けものロワイアル

秋田川緑

開始前

フェネック(ネコ目イヌ科キツネ属フェネック)

第1話 さいあくのげーむ

『海よりなもの、来たる』


 このニュースはジャパリパーク中のフレンズ達をびっくりさせました。

 ボスを通して聞いたお話しでは、なんでも、ゆうえんちで美味しい料理を作って待っているとか。

 パーティを開くそうです。


「何をしているのだ、フェネック! 早く出発なのだ!」

「もー、アライさーん。待ってよー」


 私はフェネック。(ネコ目イヌ科キツネ属フェネック)

 私に声をかけたアライさん(ネコ目アライグマ科アライグマ属アライグマ)はもう、走り出しています。

 ボスから招待のメッセージをもらったので、喜び勇んでの大爆走です。

 その後ろを追いかける形になったのだけれど、これもいつも通りだなー、なんて、私は安心したものでした。



 そんなわけで、ゆうえんちにフレンズ達が集まりました。

 周囲には、見知ったフレンズ達が沢山います。


「『風船』ト、『腕時計』ヲ、カラダニツケテネ」


 見知らぬでっかいボスがいました。

 パークの外から来たボスでしょうか。

 色も黒くて、なんだか怖い。

 しかも太い手があります。短いですが、強そうです。


 でも、呼び止められたアライさんは、その腕を見ても怖がらずに、ボスから『風船』と『腕時計』を受け取りました。

 うん。アライさんは流石だねー。すごいよ、アライさん。


「でも、なんで、こんなのつけるのだ?」


 不思議がるアライさんに、近くにいたアクシスジカ(偶蹄目シカ科アクシスジカ属アクシスジカ)が言います。


「良く分からないけど、これ付けるのがパーティの決まりなんだって。どれすこーど? が、どうのこうのらしいよ?」


 どれすこーど?

 良く分かりませんが、この黒いボスが付けてくれるみたいなので、とりあえず付けて見る事にします。

 それにしても沢山のフレンズが集まっていたので、私は感心したものでした。

 じゃんぐるちほーのフレンズを始め、様々なちほーのフレンズがわいわいと過ごしています。


 遠くにいるのはプレーリー(ネズミ目リス科プレーリードッグ属オグロプレーリードック)とコツメカワウソ(ネコ目イタチ科ツメナシカワウソ属コツメカワウソ)でしょうか。

 うん。楽しそうにパタパタと走り回ってるので、きっとそうだと思います。


 博士(フクロウ目フクロウ科コノハズク属アフリカオオコノハズク)と助手(フクロウ目フクロウ科ワシミミズク属ワシミミズク)は、早く料理を食べさせろと言いたそうな顔をしていますが、誰に文句を言ったら良いのかが分からないようです。


「外から来た奴は強いと良いな!」

「ヘラジカは相変わらず血の気が多いなぁ、もう」

「でも、勝負してみたいだろ? 強そうだったら!」


 へいげんちほーのヘラジカ(クジラ偶蹄目シカ科ヘラジカ属ヘラジカ)達やライオン(ネコ目ネコ科ヒョウ属ライオン)達が、和やかに物騒な会話をしている姿も見れました。

 ペパプの面々やキタキツネ達、そして何よりもサーバル(ネコ目ネコ科ネコ属サーバルキャット)と、かばんさんまでいます。


 と、その時、遠くから大きな黒いボスがたくさん歩いてきました。

 足音がまるで地響きのようで、フレンズ達がどよめきます。


「ふぇ、フェネック……?」


 アライさんも怖がっているようです。

 ボス達はゆうえんちを取り囲み、それからステージの上に、何匹かの黒いボスを引き連れた、なんだか変わったフレンズが登場しました。

 マーゲイのようなメガネをしています。


「いやぁ、ジャパリパークのフレンズさん達はかわいいですねー! 私はネオアニマルエンパイアから来たモツゴロウです」


 私はジッと見ていました。

 このモツゴロウ。優しそうな顔をしていましたが、どこと無く不気味な違和感を感じます。

 まるで、セルリアンを見ているかのような、気持ちの悪い感覚です。

 そこへ、文句の矛先を見つけた博士と助手が騒ぎ立てました。


「モツゴロウだかなんだか知らないけれど、早く料理を食べさせるのです!」

「さっさと出すのです!」


 実にあの二匹らしいなー。

 と、しかし、モツゴロウは急に顔色を変えると怒り出したのです。


「黙りなさいッ! 今は私が挨拶しているでしょうッ!」


 誰もがビクッと体を震わせました。

 ものすごい大きさの声です。

 耳の良いフレンズが、目を白黒させながらフラフラしています。

 博士と助手も、びっくりして黙ってしまいました。


「……私の挨拶が先ですからね。静かにしてくださいね」


 モツゴロウは、またゆっくりと話し始めます。


「邪魔が入りましたが、改めて。えー、今日は来ていただいてありがとうございました。ここに招待したのは、皆さんです。会えて本当に嬉しく思います」


 にっこりとまた笑ってますが、不気味です。


「そこで、今日は皆さんに。あるゲームをやってもらいたいと思います。フレンズたちが、最後の一匹になるまでお互いに潰し合う」


 げーむ? 潰し合う?

 場にいたフレンズが、どよめきました。


「げ、ゲームってなんなのだ?」


 声に出したのは、私の隣にいたアライさんです。


「……まだ私が説明しているので私語は止めてくださいね?」

「お前はなんなのだ! パークの危機を感じるのだ!」

「私語は止めろって言ってるだろッ!」


 また怒鳴り声。

 そして動いたのは、怒ったモツゴロウの近くにいた、黒くて大きなボスです。

 手に持った、何やら筒のようなものをアライさんに向けています。


「ッ!」


 考えるより先に体が動きました。

 私はとっさにアライさんを突き飛ばして、アライさんの前に出ます。

 何故かはわかりませんが……あのままだったら、アライさんが危険だと思ったのです。

 きっと、私の中にある本能が、あの筒の先を向けられるのが危険だと私に教えたのでしょう。


 瞬間、筒の先が光り、私は体に何かが刺さったのを感じました。

 痛いと、そう感じたのは一瞬で、私は気が遠くなってその場に倒れてしまいます。


「い、いたたたた、何をするのだ、フェネック。……フェネック?」


 アライさんが体を揺さぶって来ましたが、私は動けません。体が動かないのです。


「フェネック! なんで、寝てしまったのだ? フェネック、起きるのだ!」

「起きれませんよぉ? 強力な麻酔銃ですからねぇ」


 アライさんとモツゴロウの声です。

 私はもう、何も喋れません。

 ただただ、声だけが聞こえました。


「いやぁー、しかし、パートナーをとっさにかばうだなんて、本当に良いコンビですねぇ。これは感動的だと思います。良いが取れましたよぉ。よーしよしよし!」


 モツゴロウがそう言って、続いて博士の質問が聞こえます。


「お、お前達は何が目的なのですか? こんなことをして……!」

「良い質問なので答えてあげますよ。ここは本当に素晴らしいところなんです。自然がいっぱいで、カワイイ動物も、フレンズも沢山いる。半ば放棄されていたんですが、最近になって、があることが分かりました。だから、ここでもっと素晴らしいことをしたいなと思って来たんですよ。今の状態でいるのが、本当にもったいない。物語はもっとドラマティックに、感動的に、そう在るべきだと思います。そこでゲームです。皆さん、腕時計はつけていますね。風船も忘れずにつけていますね?」


 モツゴロウはにっこりと笑って、それから元気な声で言いました。


「今日はちょっと、皆さんに。をして、もらいまーす!」


 全員、誰も、何も喋りません。

 私が意識を失うその瞬間、僅かに開けた目の前で、アライさんが頭につけている風船がゆらりと揺れました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る