけど、動けないままの私を見ると、私の手を取って、必死に引っ張りながら走ってくれたの。
弱いのは私だけ。
本当に情けなく思う。
「ありがとう。あなたがいなかったら、どうなっていたか」
「せ、拙者も、かじ、火事場の、バカ力でござるよ」
パンサーカメレオンはそう言って、足をがくがくとさせていたけれど、それでも、私よりもずっと強い。
それに、その後、ヘラジカ様やライオンが待っている、約束の場所に向かった時だって、臆病だったけど慎重で、おどおどと後ろを着いていくことしか出来なかった私なんかよりも、ずっと頼りになる。
ゆっくり、遠回りしながら歩いて、途中、誰かの足音が聞こえたりしたのをやり過ごしたりしながら、そうやって進んで。
だから、無事に約束の場所に付けたのは、多分、彼女のおかげ。
すでに到着していたのはシロサイと、それからヘラジカ様とライオン。
私たちは再会を喜び合って、それから少しだけ休憩することにした。
もう、大丈夫。
ヘラジカ様とライオンが手を組めば、モツゴロウなんて、あっという間にやっつけられる。
仲間もたくさんいる。
集まって来る。
怖いことなんか、もう、何もない。
私も戦わなくちゃって、手に持った武器を、ギュッと握ったわ。
でも、ほっとしたのもつかの間。
モツゴロウの放送でオオアルマジロが潰されたことを知って、さらに二回目の放送でニホンツキノワグマ、それからアフリカタテガミヤマアラシの二匹の風船が潰されていたことを、私たちは知った。
何かが起きている。
何か、良くないことが。
だから、ヘラジカ様とライオンは話し合い、私とシロサイ、それからパンサーカメレオンに、未だ合流できていないオーロックスとアラビアオリックスを探しに行くようにって、頼んだの。
でも、夜は暗くて、探すのが大変で。
誰かがこっそり風船を狙ってくるのかもしれないかと警戒しながら進むのは思ったより、ずっと大変で。
……そんな時だったの。
探していたオーロックスと、アラビアオリックスが襲ってきたのは。
最初の襲撃があって、私達は慌てて逃げ出してしまって。
そのせいで、パンサーカメレオンとはぐれてしまった。
彼女を探すことも出来ず、私とシロサイは必死に逃げて、それでも、執拗に追って来る二匹が怖くて。
それで、私は、本当に情けないことに、シロサイが二人と戦うきっかけを作ってしまった。
気を抜いたつもりもないし、致命的な失敗だったのは分ってる。
――私はその場で転んでしまって、動けなくなってしまったの。
「ハシビロコウ! 立てますの?」
「あ、う」
足ががくがくして、腰に力が入らなくて。
……私、本当に自分が情けない。
シロサイは私を見捨てて逃げることなんて出来ないみたいで、武器を構えて、追ってきた二匹と対峙したわ。
なんでかって、そんなの、分かってる。
だって、あのシロサイだもん。
私の友達で、ちょっと目の前しか見えないところがあるけど、いつも正々堂々としてて。
そんな彼女だから、きっと、私を見捨てることが出来ないでいるんだ。
「……くっ!」
シロサイは、明らかに押されている。
立たなくちゃ。
立って、シロサイを助けなきゃ!
私は勇気を振り絞って、必死に立とうとした。
でも、やっぱり胸が苦しくて、足にも、腰にも力が入らなくて。
だったら、何かしゃべらなきゃって思った。
でも、それもダメみたい。
舌がしびれて、声も上手く出ないの。
でも、私は、必死に、必死に息を吸って、それから叫ぶようにして言ったわ。
「シロ、サイ! シロサイ! 私のこと、なんか、良いか、ら! 私を置いて、逃げて! あなたは、こんなところで、潰れちゃ、だめ!」
喉が痛い。
途中、かすれたり、裏返ったりしたけど、きっと声は聞こえたはず。
だって、言った瞬間、シロサイの耳が、ピクッて動いたから。
それからシロサイはグッと踏ん張ると、二匹の槍を弾いて距離を取ると、ぜいぜいと息を切らしながら、言ったの。
「ハシビロコウ。あなたは、私が絶対に守りますわ」
そんなの、ダメ。
私なんかほっといて、ヘラジカ様やライオンに助けを呼びにいかないと。
この二匹は、きっと、何か怖い目に遭って、それで私たちを襲っているんだ。
おかしくなっているだけなんだから、だったら……!
「ヘラジカ様やライオンなら、きっと説得できる。だから、お願い! 行って! 私をここに置いて」
「いいえ! 引きませんわ! どんな理由があっても、貴女を置いていくことなんて出来ませんもの! 貴女の風船を潰させるわけにはいきませんわ!」
「な、なんで、私なんか。何の役にも立たないのに。私なんか!」
「役に立つとか、立たないとか、そんなことはどうでも良いですの。ハシビロコウは、私の大切な仲間ですのよ? それに、何もできないなんて……あなたにも出来ることはきっとありますわ。私は、あなたを信じてますの」
でも、話が長いと言わんばかりに、オーロックスたちの槍が、シロサイに伸びて、シロサイはすぐにそれを槍で防いだ。
飛び散る火花。
私の目から、涙がポロポロと落ちていく。
嬉しいよ。嬉しいけど……
シロサイの、バカ……!
私だって、あなたの風船が潰されたら、嫌なんだよ?
なのに……!
「負けま、せんわ……!」
「こいつ……! 守りに徹して!」
「このままじゃだめだ、アラビアオリックス! 連携して、考えて攻撃するぞ!」
二匹が動きを変える。
悪い予感を、私は感じずにはいられなかった。
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