かばん(43番 ヒト)

第20話 さーばるちゃんにあいたい

 息を切らせながら、なんとかロッジにたどり着きました。


 かばん(43番 ヒト)です。

 僕が『ゆうえんち』を出た時、入り口に風船を潰されたフレンズさん達がいて、僕は怖くなって逃げたんだけど。

 でも、それが正解だったかはわかりません。


 あれを見れば、潰し合いが始まってしまったのが、僕にも分かります。

 でも、僕の後に出たフレンズさん達はまだ、それを知らない。

 僕のように『ゆうえんち』から出て、風船を潰されたアクシスジカさんや、サバンナシマウマさんの姿を見れば分かってしまいますけれど、でも、それを見た後で話し合うのは、とても難しいんじゃないかと思うのです。


 ……誰かが他のフレンズさんたちの風船を潰している。

 それが誰か分からない以上「一緒にいよう」と声をかけてくるフレンズさんが、風船を潰すために嘘を言って近づいてきているのか分からない。

 それがとても怖いのです。

 疑いたくないですけど、でも、今の状況で誰かを信じることは、とても難しいのだと思うのです。


 本当は、出口で待っていて、出て来た誰かに教えてあげれば良かった。

 少なくとも、僕は潰し合いなんかしないって、一緒に手を取ってやって行こうって、そう言えば良かったのかもしれない。

 でも、結局は僕も疑われてしまう可能性もあったわけで……うう、どうしたら良かったんだろう。


 と、その時、僕は一番の友達を思い出しました。


「サーバルちゃんも外で待ってるって言ってたのに。本当に何があったんだろう」


 放送で名前は呼ばれていません。

 でも、サーバルちゃんは僕を待っていてくれなかった。

 ……ううん。違う。

 何かがあって、それで待っていることができなかったんだ。


 僕は、サーバルちゃんを探したい。

 サーバルちゃんなら、絶対に信じられる。

 こんな状況でも、それでも、サーバルちゃんがいれば、きっと何かモツゴロウと戦う手段が思いつく。そう思うんです。


 とにかく、僕はサーバルちゃんと会いたくて歩き続けました。

 そうして、もしかしたらいるかも、と言う淡い期待を持って向かったロッジに辿り着けたのですが、中に入って一休みしようとしたら、フレンズさんの気配が。

 声も聞こえます。


「ねぇ、いい加減、出てきてよ。……出てきて欲しいって、言ってるんですけど」


 あまり聞いたことのない声です。

 壁を叩く音。それからひっかく音。


 ……怖い。


 でも、僕は勇気を出しました。

 こんな状況だけれど……いえ、こんな状況だからこそ、誰かと話をする必要があるのです。


 僕は音のする方向に向かって声を掛けました。

 でも、もしかすると、もう少し近づいてから声をかけるべきだったのかもしれません。


「あ、あの。フレンズさん、ですか?」


 バタバタと誰かが走っていく音がしました。


「ま、待って! 僕は、潰し合いなんてしないです!」


 ダメでした。

 誰かは走り去って行ってしまい、僕は途方に暮れます。


 と、その誰かがいたと思われる場所が分かりました。

 部屋のドアです。

 何かがひっかいたような痕跡があって、もしかすると、ドアを開けようとしていたのかなと思いました。


 ドアに向かって声をかけてみます。


「あ、あの。誰かいるんですか?」

「……その声は、かばんさんですか?」

「アリツカゲラさん?」


 ドアの向こうから聞こえてきたのは、ロッジのオーナーの、アリツカゲラさん(08番 キツツキ目キツツキ科ハシボソキツツキ属アリツカゲラ)の声でした。


「アリツカゲラさん、どうしたんですか?」

「……ショウジョウトキさんは?」

「え?」

「さっきまで、私を部屋から出そうとしていた方です」


 それで、さっきここにいたのが、ショウジョウトキさん(31番 コウノトリ目トキ科シロトキ属ショウジョウトキ)だということが分かりました。


「いえ、あの。僕が声をかけたら、逃げてしまって」

「そうですか」


 それっきり、部屋からは物音ひとつ聞こえません。


「あの、入っても良いですか?」

「ダメです」


 え、ええー……


「あ、あの、アリツカゲラさんは、そこで何をしているんですか?」

「……潰し合いが嫌だから、ここに閉じこもっているんです」


 なるほど、と思います。

 ショウジョウトキさんは、アリツカゲラさんを部屋から出そうとしていたのでしょう。きっと、仲間を探しているんです。

 同時に、どうして入ったらダメと言ったのかもわかりました。

 怖いのです。多分。


「アリツカゲラさん、大丈夫です。僕は、風船の潰し合いなんて、しないですから」

「そうですか」


 アリツカゲラさんは、そう言って、また黙ってしまいました。

 部屋から出てくる気配はありません。開けてくれた様子もありません。


「あの、少し、お話しませんか? 部屋から出て、顔を見せて欲しいんですけど……」

「嫌です」


 取り付く島もありません。


 と、その時、僕の後ろに誰かの気配が……!


「う、うわぁぁぁ! た、食べないでください!」

「アァァァァァア! なんだお前はぁ! 食べるわけないだろ!」


 そこにいたのは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る