オオアルマジロ(13番 被甲目アルマジロ科オオアルマジロ属大アルマジロ)

第10話 まもれるもの

 よよ、よよよ。

 アルマジロ(13番 被甲目アルマジロ科オオアルマジロ属大アルマジロ)です。

 ゲームが開始されて、でも、私はヘラジカ様(47番 クジラ偶蹄目シカ科ヘラジカ属ヘラジカ)達と合流する作戦があったので、目的地まで歩いてるんだけど……


 お腹が空きました!

 だって、何も食べてない。

 ゆうえんちに向かう時、ヘラジカ様が「料理が用意されているって言うなら、お腹を空かせていかないとな!」って言うんだもん!


 うう。結局、料理は用意されてなかったし、でも、今はそれどころじゃないよね。

 今、潰し合いのゲームとか言うのをやらされてるんだ。


 思い出すと緊張する。

 それにしても、私は、ゆうえんちを出たら誰かが待っていてくれると思ってたんだけど。でも、誰もいなかった。


 先に出発したヤマアラシ(03番 ネズミ目ヤマアラシ科ヤマアラシ属アフリカタテガミヤマアラシ)は……いえ、そもそもが現地集合とのことでしたので、いなかったのも納得だけど、それでも、意外だった、かな。


 うん。私は、事態を楽観視していたことに気づいたんだ。

 実際に歩いてみるまで分からなかったけど、今の状況は本当にまずいと思う。

 何がまずいかって、誰かが潰し合いに乗り気になっていたら、ただの一匹しかいない私では、簡単に風船を潰されてしまうってことなんだわ。


 いえ、私が防御に徹すれば意外と頑丈だと言うのは、かばんやサーバルと一緒に戦った最後の合戦をした時に気づけたので、時間稼ぎくらいは出来るかもしれないけれど。

 でも、それでも、誰かの風船を潰すなんて、私にはきっと出来ない。

 で、最後には風船を潰されてしまうと思う。


「うう、ヘラジカさま……」


 目に涙がじわりと浮かび、自然に名前を呼んでいましたが、ヘラジカ様はいったい、いつ出発なのでしょうか。

 私は、先に歩いていかずに、あのまま入り口でこっそりみんなを待っていたのが正解だったのでしょうか。


 ……分かりません。


 ただ、私は自分の身一つしか守れない。いえ、きっと守り抜くことすら難しい。

 でも、ヘラジカ様なら、きっとみんなを守れる。守ってくれる。

 何にも守れない私だけど、ヘラジカ様のお手伝いくらいは、きっと出来るんだ。


 行かないと!

 こんな私でも……やっちゃうですよー!


 えへへ、元気が出てきました。

 目的地は、火山のふもと。頂上へ向かう道の、最初の地点です。

 私はそこへ向かうために、またこそこそと歩く出すことにします。


 大丈夫。風船は私のお腹につけているので、誰かにいきなり潰されたりはしない。

 だから、大丈夫。


 と、自分に言い聞かせたその時、遠くで何かが走っているのが見えました。


「あれは、エリマキトカゲ?」


 エリマキトカゲ(12番 有鱗目アガマ科エリマキトカゲ属)です。

 こんなところをバタバタと走り回って大丈夫なのでしょうか。


「あんなに目立つのは……でも、声をかけるべき?」


 難しい問題、かな。

 あの子なら、足が速いし、仲間になれれば役に立つかもだけど、それでも。

 もし、あの子がゲームに乗り気になってたら、私の風船は簡単に潰されてしまう。

 いえ、それよりも問題は、あんなに目立っていては、ゲームに乗り気になったフレンズがいたら、真っ先に標的にされてしまうってことなんだ。

 なら、近くにいるのも危険?


 ……声をかけるのは止めようと思いました。

 その場を離れることにします。が、エリマキトカゲを避けるとなると、大きく迂回して回らなければなりません。


「ごめん。でも、仕方が無いから」


 私はしばらく歩いて、でも、今いる場所がどこなのかがだんだん分からなくなってきました。


「よよよ、迷ってたら、どうしよう」


 その時、前方の茂みがガサガサと動きました。


「ひっ……!」


 私はびっくりして、腰を抜かして地面にお尻をぶつけました。


「だ、誰?」

「ノダー! ヒトリハイヤナノダー!」


 よよよ! 間違いありません! これはお化けです!

 私はひたすら怖くなって、その場から逃げました。

 もう、どっちに走っているかは分かりません。


「へ、ヘラジカ様! ヘラジカ様ー!」


 声を出してはけないということに後で気づきましたが、でも、叫ばずにはいられませんでした。

 でも、怖かったんです。

 怖くて仕方が無かったんです。


 走って、転んで、坂をころころ転がり落ちて……立ち上がって、風船が割れていないのを確認して、そうして必死に走りました。

 

 気がつくと、私は、大きな木の下にいます。

 その根元で体を抱え込んで、わたしはひたすら泣きました。


 今まで強がっては見たものの、本当は怖かったんです。

 怖くて、仕方が無かったんです。


「う、うう、助けて。助けて、誰か。怖いよぉ、ヘラジカ様……」


 でも、ここで負けるわけには行かないのです。

 私は、ヘラジカ様たちと一緒にモツゴロウと戦って勝つ。

 みんなを助けるんです。


 涙を振り払います。

 こんなところで泣いてちゃダメなんだ。ヘラジカ様みたいになりたい。

 勇気を出して、行かないと……

 と、その時、近くに誰かがいるのを感じて、思わず声を上げます。


「だ、誰?」


 私は顔を上げました。


(残り50匹)

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