ジェーン(30番 ペンギン目ペンギン科アデリーペンギン属ジェンツーペンギン)
第14話 にたものどうし
……いえ、海に向かったわけではなく、無我夢中で走っていたら、いつのまにか海にたどり着いていたのですが、ともかく、私は泳いで逃げました。
ジャガーさんも泳げるとは聞いてましたが、泳ぎには自信があったのです。
とは言え、海に飛び込んだ時、ジャガーさんの姿は見えないほど引き離せていたので、そんなに心配することは無かったかもしれません。
しかし、念には念をと、私はジャガーさんが泳いで来れないほどの距離を泳いでから、陸地に上がりました。
そして、私はクジャクさん(24番 キジ目キジ科クジャク属クジャク)と出会ったのです。
クジャクさんは全力で泳いだ私が、疲れきって倒れているところに声をかけてきました。
「あの……
私は逃げようとしましたが、疲れた体は上手く動かせず……ここで私の風船も潰されてしまうのだと覚悟しました。
でも、クジャクさんは礼儀正しく、私にこう言ったのです。
「大丈夫ですか? とっても疲れてるみたいですけど」
私を心の底から心配しているその声に、私は逃げるのを止めました。
信頼できるかどうかは、その時はまだ分かりませんでしたが、話をして、彼女に関しては警戒の必要は無いんだと思い知りました。
彼女は、とっても素敵な方です。
むしろ、彼女の、あまりにも無防備な様子は、私が逆に心配してしまうほどでした。
そして、これからどうしようかと話し合いをしようとしたところに、モツゴロウの放送です。
多分、私達、PPPがライブの時に使うような、大きな音が出せるものを使ったのでしょう。
あの放送はパーク中に響き渡ったと感じさせるほどの大音量でした。
それよりも、私が気にしたのは、その内容です。
「……ジェーンさん、今の聞きました?」
クジャクさんも同じことを考えていたようで、私は震えながら答えました。
「は、はい。禁止エリアって、もしかして、ここ?」
尖った陸地――遠くから見たことがあるので、間違いないでしょう。
多分、ここが禁止エリアになると言う『はんとう』なのです。
「ジェーンさん、どうしましょう。日が沈むまであまり時間がありません。幸い、ここは『はんとう』の入り口ですけど、念のために、ロッジの方に向かったほうが……」
クジャクさんは冷静です。
礼儀正しく、おしとやかで、それでいてハッキリと自分の意志を持っていると感じました。
彼女は私に似ているようで、全く似てません。
私はこの時、彼女に少しだけ憧れました。
こんな状況でも、ハッキリと前を向いていられる。
いえ、クジャクさんも最初は潰し合いが怖くなって、この『はんとう』まで飛んで逃げて来たそうですが、それでも今は、しっかりとした心の強さを感じます。
……彼女とここで会えたのは、何か縁があったからなのかも知れません
「そうですね。クジャクさん、私もロッジの方に行ったほうがいい気がします」
私も一生懸命、がんばらないと。
そう思って、言いました。
クジャクさんは優しく微笑んで、私に言います。
「ジェーンさん、ありがとうございます。じゃあ、向かいましょう。でも、急いではいけないと思います。さっきの放送では、もう、7匹も風船を潰されてしまったそうです。やる気になっている誰かと鉢合わせしないように、慎重に進みましょう」
「はい」
私たちは海岸を歩きました。
ここが『はんとう』なのは間違いありませんが、どちらかと言うと、ロッジに近い場所にいるようなので、ゆっくり進んでも、ここが禁止エリアになる前に、ここを離れられるでしょう。
しかし、ロッジです。
多分、誰かがいる。いえ、誰かがいると思い込んで、集まるフレンズがいる。
そう思います。
怖がって、誰かに会いたがっているフレンズがほとんどでしょう。
でも、そのフレンズを狙った、やる気になっているフレンズが現れることも、十分考えられました。
そうして色々考えているうちに、海岸を離れます。
木々や土の地面が続き、時々クジャクさんがロッジの方角を確かめて、私たちは慎重に進みました。
「それにしても」
クジャクさんがコソコソと私に言います。
「どうしてみんな、潰し合いなんて始めてしまったのでしょうか? いえ、こんな状況ですけど。でも、やる気になるフレンズさんは、誰なんでしょう? 私には思いつきません」
「……あの、さっきも言いましたが、ジャガーさんは、やる気になってます。もしかすると、ジャガーさんが他のフレンズの風船を潰して回っているかも、です」
実を言うと、クジャクには打ち解けてからすぐに伝えたので、これで二度目です。
ですが、彼女は、決して私が体験した出来事を信じてくれません。
「そんなことをする方ではないのですが」
「でも、本当なんです。目の前で、アクシスジカさんの風船が潰されたんです。サバンナシマウマさんも。放送でも、二匹の名前、呼ばれてたじゃないですか」
「……何かの、事故ではないですか?」
事故?
そんなわけありません。
私は、思い出すだけで震えが来ました。
ジャガーさんの攻撃で吹っ飛ばされたアクシスジカさんの悲痛な叫びと、腕時計の作動したパンッと言う音。
足元で転がっていた、サバンナシマウマさんの潰された風船。
そして、パニックになって走った私は、ジャガーさんに追いかけられました。
私の風船を潰すために、後ろから迫って来たのです。
『待って! ジェーン!』
続いて叫ばれたジャガーさんの言葉は良く聞こえませんでしたが、きっとこうです。
『待てよ、ジェーン! お前の風船も潰してやるよ!』
……待っていたら、多分、私もモツゴロウの放送で名前を呼ばれていたでしょう。
「あの、ジェーンさん。どうしても、ジャガーさんを信じられませんか?」
「ごめんなさい」
クジャクさんの言葉に、私は謝りました。
とてもじゃないけれど、信じられません。
むしろ、どうしてクジャクさんが分かってくれないのか、それを思うと心配でならないのです。
もし、ここでジャガーさんが現れたら……
と、その時、ゆっくりと移動していた私達の目の前に、私の良く知るフレンズが現れました。
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