第15話 まいぺーす
「あー、ジェーンだ」
フルルさん(46番 ペンギン目ペンギン科フンボルトペンギン属フンボルトペンギン)でした。
私はその、のん気な顔を見て、静かに流れ出た涙を感じます。
「ふ、フルルさん! どうして、ここに?」
「出発したら、アクシスジカとシマウマが風船潰されてたから、怖くて。誰もいなかったし、でも、ロッジに行ったら誰かいないかなと思っんだけど、迷っちゃったんだー。そしたら、こっちの方に誰かいる気がしたから、歩いてみたの」
全く不思議なことです。
こんなところで会えるなんて、思っても見ませんでした。
「ねー、ジェーン。じゃぱりまん持ってなーい?」
緊張感がまるでありません。
それがどうしようもなく嬉しくて、私はフルルに抱きつきました。
「フルルさん! もう! こんな時に!」
微笑ましく見ていたクジャクさんは、ソッと私に言います。
「ジェーンさん、良かったですね。こんな状況なのに、信頼できる方に会えるって、とっても素敵なことだと思います」
フルルさん、はきょとんとしています。
「でも、フルルさん、危なかったですよ。この先に行ったら、禁止エリアになって、腕時計が作動するって」
「そうなんだー」
「ほ、放送聞いてなかったんですか?」
このルーズさも私の知っているままで、私は心の底から嬉しさが込みあがってくるのを感じました。
こんな酷い状況の中でも、自分を保ってられる。
フルルさんは、ある意味、本当にすごい方なのだと感じました。
「あの、ジェーンさん。ちょっと確認なんですけど、他に信頼できる方は誰がいますか?」
クジャクさんが言います。
なるほど、これは話し合っておいた方が良いと思いました。
「えっと、まず間違いなく信頼できるのは、PPPの他のメンバーです。アイドルは潰し合いなんて、そんなことしませんから。それから、マーゲイさんも」
「PPPのマネージャーさんですね」
「はい。私達と一緒に、モツゴロウと戦ってくれると思うんです。きっと仲間になってくれると思います」
まずこの6匹は、まず間違いなく仲間になれます。
「それから後は、サーバルさんと、かばんさんです」
「かばんさん? ああ、一度、お会いした事があります。じゃんぐるちほーで。あまりお話は出来ませんでしたし、パークの危機には駆けつけられませんでしたけど」
クジャクさんは申し訳なさそうに続けました。
「その、私、飛ぶのがあまり得意じゃなくて。長い時間、飛び続けられなかったんです」
「そうなんですね。じゃあ、海を渡れたのは」
「火事場の馬鹿力、と言う奴かもしれないです」
きっとそうだと思います。
私がジャガーから走って逃げられたのと、多分、同じようなことが起きたのでしょう。
「クジャクさんは、誰か信頼できる方は?」
「パッと名前が思い浮かぶのは、キングコブラさんですね。彼女は、少し怖いとおっしゃられている方もいますけど、根はとっても優しい良い方なんです。もしかすると、すでに皆さんのために何か、行動を起こしてくれてるはずです。後は、ジャガーさん、ですが……」
言いかけて、口をつぐみます。
「ジャガーさんは、ダメです」
私は強く口に出してしまいました。
「ジェーン、どうしたの?」
不思議がるフルルさんに、私は言います。
「フルルさんも、ゆうえんちを出る時に、見たんですよね? 風船が潰されているの」
フルルさんは頷きました。
さすがのフルルさんも、怖かったのでしょう。
思い出したのか、少し、体が震えていました。
「あれ、ジャガーさんがやったんです」
でも、私がそう言っても、クジャクは未だにそれを信じていません。
「ジャガーさんは、そんなことをする方ではありません」
「クジャクさん、何度も言ってますけど、私、見たんですよ?」
「私も、何度も言ってしまいますけど、きっと、何かの間違いです。ジャガーさんは、進んでそんなことしません。見たというならば、私も見ていました。じゃんぐるちほーで、あの方は困っているフレンズのために、誰に頼まれたわけでもないのに頑張ってくれていた、ステキな方なんです」
……そんなの、このゲームに参加したら、どう変わるか分からないじゃないですか?
私は見たんです。それが証拠です。
どうしてわかってくれなのでしょう。
と、その時、その話題を関係ないことのように、フルルさんが言いました。
「それにしても変……」
「どうしたの? フルルさん」
珍しくフルルさんが何か考え事をしています。
「潰し合いゲームに参加してないフレンズ、どこにいったのかなぁ? あと、フレンズになってない動物も。フンボルトペンギンの友達もいたんだけど、どこにもいないの」
「……そう言えば、見て無いですね」
クジャクさんが答えます。
実を言うと、私も見ていません。いえ、周囲を気にする余裕なんて無かったのですが。
しかし、今もそうです。一匹や二匹、その辺にいてもいいはずなのに……と、考えましたが。
近くを見ても、どこにも気配はありません。
それに、フルルの言ったとおり、フレンズ化していない動物の気配も少ない気がします。
……もしかすると。
私はとある予感を感じて、体を震わせました。
クジャクも同時に思い立ったようで、私に言います。
「みんな、モツゴロウさんに捕まってしまったのかしら」
ありえそうな話です。
私たちは近くにいたボスが『招待状』と伝えてきたので、ゆうえんちまで頑張って歩きましたが、みずべちほーはそもそも、すごく遠いところにあります。
それでも、色んな方が今日の朝、ほとんど同時にゆうえんちに集まれたのは、何故なのでしょうか。
……もしかしたら、時間差なのかも。
遠いところから、順番に招待のメッセージを送って、呼び寄せる。
フレンズが出発したら、その隙に、招待した以外のフレンズを捕まえてしまう。出発した場所から順番に、あの黒いボスが、フェネックさんを眠らせた筒を持って。
そうして、ゆうえんちにみんなが集まった頃、あの場所にいなかったフレンズは、すでに、みんな捕まってしまっていたのでしょう。
きっと、このゲームの邪魔になるから。
うう……この想像が事実なら、実に用意周到な敵だと言う事になります。
ものすごい綿密に計画された、恐ろしい話です。
でも、どことなくありえる気がするのが一番怖いところでしょうか。
でも、考えてばかりもいられません。
どこからどこまでが禁止エリアになるのか、良く分からないのです。
とりあえずはロッジに向かいましょう。
私は気を強く持ちました。
相手がどんな敵だろうと、負けるわけには行かないんです。
だって、私たちは、アイドルなんです。
怯えた子に手を差し伸べて、潰し合いをしているジャガーさんみたいな方からは助けないと。
プリンセスさん。私、一生懸命頑張ります。
……ああ、どうか、
そして、モツゴロウを倒せますように。
(残り47匹)
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