アライさん(ネコ目アライグマ科アライグマ属アライグマ)

第2話 るーるせつめい

 ……どういうことなのだ?


 アライさんは、目の前で起きていることが良く分からないのだ。

 フェネックが倒れたのは、あの黒いでっかいボスと、モツゴロウとか言う奴が何かしたのか?


「そんなわけで、フレンズの皆さんには潰し合いをしてもらいますよ。あ、もちろん風船の潰し合いです。リアルに喧嘩するのはダメですよ? 怪我や危険を売り物にするとか言うのは、私、大好きですけどね」


 モツゴロウがにっこり笑って、皆を見たのだ。

 なんだか嫌な予感がする、のだ。

 フェネックも起きないし……と、そこで、博士と助手が空を飛んだのだ。


「お前達の好きにはさせないのです!」

「我々はお前達を敵と認識したのです! さぁ、皆! 野生を解放するですよ! 我々の群れとしての強さを、みせつけてやるのです!」


 フハハハハハ! やっぱり、パークの危機だったのだ!

 フェネック! みんなとモツゴロウとか言うやつをやっつけるから、そこで待っているのだ!


 でも、みんなが野生を解放させて、サンドスターでキラキラになった遊園地の中。

 モツゴロウはニコニコとした顔を崩さずに周囲を見渡すと、何か、黒くて四角い物を取り出して、博士に向けたのだ。


「抵抗は許されないんですよ」


 指で、その黒いものを触って、それがピカピカっと。赤く光った?

 すると、博士の腕に付けている腕時計がピッピッと音を立て始めたのだ。


「な、何ですか、これは? 何の音なのですか!」

「博士! 腕に付けているものです!」

「い、嫌な音がするのです! ……と、取れないのです! 助手!」


 ピッピッと鳴るものは、ここに来た時に『どれすこーど』とか言うので付けた『腕時計』と言う奴なのだ。


「出来ればこれ以上、人気のあるフレンズは退場させたくなかったんですけどねぇ。でも、仕方が無いですよ。群れのリーダーを倒すのが、一番手っ取り早い見せしめですから。二匹とも、地面に降りたほうが良いですよー?」


 そう言ったモツゴロウは、やっぱりニコニコ笑っているのだ。

 それが本当に楽しそうで、アライさんは心の底から怖いと思ったのだ。


「い、痛い! 痛い! ぁ――」


 は、博士が地面に落ちたのだ! 大丈夫なのか?


「博士ッ!」


 慌てて助手が博士を間一髪で受け止めて、地面に寝かせて、その瞬間。博士の腕にある『腕時計』がパンッと大きな音を立てて、白い煙がもわっと吹き出たのだ。


「は、博士! けほっけほっ」


 煙が晴れて、でも――


「大丈夫ですか? 博士!」


 博士は、ぴくりとも動かないのだ。


「博士? な、なんで寝てるですか? 起きてください! パークの危機ですよ! 博士! 我々はおさなのですよ! 今動かないで、どうするのですか、博士!」


 それでも博士は、起きなくて。そしたら、モツゴロウが手をパンパンと叩いて、にっこりと笑ったのだ。


「はい、皆さん、座ってくださいね。ご覧の通り抵抗は無駄です。逆らうとですね。今の博士みたいに腕時計に仕込んである麻酔の針が腕を刺して、眠ってしまいます。これは風船が潰されても同じ事が起きますからね。それから腕時計を外そうとしても同じように眠ってしまいますので、そこは気をつけてくださいね。……ほら! そこのフレンズ! それ以上は腕時計が作動するぞ!」


 腕時計を力任せに引っ張っていたアミメキリン(クジラ偶蹄目キリン科キリン属アミメキリン)がビクッと動きを止めて、モツゴロウはそれを見てニヤニヤとしているのだ。


「後ですね、まだ反抗したそうなフレンズがいますけど、ダメですよ? 一斉に飛びかかれば大丈夫かも、なんてことは思わないでくださいね。こっちはこういうことも出来ますので」


 モツゴロウがまた手に持った黒い物を触って……そしたら、フレンズ達全員の腕時計が鳴り出したのだ。


「な、鳴ってる? や、やだあああああ!」


 最初に泣き出したのは、誰だったのだ?

 わ、わからないのだ。

 ピピピピと、色んなところから腕時計が鳴り出して、みんなパニックになったのだ。

 アライさんの腕時計も鳴ってる? い、嫌なのだ! 助けて欲しいのだ!


「はいはい。止めますよー。大丈夫です。解除できますからねぇ。みなさん落ち着いてください」


 モツゴロウの言う通り、腕時計は静かになったのだ。

 アライさんの腕時計も、もう鳴っていないのだ。


「さて、今みたいに、こちらの任意で腕時計は作動させることが出来ます。言っておきますが、私は動物が大嫌いなんです。だから、このゲームの進行を妨げたり、島から脱出を図ったりしたら、問答無用で腕時計を作動させますので注意してくださいね。そして、二度目になりますが、風船が潰された時にも腕時計は作動して、腕時計から煙が出たら、失格となります。まぁ、眠ってしまいますので何も出来なくなりますけど」


 助手が涙を浮かばせながら博士を必死に揺さぶっているけど、博士は起きないのだ。

 フェネックも、起きないのだ。起きて欲しいのだ、フェネック……!


「あ、島からの脱出と言いましたが、遠くなければ海に入っても大丈夫ですよ。風船は一定以上の衝撃が加えられないと潰れない仕組みになってますので、泳げるフレンズさん達は水に入っても大丈夫です。で、誰かに叩かれたりして風船が潰れて寝てしまったら、黒いボスが後で回収します。そう言う段取りになってますから安心してくださいね。もちろん、ゲームは長時間が予定されてます。疲れて眠る分には寝ても大丈夫です。ゲームの開催エリアはこの島全部。『時間』で禁止エリアを追加して行くので、一箇所に隠れたままでいられない形になります。指定時間になっても禁止エリアにいると、これもまた腕時計が作動して退場になりますから気をつけてくださいね」


 モツゴロウは笑ったままで。

 誰も、何も喋らなくて。

 博士もフェネックも、ちっとも起きてくれないのだ。

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