マーゲイ(48番 ネコ目ネコ科オセロット属マーゲイ)

第16話 ばつのおもさ

 私ことマーゲイ(48番 ネコ目ネコ科オセロット属マーゲイ)が出発したのは、だいぶ後になってからでした。


 残っていたのは私を入れて、七匹。

 プリンセスさん以外のPPPぺパプも、みんな先に出て行ってしまい、私はプリンセスさんの目を見て、無言でうなずきます。

 私語をすると、フェネックさんのように、あの黒い筒で眠らせられてしまう可能性があった為、私たちにはそれくらいしかできなかったのです。


 でも、今考えると、へいげんちほーのフレンズたちが、こっそりと話をしていた気がします。

 気づかれないのであれば、大丈夫だったかも……もし、隠れてこっそりやれば、待ち合わせの打ち合わせが出来たかもと思うと、失敗した気がしてなりません。


 ともかく、私が出発したのは最後から八番目。

 そして、出発する寸前、モツゴロウに言われたのは、風船をつぶされた時の重い罰の話でした。


「マーゲイちゃん、君が負けたらPPPぺパプのマネージャー、辞めてもらいますからねぇ」

「えっ」

「ついでに、PPPぺパプのメンバーとも接触禁止ですよぉ。質問は受け付けません。さぁ、出発してください」


 ……負けられない。

 いえ、ゲームに乗る気はありませんが、風船を潰されたら、私はきっと生きてはいられない。

 絶対に、モツゴロウを倒さなくては。


 私はグッと闘志を高めながら入り口から出ました。

 すぐに他のフレンズと合流できるはず。

 勝てるはずです。みんなと一緒なら、必ず……!


 しかし、ゆうえんちの入り口で私を待っていたのは、風船を潰されたアクシスジカとサバンナシマウマの、無残な姿でした。

 同時に、理解。

 潰し合いがここで行われ、犯人がどこかにいるかもしれない。

 すぐ、近くで、私の風船を狙っているかもしれない。


 その場にいたら危ないのは、それで分かりましたので、私は一目散に走りました。

 誰かが呼んでいた気がしましたが、止まるわけには行きません。

 もしかすると、私の風船を狙っていたフレンズかもしれないので。


 そうして、私はなんとかその場を脱出することに成功しました。

 息が切れても走り、足が痛くなっても止まれず、私はついに倒れこんでしまいます。


「はぁ……はぁ……」


 息が、整いません。

 しかし、このままでいるのも危険。

 私は得意の木登りで上に隠れることにして、そのまま体を休めました。


 心を落ち着かせようとしましたが、無理です。

 絶望しました。

 このままでは、仲間を集めて助け合う、信じ合うなんて、とても出来そうにないのですから。


 そう、潰し合いは始まってしまった。

 今もどこかで、誰かの風船が潰されているかもしれない。

 誰かに会ったその瞬間、私の風船はつぶされてしまうかもしれない。

 それを思うと、怖くて、怖くて……


 降りるに降りれず、私はそのままモツゴロウの放送を聞きました。

 木の上で、心の休まる瞬間は訪れません。


 潰されたフレンズの数は、七匹です。

 確実に進行しています。

 と、その時、何かが擦れる音が聞こえて、私は慄きました。


「ひっ……」


 風の音です。風が、すぐ近くの枝を動かして触れ合わせたのです。

 怖がることは無いと、私は必死に自分を落ち着けようと努力しました。


 しかし、同時に私は、今乗っている枝が今にも折れそうになっているのに気づいて、泣きながら違う枝に移ります。

 脆くなっているのです。

 普段なら、こんな枝には乗らないのに、と、冷や汗をかきながら、私は呟きました。


「こ、怖い、です……みんな……どこにいるんですか?」


 声を出してから、失態に気づきます。

 誰かに聞こえたら、私の居場所がばれてしまう。

 居場所がバレれば、狙われてしまう。


 私は必死に枝にすがり付いて、周囲を見渡しました。


 ……大丈夫、誰もいない。


 私は、一瞬だけ安心しましたが、このままここにいるわけにも行きません。

 先ほどのモツゴロウの放送では、PPPぺパプのメンバーは呼ばれませんでしたけれど、これから先、彼女たちの名前が放送で呼ばれないとは限らない。

 私は、PPPぺパプのマネージャーです。マネージャなんです。


 彼女達は、私が守らないと。


 私はそろりと木を降りました。


 でも、やっぱり怖くて、恐ろしくて、仕方がありません。

 しかし、こうも怖がっては、踏み出す一歩も、恐る恐るになってしまう。


 私は、危険であると理解しながらも、かすかな声で聞きなれた歌を歌いました。

 自分を勇気付けようとしたんです。

 大空ドリーマー。

 大好きな曲です。

 夢のつばさが私にもあればと。踏み出す勇気をもらいたいと。

 でも、そのメロディを思い出すだけで、涙が、ボロボロとこぼれてしまいます。


 ……嫌です。マネージャーを辞めるなんて、耐え切れません。

 PPPぺパプは、今の私の全てといっても過言ではないのです。


 その時、すぐ隣からプリンセスさんの声が聞こえた気がしました


『マーゲイ! 泣いてる暇なんて無いわよ! もう、しょうがないわね! ほら、前向いて歩かないと! どこまでも私たちと行くわよ!』


 もちろん、プリンセスさんはいません。

 私の、幻聴です。


『おいおい、どうしたんだよ、マーゲイ。しけた顔してんなぁ。ロックに行こうぜ!』

『元気出してー。私のじゃぱりまん、食べるー?』

『マーゲイさん、がんばって!』

『マーゲイがいないと、私たちはダメなんだ。頼む、しっかりしてくれ』


 いつのまにか、みんなに囲まれて元気付けられていました。

 幻覚です。いるはずがないのです。

 でも、今の私にとっては、それがとても勇気をくれる。

 しかし、同時に失いたくない、とても尊くて儚くて、すぐに壊れてしまうような幻想に思えてしまうのです。

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