ジャガー(29番 ネコ目ネコ科ヒョウ属ジャガー)

第6話 ぜんぜんわからん

 私はジャガー(29番 ネコ目ネコ科ヒョウ属ジャガー)。

 今、どうしたら良いかを必死に考えているんだけど、どうしたらいいのか、全然分からない。


 次々と出発していくフレンズ達を見て、どうしようもなく始められた風船の潰し合いゲームとやらに、私は怖くなってる。

 潰し合いだとか、ほんとにふざけているよね。


 風船を潰したら、相手の大事なものが奪われるだとか、そんなことが分かっているのに、他のフレンズの風船を潰そうとするなんて、誰もするわけないじゃないか。

 と、思う。


 でも、負ければ罰だとか、大切なものを取り上げるだとか、勝てばお願い事が一つ叶えてもらえるだとか、そう言うことが、私の頭をどんどん混乱させているのは事実なんだ。


 みんな、出発の時に、仲の良いフレンズと目線でコンタクトを取ったり、駆け寄って泣きながら抱き合ったりしている。

 冷静な顔で、それでも顔を青くしながら出て行くけものもいた。


 ……本当に大丈夫なの?


 誰もゲームに乗らず、誰も潰し合いをしようなんて思わないで、協力してここを脱出できるの?


 ……だ、だめだ。全然分からん。


「かばんちゃん!」


 サーバル(27番 ネコ目ネコ科ネコ属サーバルキャット)がモツゴロウに呼ばれて、でも、サーバルはかばんの方に走っていった。

 抱き合う二匹。


「私、外でかばんちゃんを待ってるからね!」

「う、うん、サーバルちゃん、ぼく……」

「ハイハイ! サーバルちゃん、早く出発しようね!」


 モツゴロウに引き離される二人。かばんは黒いボスに連れて行かれて、押さえつけられている。

 そして、モツゴロウはそんなかばんを忌々しげに睨みつけて、それからサーバルにこそこそと囁いていた。


「ええっ! なんで?」

「サーバルちゃんの大切なものを考えたら、当然でしょう?」

「そ、そっかー」

「負けたらそうなるからね?」


 とたんにサーバルが顔を青くして、かばんを見て、でも、黒いボスに追い立てられて、ゆうえんちを出て行く。


 その後、シマウマ(28番 哺乳網目ウマ科ウマ属サバンナシマウマ)が呼ばれて、少し経ってから、ついにその時が来た。


「次、29番、ジャガー!」

「わ、私?」


 私は立ち上がる。


「ジャガーちゃんは随分と聞き分けがいいねぇ。やる気も十分と言うことですか?」

「……そんなことしないよ」

「でも、しないと、大変なことになりますよ?」


 モツゴロウは私に囁く。


「あなたは、特別ですよ。大切なものを奪いません」

「えっ?」


 意味が分からない。


「なんで」

「ハイ、質問は受け付けませんよ。それじゃあ、出発してくださいね」


 モツゴロウは手に、あの黒い物を持って、私を脅していた。

 手を伸ばして奪えないのは、近くにいた黒いボスが、フェネックを眠らせたときに使った筒をこっちに向けていたからだ。

 私は出発するしかなかった。


 ……


 私はゆうえんちの出口に向かって歩く。

 外までの道のりは少しだけ長いけれど、ところどころに黒いボスが見張っているので、その方向にしかいけない。

 正直、まだどうすればいいのか全然分からない。

 それでも歩き続けている間、これからのことをずっと考えていた。


 私たちは潰し合いなんかしない。

 私たちは仲間なんだ。

 みんな、他のフレンズが大好きで、これまでだって、パークの危機をみんなで乗り越えて来たんだ。


 今回も、きっと大丈夫。

 うん。そうだよ。私の前に出たフレンズ達が、出た先で、きっと私のことを待ってくれている。

 それに、私の一つ前に出発したシマウマは、もしかすると、我先にと出迎えてくれるかもしれない。


 シマウマは、ぽけぽけふわふわしてて、マイペースだけど、とっても良い奴なんだ。

 不思議と気が合うし、いつか一緒に何か楽しいことが出来れば良いな、なんて考えたこともある。

 住んでいる所が違うので、あまり会う機会は無いけれど、それでも。

 シマウマもきっと、私のことをそう思ってくれているはずなんだ。


 私は期待しながらゆうえんちの外へ出た。

 そして、そのぬぼーっとしたシルエットを見て、私は安心する。


「シマウマ!」


 でも……


「シマウマ! ……どうしたの? 座り込んで」

「ジャ、ジャガー、わたし」


 様子が変だった。


「わたし、どうしよう、これ」


 気づいた。

 シマウマの腕時計が、ピピピと音を立てている。


「な、鳴ってるぞ! 腕時計! シマウマ! どうしたの! それ!」


 シマウマの返事は聞けなかった。

 シマウマが何かを言う前に、パンッと言う大きな音が鳴って、目の前でシマウマの腕時計が煙を噴出させたのだ。


「けほっけほっ! し、シマウマ! なんで!」


 博士と同じだった。

 シマウマは倒れこんで、ピクリとも動かない。


「なんで、こんな……」


 見ると、シマウマが頭につけていた風船が潰れている。


 何が起きたかなんて、考えたくなかった。

 でも、そうとしか思えない。

 ……シマウマの風船は、誰かに潰されたんだ。


 そして、私は、シマウマがいた方向の、その先で。

 涙をボロボロと流しながら野生を解放しているフレンズを見つけた。


「な、なんでだよ! なんでこんなことするのか、全然分からないよ! ……アクシスジカ!」

「こ、こうするしかないから……! お前の風船も、潰すからぁ!」


 そこにいたのは、同じじゃんぐるちほーのフレンズ。

 それぞれ両の手にツノの形をした武器を構えた、アクシスジカ(01番 偶蹄目シカ科アクシスジカ属アクシスジカ)だった。

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