第41話 あたらしいなかま
ジェーンとフルル。
あいつら、ずっと一緒にいたのか?
「あなたは、誰ですか!」
建物の中からジェーンは叫んでいる。
……どうするか。
あいつら、二匹で一緒にいたってことは、潰し合いのゲームに乗る気がないのか?
だとしたら、信用できる?
「はやく、答えてください!」
「おい、待て、大きな声を出すな!」
言ってから、オレだって大きな声を出しているじゃないかと思ったけど、とりあえず、目立つのはまずい。
こうも暗いんじゃ、大きな音は目立ちすぎる。
ただでさえ、ロッジにフレンズが集まってくるかもしれないって言うのに。
「オレは、ツチノコだ。やる気は無い」
声の大きさを抑える。
聞こえたか、聞こえてないかは分からない。
ピット器官で見ている二匹の動きがほとんど無いので、何を考えているのか。
とりあえず、もう一度、オレは言った。
「オレはやる気はないぞ。だから、とりあえず、そっちに行かせてくれ」
こんなところで棒立ちなのは勘弁だぜ。
いや、ピット器官で周りを見れば、誰もいないことくらいは分るけれど、それでも、常に周囲に気を配るって言うのは、正直、疲れるからな。
オレは一歩、踏み出した。
回れ右して林の中に隠れることも考えたが、それよりも建物の中に隠れたい。
オレのピット器官にだって死角はあるし、どこからか襲ってくるかもしれない相手に対して常に注意を払わなきゃいけないのは疲れるから、な。
「良いか? 入るぞ?」
ドアを開けて、ロッジに入った。
近くの曲がり角で、二匹のペンギンが震えながらこちらを見ている。
「こ、こっちに、あまり近づかないでください!」
「何だコノヤロー! オレだって、別に近寄りたいわけじゃない!」
「なら、何で入って来たんですか?」
「外が危険だからだ! オレだって、出来れば入りたくなかった! あのな、オレはただ、そっちがやる気がないって言うのを、信じただけだ」
信じたなんて出まかせだ。
こんなゲームの中じゃ、常に疑ってかかるべきだし。
まぁ、こうでも言わなきゃ落ち着いてくれそうもないからな。
……いや、落ち着いていないのは俺も一緒だけれど、とりあえずはそう言うしかなかった。
こいつらが本当にやる気がなかったとして、オレはこいつらを、信じられるか?
信じて良いのか?
そもそも、本当にやる気はないのか?
騙して、こっちが気を抜いた瞬間、襲って来ないか?
不安は尽きない。
オレは近くの柱に身を隠す。
顔を少しだけ覗かせて、それからジェーンに言った。
「良いか? オレは、別に仲間になりたいだなんて、そこまでは思ってないからな」
「仲間に……?」
ジェーンは、少しだけ考えこんだ後、何かを確かめるようにして言った。
「あの、ツチノコ、さんは、やる気が無いって、どうして? 信じて良いんですか?」
まるで、地面に散らばったジャパリコインを一枚一枚拾って、確認するかのような慎重さだった。
「こんなクソゲーム、乗ってたまるか」
……いや、このゲームに乗りたい奴なんかいるわけないだろ、なんて言うのは簡単だけれど、現実問題としてゲームに乗っている奴は一匹どころじゃないらしい。
そもそも、モツゴロウに反撃、なんて手段は誰も思いつけないし、モツゴロウと戦うにしても、逃げるにしても、ゲームに乗る以外の選択肢が酷く難しく思えるからな。
かばんと、助手以外は。
……そうだ。
もし、この二匹がやる気だったとしても、伝えるのは悪くないぞ。
「なあ、良いことを教えてやる。かばんと助手が、モツゴロウをやっつけるために動いてる。あの二匹は……少なくとも助手はモツゴロウと戦うための方法を知ってる」
「ほ、本当ですか?」
「直接聞いたから間違いない。考え付いたって言ってた。って、こんなこと、うそ言って何になるって言うんだよ」
「じゃあ、どうして今は一緒じゃないんですか?」
「かばんの奴が、我がまま言うからだ。トキを助けに行きたいだなんて言って」
ジェーンはそれを聞くと、どこか納得したようだった。
「かばんさん、優しい方ですからね」
「まったく、おせっかいな奴だぜ。でも、助手の考えた作戦だと、かばんはいなくちゃならないって言うし、だったら、オレが行くしかないだろ? だから、オレだけ別行動で、トキを助けに行ったんだ」
「そ、そうですか。トキさんを」
そこまで言ってからジェーンは涙ぐんで、それから涙をグッとため込むようして泣くのを我慢すると、言った。
「あの、私たちも、トキさんを助けたいと思って」
「そ、そうか」
「私たち、クジャクさんと一緒にいたんです。クジャクさんは、空が飛べるからって、助けに行くって、でも……」
「言うな。別に言わなくても良い。オレだって、放送は聞いていたんだ。だから」
そこまで言った瞬間、ジェーンのすぐ近くにいたフルルが大胆に立ち上がって、オレの方へ歩いて来た。
ジェーンが慌てて、フルルの名前を呼ぶ。が、フルルを止めることは出来なかった。
「な、なんだ? やるのか、コノヤロー!」
「ねぇねぇ」
フルルが差し出した手には、ジャパリまんがあった。
「ジャパリまん食べるー?」
「お前、こんな時に……!」
妙な脱力感があった。
そう言えば、腹は減っている。
差し出されたジャパリまんを見た瞬間、お腹がクーと鳴るのが分かった。
「も、もらうぞ?」
「はい」
若干、顔が赤くなるのを感じながらジャパリまんを受け取って、口にくわえて、それから思った。
なんだ、こいつは。
こんな時だってのに、クソッ。
スナネコの奴を思い出して、ビックリしちまったじゃねーか。
しかし、こいつら、少なくともフルルは本当にやる気はないみたいだ。
顔を青ざめていたジェーンに叱られているアイツを見ると、どうにもそんな気がする。
で、そんなフルルと一緒にいるジェーンも、少なくとも自分が助かるために他のフレンズを潰そうだとか、錯乱して手当たり次第にフレンズの風船を潰そうとするだとか、そんなことをする奴には見えない。
相手がちょっと踏み出して手を伸ばせば届く距離に自分の風船を近づけるなんて、何の得もないからな。
こいつらなら、多分、信用できる。
こいつらなら、オレの言う希望を信じてくれる気がする。
まぁ、役に立つかどうかは分からないけれど。
「な、なぁ、実は、助手とかばんと、温泉で待ち合わせしているんだ。合流する予定なんだよ。だから、良かったら、お前らも」
と、そこまで言った瞬間、遠くで腕時計の作動する、パンッと言う音が響いて、オレたちは身を強張らせて、ロッジの外を見た。
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