第9話 ろっくにいけない
「う、うわぁ! 何するの!?」
サーバルが思わず飛びのく。
で、誰がサーバルに攻撃したのか、その時わかったんだ。
「あれ、アクシスジカじゃないか?(01番 偶蹄目シカ科アクシスジカ属アクシスジカ)手に持ってる武器、見たことあるぞ?」
こっそりとコウテイに耳打ちすると、コウテイは顔を青くしながら頷く。
「つ、潰し合いのゲームに乗ったんだ。見ろ、イワビー。サーバルの、風船を狙ってる」
なおも突撃するアクシスジカの姿を見て、怖くなる。
サーバルは説得しようとしていたようだけど、結局、走って逃げだした。
かばんを見捨てるとは思えないので、後で戻ってくるかもしれないけれど、でも、サーバルはアクシスジカのせいで、この場を離れてしまったんだ。
「だ、ダメだ、やっぱり、怖いよ。イワビー、信用できるフレンズは選んだほうが良い。声をかけて、やる気になってたら、私達じゃ勝てっこない」
そうしてコソコソ話している内に、またアクシスジカは隠れた。
そこに、シマウマ(28番 哺乳網目ウマ科ウマ属サバンナシマウマ)が出てきたんだけど、様子がおかしい。
「あいつ、動かないぞ? 何やってるんだ?」
シマウマはボケーッとしている。
マイペースな奴だとは聞いた事があるけれど、そんなところで考え事をしているのか?
フルルみたいだな、なんて思ったけれど、そんなのん気にしていられないだろ?
「うーん、ここでジャガーを、待とうかなぁ。いつ来るか分からないけど」
これは、茂みまで届いたシマウマの独り言だ。
ジャガーと仲が良かったのだろうか。いや、オレたちが知らないだけで、きっとそうに違いない。
「……まずいぞ。アクシスジカがシマウマを狙ってる」
コウテイが、今にも飛び出そうとしているアクシスジカに気付いた。
ここからでは丸見えだ。
声をかけなければいけないと思う。
でも、声をかけると、アクシスジカにもこっちの場所がばれてしまう。
「ど、どうする、イワビー?」
「ろ、ロックに行かなきゃ……だぜ!」
でも、動けなかった。
足が震えて、どうしようもなく怖かったんだ。
でも、考えてる暇なんか無かったし、声をかけるには遅すぎた。
「あ」
コウテイがそう言った瞬間、シマウマの頭の上についている風船目掛けて、アクシスジカが飛び掛っていたんだ。
呆気なくシマウマの風船が潰れる。
本当はそんなこと無いのに、アクシスジカの持っている武器に潰される風船の様子が、とてもゆっくりに見えて。
シマウマはアクシスジカの体にぶつかってごろごろと転がり、驚いた顔でアクシスジカを見た後、立ち上がって、それから何かに気付いたようにして出口を見た。
……ジャガーだ。
なんて運が悪いんだと思う。
合流しようとした相手が、運良く次に出てきたのに、顔を見たときには自分の風船が潰されてるだなんて。
パンッと、こちらにも、シマウマの腕時計が作動した音が聞こえた。
煙も見えた。
シマウマは倒れて、動かない。
風船が潰されたらこうなるというのが、はっきりと感じられて、コウテイと二人で震え上がった。
なんで、フレンズ同士でこんなことしなくちゃならないんだ?
パークの危機は、協力して、苦難は分け合って、そうやって頑張ってきたじゃないか。
こんなの、絶対におかしいよ!
なあ、プリンセス。アイドルは、こういう時、どうすれば良いんだよ?
……いや、そうだよな。分かってる。
アイドルなら、いや、アイドルじゃなくてもそうだったけど、シマウマを助けなきゃいけなかったってことは、オレだって分かってるんだ。
なのに、怖がって見ていることしか出来なかった。
何だかんだ言って、お前が後ろから押してくれないと、オレたちは何にも出来ないんだ。
くそっ、悔しくて、涙が出てきた。
それでも遊園地の出口を見る。
ジャガーはアクシスジカを必死に説得していたようだけど、失敗して、アクシスジカと風船の潰し合いを始めてしまった。
良く見えなかったけれど、最終的にアクシスジカの風船が潰れて、ジャガーが勝ったみたいだ。
再びパンッと腕時計の音がして、私たちは目を伏せる。
「ジャ、ジャガーも、ゲームに乗った! もう、だめだ!」
「説得してたっぽいけど、結局そうするしかないって思ったのかも……あ、ジェーンが出てきた。 まずいぞコウテイ! 助けないと!」
本当に運が悪い!
このタイミングで出口から出てくるなんて!
逃げろッとオレが思う間に、ジェーンは駆け出した。
ジャガーの横を通れたのは奇跡なのかなんなのかは分からないけれど、とにかく、ジェーンはものすごい速さで走って逃げていく。
まずいのは、ジャガーもジェーンの後を追っていることだ。
やべーよ! ジェーンが追いつかれたら、簡単に風船を潰されちまうよ!
オレ達は焦り、でも、ジャガーの後ろから追いかけていくのはやっぱり怖くて、迂回して追うことにした。先回りって奴だ。
でも、走りながら思ったよ。
くそ、何やってんだオレは! ジェーンを、助けないといけないのに!
そして、ジェーンを見失ってしまった。
先回りしたつもりなのに、こっちに来なかったんだ。
方角は大体合ってた。
だから、オレだけなら走って探しに行けたかもしれないけど、コウテイを置いて先に行くわけにも行かない。
それに、誰がゲームに乗ってるのか分からない以上、むやみに走り回るのも危険だ。
「コウテイ、少し休もう。どこかに隠れて、さ」
「イワビー、私は、悔しいよ。ジェーンとせっかく会えるチャンスだったのに! こんな状況じゃ、また会えるかどうかも分からないのに……!」
オレたちは近くの茂みに隠れて、でも、休んでる暇なんて無いと思い直した。
戻ろう。
他のペパプやマーゲイを隠れて待って、それからみんなでジェーンを探しに行くんだ。
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