前半戦

アライさん(04番 ネコ目アライグマ科アライグマ属アライグマ)

第5話 げーむかいし

「それじゃあ、ゲーム開始でーす! 番号とフレンズの名前を呼ぶので、番号順にここを出てもらいます! なお、出発したら、次のフレンズが出発する頃に遊園地は禁止エリアにされるので、戻らないようにね! 腕時計が反応して、即、退場になりますから!」


 モツゴロウはそう言うと、またニッコリと笑ったのだ。


「じゃあ、呼びますよ。番号01番。アクシスジカ!」


 アクシスジカ(01番 偶蹄目シカ科アクシスジカ属アクシスジカ)は「ひっ」と泣きながら、立ち上がったのだ。


「アクシスジカちゃんは泣き虫ですねぇ。そんなんじゃすぐ潰されちゃいますよ? やる気になってるフレンズだっているんだから」

「そ、そんな。でも」

「『どれすこーど』らしいよって、何匹かのフレンズに腕時計を付けるのに協力してくれたでしょ? そのせいで君を恨んでるフレンズもいっぱいいるから大変だよね。でも、安心してくださいね。アクシスジカちゃん、私は君を応援してますからねぇ」


 その後、ボスに無理やり歩かされたアクシスジカの耳に、モツゴロウがコソコソっと囁いたのだ。

 多分、奪われる『大切なもの』の事を話されたのだと思うのだ。


 アクシスジカは、涙をボロボロとこぼしながら、黒いボスに連れて行かれたのだ。

 ……な、何を言われたのだ? アクシスジカは何を奪われるのだ?

 アライさんには、あまり聞こえなかったのだ。


 それから、モツゴロウは少し時間が経ってから、次のフレンズを呼んだのだ。


「番号02番、アフリカオオコノハズクの博士! は、もう退場してましたね!」


 アハハと、モツゴロウが笑う。

 ぜ、全然面白くないのだ。


「じゃあ、飛ばして03番! アフリカタテガミヤマアラシ!」

「は、はい!」


 立ち上がったヤマアラシ(03番 ネズミ目ヤマアラシ科ヤマアラシ属アフリカタテガミヤマアラシ)がヘラジカたちの方を見て、目で合図をして頷きあったのが見えたのだ。


 もしかすると、待ち合わせしてる? なら、アライさんも、誰かと待ち合わせをした方が良いのだ。

 でも、誰と…… いや、誰でも良いのだ。

 みんな仲間なので、会えば、きっと協力し合えるのだ。


 でも、誰かと合流するのなら、頼りになるフレンズが良いのだ。

 例えば強いフレンズ、セルリアンハンターの三匹なら、頑張ればモツゴロウにも勝てるかも知れないのだ。

 博士は捕まってしまったけど、助手だって色んな事を知ってるし、頼りになるし、後は、なんと言っても、かばんさんなのだ。


 かばんさんなら、絶対に、モツゴロウたちをやっつける良い作戦を考えてくれるのだ。


「次に行きますねー! 番号04番 アライグマのアライさん!」

「!?」


 えっ、もう、アライさんの番なのだ?

 ま、まだ、考えがまとまっていないので、待って欲しいのだ。


 でも、黒いボスがアライさんを捕まえて、立たせて来て……


「あ、アライさんは、自分で歩けるのだ!」


 い、イライラするのだ。

 アライさんは、どうしたらいいのだ、フェネック。


「お、やる気十分だね、アライさん! 優勝すれば、フェネックを助けられるよ。頑張って他のフレンズの風船を潰してね!」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ!」


 精一杯に否定しようとしたけれど、フェネックのことを持ち出されて、イライラして言葉が上手く出ないのだ。

 そのせいか、アライさんを見ているみんなの目が、ちょっと怖くなったのだ。


「み、みんな? 違うのだ。アライさんは……」

「じゃあ、負けたときに奪う、大切なものを言うよ。聞いたらさっさと出て行ってねぇ」


 コソッと、モツゴロウは言う。


「『お宝』集めてるよね。負けたら没収します。今後のお宝集めも禁止です。それから負けたらフェネックには二度と会えません。フェネックは檻に閉じ込めて、誰にも会えない所に閉じ込めます」


 言葉を、無くしたのだ。


「なんで、二個も、なのだ?」

「アライさんは反抗的なので、ペナルティです」


 モツゴロウはいともたやすく、簡単に言ったのだ。


「はい、さっさと出発してくださいねー。後がつかえてますから」

「わ、分かったのだ」


 負けられない。

 でも、きっと大丈夫。

 外に出れば、きっと先に出発したアクシスジカとヤマアラシが、アライさんを待っててくれるのだ。

 それで、全員で合流して、一緒にモツゴロウをやっつける。


 フハハハハ! いける! いけるのだ!

 フェネックを助けて、みんなでこんなゲーム、中止にしてやるのだ!


 そう思うと足取りが軽いのだ!

 そうして楽しくなってきたアライさんは遊園地の外に出たのだ。


 ……


「誰も、待って無いのだ」


 外に出たけど、アライさんは一人ぼっちだったのだ。

 アクシスジカは? ……いないのだ。

 ヤマアラシもいないのだ。


「そ、そんな、なんでなのだ?」


 一瞬、ほんの一瞬、アライさんの頭にさっきの光景が甦ってきたのだ。


『どれすこーど? が、どうのこうのらしいよ?』

『アクシスジカちゃん。ボクは君を応援してますからね』


 もしかして。

 もしかして、アクシスジカは、モツゴロウの仲間なのか?


 そんなわけないのだ! だって、みんな、お友達だし、仲間なのだ!

 裏切るわけないのだ!


 ……で、でも、どうして誰もいないのだ?


 と、考えたその瞬間、アライさんは急に怖くなったのだ。


 一人ぼっち。

 もし、アクシスジカが敵の仲間だったら、アライさんを近くで待ち伏せしていて、風船を潰しに来るかもしれない。


 そ、そんなの、嫌なのだ。

 もし、風船を潰されたら、潰されたら……!

 お宝を取られるのも、フェネックに会えなくなるのも、嫌なのだ!


「い、嫌なのだ! 嫌なのだー!」


 アライさんは、走ったのだ。

 走っている方向はわからないけれど、とにかく、ここから一刻も早く離れたかったのだ。


 こんな時、フェネックがいればと思うけど、フェネックは、モツゴロウに捕まってしまった。

 誰か、誰か! 誰でもいいので、アライさんを助けて欲しいのだ!


(残り52匹)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る