第3話 けつい
「フレンズの皆さんに時間と言うのは難しいですからねぇ。時計の見かたが分からないフレンズさんは腕時計に今何時? と聞けば、腕時計が声で今の時間を教えてくれますけど。まぁ、とりあえず、朝、昼、夜、深夜、の一日4回の放送で禁止エリアのこと、それから脱落したフレンズの名前をお伝えしますので、聞き漏らさないようにしてくださいね」
や、やっぱり、話が難しすぎて分からないのだ。
そうだ、かばんさんなら……と、かばんさんを見ると、あのかばんさんまで顔を青ざめているのだ。
そんなに怖いことを言われているのか?
「最後に大切なことを言います。24時間。丸一日。例えば朝から次の朝まで誰の風船も潰れなかった場合には、全員の腕時計が作動しますよ! 全員失格です! 優勝者はいません!」
モツゴロウは一匹一匹、フレンズの顔を見て、それから言葉を続けたのだ。
「良いですか? 皆さんは潰し合いをするしかありません。最後の一匹になるまで潰し合いです。助かるのは、一匹だけです。退場したフレンズは檻に入れて、罰ゲームを受けてもらいますよ。とっても、とっても酷いことをされます。ととと、大事なことを忘れていました。失敬失敬!」
モツゴロウはアハハハハハと笑ったのだ。
「罰とは別に、退場したフレンズの『大切なもの』を奪わせてもらいます。例えば、好きな場所です。ロッジをバラバラに壊したり、温泉を二度と使えなくしたりですね。後、行動とかもです。踊ったり、歌ったり。何を奪われるのか、これは出発前にそれぞれフレンズさん達に教えて上げますよ。逆に、優勝したフレンズには、お願い事を一つだけ叶えてあげます。私達で出来ることならなんでも良いです。例えば、退場したフレンズを助けて、とか」
……優勝したら、フェネックを助けてもらえるのか?
と、アライさんが思うと同時に、助手がビクンと体をこわばらせたのだ。
……大切なものを奪う?
アリツカゲラ(キツツキ目キツツキ科ハシボソキツツキ属アリツカゲラ)やキツネの二匹、それからカピバラが顔を真っ青にしてる。PPPも、マーゲイ(ネコ目ネコ科オセロット属マーゲイ)も、みんな、みんな、泣いたり、怯えたりしてるのだ。
そして、次の瞬間、フレンズがみんな、他のフレンズと目を見合わせて、慌てて逸らしたのだ。
な、なんなのだ?
何か、不穏なのだ。
自分の風船を潰す奴がいないか周りを見てしまって、目が合ったので慌てて隠したかのような、とても悪い空気なのだ。
もしかして、みんな潰し合いをやる気になってしまったのか?
ア、アライさんは、どうすれば良いのだ?
「それじゃあ、今からそれぞれ皆さんに『私達は潰し合いをします』と3回、言ってもらいます。黒いボスが一匹ずつ見て回りますからね。じゃあ、お願いしますね」
黒いボスは素早い。皆はその場に取り押さえられるようにして地面に押し付けられて、こう言われたのだ。
「『私達は潰し合いをする』ト、サンカイ、イエ」
「だ、誰が言うもんか!」
この声は聞いたことのある声なのだ。
これは確か、ハンターのヒグマ(ネコ目クマ科クマ属ヒグマ)か?
でも、ヒグマの「ヒィアアアアアアッ!」と言う叫び声が続けて聞こえて来たので、アライさんは怖くて震えてしまったのだ。
な、何をされたのだ?
「ヒグマちゃんは元気があっていいですねぇ。でも、言わないと電気が流れて痛いですよ? さぁ、みんなもすぐ言った方が良いですよぉ?」
全員が言うのに、時間はかからなかったのだ……
痛いと叫ぶフレンズ、ひたすら泣いてわめくフレンズ、仲の良い友達の名前を呼んで、助けを呼ぶフレンズ、それでも、みんなが一度は『でんき』と言うものを受けて、痛い思いをしたようで。
……みんな、何で、そんな簡単に言ってしまうのだ? アライさんは、絶対に言いたくないのだ。
「イイナサイ!」
「い、嫌なのだ。フェネック……! フェネック……!」
フェネックはぐったりしていて、何も答えないのだ。
手を伸ばしても、届かないのだ!
フェネック、お願いだから、返事をして欲しいのだ!
いつもみたいに、はーいよって、応えて欲しいのだ!
「う、うぎゃああああ!」
また、痛くなったのだ。
体がしびれて、痛くて、もう……アライさんは、辛いのだ……
「それ以上は痛いじゃすまなくなりますからね。続けるのは健康にも悪いし、フェネックみたいに眠ってもらうことになりますよ? せっかくかばってもらったのにねぇ」
モツゴロウが近くまで来て、ニヤニヤ笑っているのだ。
……アライさんは、フェネックのことを考える。
フェネックがアライさんを、自分が危ないかもしれないのに助けてくれたのは、アライさんのことが好きだからなのだ。守りたいと思ってくれたからなのだ。
今、眠らせられたら、その気持ちを、無駄なことにしてしまうのだ。
「う、ううう、アライさんは、潰し合いをするのだ……」
「ワタシタチハ、ダ」
「あぎゃああああ! わ、分かったのだ、私たちは潰し合いをするのだ……ワタシタチは、ツブシアイを、スル」
全員が言ったところで、解放されたのだ。
眠っている博士とフェネックは、黒いボスに運ばれて、檻に入れられてしまって、アライさんは悔しくて涙がぼろぼろこぼれて来て……
嫌なのだ。フェネックを、どこに連れて行くつもりなのだ?
うう、嫌なのに、でも、アライさんは、なんにも出来ないのだ。
泣いちゃダメだと思ったのに、目から涙がボロボロ出てきて止められないのだ。
「さて、それではゲームの始まりですよぉ! わくわくしますねぇ! それでは皆さん、正々堂々、楽しく潰して合ってくださいね!」
ただ、アライさんは思ったのだ。
絶対に、このモツゴロウの言いなりなんかにならない。
他のみんなも、お互いを信頼し合ってる。絶対に潰し合いなんかしない。
アライさんは、フェネックたちを助けて、何とかみんなと協力してモツゴロウをやっつけるのだ。
それで、こんなゲームなんかぶっ壊してやるのだ!
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