第17話 ぺぱぷはわたしがまもります
「……みなさん。私、どうすればいいんですか?」
危険がどうとか、もう、関係ないほど、私の精神は限界でした。
涙が、止まりません。
憧れでした。
手の届かない、歌って踊るアイドルと、一緒に仕事が出来る。
こんなステキな毎日が、これからもずっと続くと思っていました。
でも、モツゴロウがやってきて、全てぶち壊しになりました。
私は、このパークで一番のマネージャーです。
だから、分かります。分かってしまったのです。
このゲームは本当に、用意周到に準備されている。
禁止エリア、風船の潰し合い、罰則。
奪われる大切なもの。風船を潰されるのが怖くて、他のフレンズの事を疑ったり、潰し合いに参加せざるを得なくなるような、恐ろしいルール。
腕時計はとてもじゃないけれど、外せません。
ある程度力を入れて引っ張っても大丈夫のようですが、外そうとすると腕時計が作動すると言われれば、試しに外してみる、なんてことを考える気にもなりません。
この腕時計のせいで遊園地に近づくことも出来ない。
抵抗の可能性は、ことごとく潰されています。
モツゴロウと戦うなんて、私たちにはとてもじゃないけど無理なのです。
物理的に不可能なんです。
……じゃあ、ゲームに乗るしかないのでしょうか。
もし、上手く勝てて、全員の罰の取り下げだとか、モツゴロウ達の撤退を願ってみることも考えましたが、そんなこと、あのモツゴロウが聞いてくれるはずがありません。
そんな願いも叶えてくれる気があるのなら、最初からパークには来ないはずです。
「どうすれば、いいんですか……!」
涙が、ボロボロと地面に落ちます。
ほんとなら、何日か後にはゆきやまちほーの温泉で仕事をしているはず。
仕事が終わったら、彼女たちと温泉に入って、彼女たちのツルツルになった姿を見ることが出来る。
それが楽しみで、楽しみで……
と、その時、木の枝が上から落ちてきました。
危うく、私の風船に直撃するところでしたが、幸運にも、枝は風船に当たらずに、地面に落ちます。
「ひ、ひゃああああああ!」
私は、叫びました。
風船は、潰れてません。でも、危なかった。
「誰ッ! 誰なの! 私の風船を狙ってるの!」
しかし、木の上には誰もいません。
でも、そんなわけありません。
ないはず。
私の風船を狙って枝を折って落としたフレンズが、近くにいるはずなのです。
「どこなんですか! 隠れるなんて……! 止めてください! 私は……! ぺぱぷの……! やめ、て! やめてぇぇぇ……」
もう、頭の中がぐちゃぐちゃです。
「うっうげぇぇぇぇ」
急に気持ちが悪くなって私はその場で胃の中のものを吐いてしまいました。
酸っぱい臭いと共に、早朝に食べたじゃぱりまんの残骸が地面にぶちまかれ、そうした汚物が、風船を潰された後の自分と重なって、私は自然とお腹の底からわいて出た嗚咽を、止められませんでした。
体がガタガタと震えます。
寒い……
「い、いや……! だれ、か……!」
幻聴の、皆の応援も、歪んで聞こえてきます。
『しっかりして、マーゲイ!』
『そうだよ! お前なら、もっと、上手くやれるって!』
『マーゲイのためだけに、歌おうか? ほら、元気出して』
『よしよしー』
『勝ち残るんだよ、マーゲイ!』
『マーゲイさん、私たちを守ってください! 助けてください!』
頭の中が、グルグルと気持ちの悪い感覚でいっぱいになっています。
ただ、PPPのみんなの声だけが、私の心の中をいっぱいにして……
そうして、目の前にフレンズがいるのに気づくのが遅れました。
このフレンズは、確か、エリマキトカゲ。
「う、うわぁ! びっくりした!」
「な、何よ、あん、た……ッ!」
言葉を口に出し、目が合って、数秒。金縛りに遭ったように双方動けませんでした。
でも、このままではいけない。
こいつです。
このフレンズが、私の風船を狙っているに、違いないのです。
私はグッと歯噛み締めると、腕を少しだけ動かして、威嚇しました。
来たら、容赦しません。このままどっかに行ってください。
でも、その瞬間、エリマキトカゲは弾かれたように動いて、泣きながらこちらへ、一気に走って来ました。
ものすごい迫力のダッシュです。
『マーゲイ! 危ないよ! お前の風船を狙ってる!』
『きをつけてー』
「ひ、ひぃあぁぁぁぁぁッ!」
私は情けない声で叫びながら、木の上に登りました。
風船は、まだ、無事です。
でも、みんなの声が、ぐにゃぐにゃとした変な聞こえ方で、私の頭の中で響いているのです。
『マーゲイ、頑張って!』
『負けないでェェ、マーゲイィィィィ!』
『マァァァァゲイィィィィィ!』
頭が、痛い。
気持ち悪い。
皆の声が、体中にまとわりついて、目がグルグルと回っています。
『マーゲイィィィィッ! そいつが、お前の風船を、狙っているぞォォォ!』
『……せッ! ……せッ! ……る前に、……せッ!』
みんなの声が、私の頭の中で響いて、パンクしそうになって……
『潰される前に、潰せーッ!』
その言葉だけがはっきり聞こえました。
「そ、そう、そうだよね、みん、な……あは、あはゃ、ひゃひゃ」
私は急におかしくなって、笑いました。
だらだらと気持ちの悪い液体が顎を濡らしています。
唾液です。誰のでしょうか。気持ち悪いですね……!
「つ、潰さないと、です、よね? そうだよ。私の、風船が、潰される前に、潰さないと」
気がつくと、私は木から飛び降りていました。
一直線に、エリマキトカゲの、風船だけを目指して。
「う、うわああああああああ!」
標的の叫びと驚愕の表情を気にせず、私は手を振りかざして、一気に風船に叩きつけました。
エリマキトカゲは泣きながらのた打ち回り、何やら喚いていましたが、それでも、私は執拗に風船を狙い続けました。
『すげぇぇぇぇぇぇ! 流石だぜぇぇぇぇ、マネージャァァァァァ!』
『その調子よォォォォォマァァァァゲイィィィィィ!』
『まねーじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
『油断するなぁァァァ潰せェェェェェ!』
そ、そうだよね、みんな!
まだ、この風船は動いてる! 私の風船を! 潰されないようにしないと!
みんなを、守らないと!
パンッと音がしました。
それは、エリマキトカゲの腕時計が作動した音です。
彼女は倒れこんで動かなくなります。
私の風船は、無事です。
「あひゃ、ひゃ、ひゃ」
気持ちの悪い声が聞こえました。
誰でしょうか? 狂っている、気持ちの悪い声です。
もう、迷いません。躊躇無く、潰すんです。
みんな、潰すんです! 私の、風船を、狙わせないようにしてやるんです! ペパプは、私が、守るんです!
「ひゃ! ひゃはゃ! ひゃは!」
引き続いて、誰かの、狂った笑い声が聞こえました。
とても悪い奴の声に聞こえます。
……許せない! このゲームで、
私は、悪い奴を探すために走り出しました。
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退場フレンズ
エリマキトカゲ(12番)
(残り46匹)
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