第12話 まもるためにひつようなこと

「お、オオアルマジロ? なんで?」

「……」


 わ、わけが分からないよ。

 オオアルマジロは、お腹を抱える形でそこに座り込んでいたけど、彼女はまるでピクリとも動く様子が無かった。

 だって、お腹についてる風船が、潰れてるんだ。

 顔は涙で濡れていて、それが、風船を守ろうと必死になっていた様子を浮かばせていて……でも、なんで? どうして? 誰にやられたの? オセロット? それとも……


「もしかして、その、オオアルマジロも、キングコブラを襲ったの? こんな、攻撃できなさそうな子が、どうして……」

「なぁ、フォッサ。私は考えたんだ」

「か、考えたって、何を?」


 キングコブラは表情を変えずに、淡々と語りだす。


「私は強い。お前が思っている以上にな。自分でもそれは分かっている。だから、モツゴロウを倒す事だって出来るかもしれないとすら思ったよ。いや、それが最善の手だということは分かっているんだ。だが、私はダメなんだ。それに気づいた」

「ダメって、何が?」

「私は頼まれごとをされたり、ましてや命令されたりすると、体が勝手に従ってしまう。多分、動物だった頃の本能だ。だから、モツゴロウに戦うなと命令されたら、私では反抗することすら出来なくなるだろう」

「キングコブラ……まさか」


 私は再び身構えた。

 命令されたら、頼みごとをされたら従ってしまうって、それは、モツゴロウの言われたことに従って、ゲームに乗ってしまったってこと?


「勘違いするな。私はみんなを守りたいと思っている。全てを救おうと思わずして、なんのためのキングか」

「で、でも。じゃあ、なんで? どういうことなの?」


 私は混乱している。

 オセロットに襲われて、返り討ちにしたってさっき聞いたけど、じゃあ、オオアルマジロの風船が潰れているのは何でなの?


 教えてよ、キングコブラ。

 オオアルマジロの風船は誰に潰されたの?

 一体、ここで何が起きてたの?


「……考えたのだ。私はここに来て、泣いているオオアルマジロを捕まえた。オオアルマジロは言ったよ。助けてと。何でもするから、見逃してくれと。そもそもこの時点で、私は何もするつもりが無かった。でも、彼女の、戦うことすら出来ないあまりの悲痛な怯えように、私は決意したんだ。彼女たちを救わなければならないと」

「け、決意って? だ、だから、決意ってなんなの? 意味が分からないんだって……!」


 キングコブラはスッと目を細める。


「その後、オオアルマジロを助けようとしてオセロットが襲ってきた」

「……え?」

「返り討ちにしたよ。そして私は自分の強さを改めて確認した。こと、風船の潰し合いなら、私はきっと誰よりも強い。現に、あのオセロットでさえ簡単に倒せたんだ。でも、こんなに強い私でも、モツゴロウには勝てない。なら、どうするか。私に何が出来るか。そして、考えた結果、みんなを救うための、たった一つの方法を思いついたんだ」


 キングコブラがこちらに向かって、踏み出す。

 一歩、二歩、三歩。


「き、キングコブラ? それで、オオアルマジロは、何で? 救うって、どうやって? 答えてよ! オオアルマジロの風船は、何で潰れてるの!」


 頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 彼女の風船が潰されている説明が、まだ無い。


「オオアルマジロの風船が潰れている理由か? 簡単だ。私が」


 瞬間、キングコブラの、鋭い眼光が、私を射抜いた。

 胸の中を掴まれたようなものすごい緊張感で、私は動けない。

 そして、気づいたときは、遅かった。

 キングコブラの攻撃の意志が、私の心を一気に飲み込んだのだ。


 彼女の眼光で竦んだ私に、続けて放たれた変則的な攻撃の軌道は読めるはずも無く、私の風船は簡単に彼女の手で潰されてしまった。


 ピピピと鳴り出す、腕時計。

 キングコブラは、説明の続きを、まるで何事も無かったかのように私に言った。


「……私がゲームに乗ったからだ」


 全て、悪い夢だと思う。

 いや、そう思いたかった。

 救うって何を? 友達の風船を潰して、どうやって救うって言うの?

 風船を潰されたら、それでおしまいじゃない!


「安心しろ。ゲームに優勝したら、全員の罰の取り下げと、奴らの撤退を願ってやる」

「そ、そんなの」


 パンッ! と言う爆発の音がした。

 すぐ近くで。私の腕で。

 吹き出る煙と、私の腕に走った痛み。

 それで、私はもう、ここまでだと言うことが分かった。分からざるを得なかった。


 意識が遠のく。体に、力が入らなくなって、私は……


 ……


 喋りたかった。

 こんなの間違ってると伝えたかったのに、口も、舌も、体の全部がしびれて、伝えることが出来ない。


 キングコブラの、バカ。

 そんな願い、叶えてもらえる保障なんて、ないじゃない。

 あのモツゴロウが、そんなお願い、聞いてくれるなんて、そんなこと……


 でも、私はそれ以上のことを考えられなくなっている。

 意識を失った私が最後に見たのは、煙の中でその場を後にするキングコブラのシルエットだけだった。


―――――――――――――――


 退場フレンズ


 オオアルマジロ(13番)

 オセロット(17番)

 フォッサ(45番)


 残り47匹

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