イワビー(10番 ペンギン目ペンギン科マカロニペンギン属イワトビペンギン)

第8話 あしのはやいぺんぎん

 ペンギンは足が遅い?

 残念ながらそれは違うんだなぁ。

 ジャガー(29番 ネコ目ネコ科ヒョウ属ジャガー)の足で追いつけないほどの速さでジェーン(30番 ペンギン目ペンギン科アデリーペンギン属ジェンツーペンギン)が逃げ出せたのはびっくりしたけれど、それでもペンギンにだって足の速い奴はいる。


 そう、オレとかな!


 と、言うわけでPPPペパプで一番足が速い、イワトビペンギン(10番 ペンギン目ペンギン科マカロニペンギン属イワトビペンギン)だぜ! の、イワビーだ!


 ……なんて、元気にやってる場合じゃなくなった。

 モツゴロウとか言う不気味なフレンズにおかしなゲームをさせられて、もう、しっちゃかめっちゃかだ。


 少し話を戻そうと思う。

 ジェーンが走って逃げ出す前の話だ。


 オレは、数えて9番目に出発したんだけど、当然、出口付近で先に出たフレンズが、オレや他のフレンズを待っていてくれるものだと思っていた。


 でも、出口から外に出た時、そこには誰もいなかったんだ。

 とたんに心細くなって、でも、それでもオレは他のPPPペパプやマーゲイ(49番 ネコ目ネコ科オセロット属マーゲイ)を待たなくちゃいけないな、と、心をしっかり持った。

 今考えても、そこだけはちゃんと出来てたし、ロックに行けたと思う。

 で、近くに茂みがたくさんあって、木も生えているので、とりあえずどこかに隠れなきゃと思ったんだ。


 だって、そうだろ?

 モツゴロウの話したルールだと、風船をお互いに潰し合って、最後の一匹だけ助けてもらえるんだから。

 助かる方法を考えたら、まだ手段の見えない脱出よりも、ゲームのルールに乗っかって優勝した方が、助かる可能性は高いんだ。

 潰し合いに乗るフレンズは、もしかしたら出てくるのかもしれない。

 既に出発したフレンズにも、そう考えた動物がいないとも限らないんだ。


 でも、そうなると、このゆうえんちの出口は最悪だ。

 誰もがみんな、一度はここを通る。

 先に出発したフレンズがゲームに乗り気になったら、心の準備が出来てないフレンズをいきなり襲撃して風船を潰すとか、そう言うことが出来るんだぜ?


 しかも順番に一匹ずつ、間隔を空けて出てくるんだから。

 最悪だぜ、そんなの。全然、ロックじゃないよ。


 そんなわけで、結局、入り口が見える茂みにこっそり隠れることにしたのだけれど、自分の次に出てきたのはインドゾウ(11番 ゾウ目ゾウ科アジアゾウ属インドゾウ)だった。

 でも、声をかけるか迷ってしまった。

 だって、アイツとはあんまり話したことが無いし……と言うのは言い訳で、インドゾウの体がでっかいので怖いなって思っちまって。


 うん。風船の潰し合いになったら、ペンギンじゃ勝ち目がないし。


 ……くそー! 情けないぜ。『ロックに行くぜー!』なんて、言ってるのに、いざと言うときには臆病で、声をかけるのも躊躇してしまうんだから。


 で、そうしているうちに、インドゾウは行ってしまって、姿が見えなくなってから、すごく後悔した。

 だからじゃないけど、続いて出てきたエリマキトカゲ(12番 有鱗目アガマ科エリマキトカゲ属)に声をかけようとしたんだけど、エリマキトカゲは、出口から出てくるなり、泣きながらものすごいスピードで走っていってしまったんだ。


 迷わず追いかけたよ。

 そして、今度こそ声をかけたいと思ったんだ。

 オレは、走るのはPPPの中じゃ一番早いからな。


 絶対に追いつける! って……思っていたんだけど、上には上がいるんだな!

 エリマキトカゲって、足、すっごい速いぜ! びっくりした!

 頑張って追いかけたのだけれど、結局追いつけないで、すごすご戻ることになっちまったぜ。


 で、諦めて戻る、その間に何匹か出発してしまったらしく、……と、言うより、随分長い間、エリマキトカゲの後ろを追いかけてしまったので、その間に、何人も出発してしまったっぽいんだ。

 ただ、茂みに戻った時、丁度、コウテイ(25番 ペンギン目ペンギン科コウテイペンギン属コウテイペンギン)が出口から出てきたのは、よっぽど運が良かったんだと思う。


「コウテイ、コウテイ」


 オレは声を殺して呼んだんだ。

 ところが、コウテイはその場でめそめそ泣き出して、とぼとぼ違う方向に歩いていきやがる。

 声が届いてないんだ。

 しょうがないから、後を追いかけて、直接合流することにした。

 少しだけ出口から離れてしまったけど、これは仕方が無いよな?

 で、とりあえず、コウテイはこちらに気づいてくれたんだ。


「イワビー!」


 気付いて抱きついてきたコウテイを、オレは抱きしめ返した。

 コウテイは、クールで強ぶっているけれど、誰よりもプレッシャーに弱い。

 なにしろ、立ちながら気絶する奴だからさ。

 まったく。

 しっかりしてくれよな、リーダー。


「おいおい、風船気をつけろよ? あんまり押し付けると潰れるかもだぜ?」

「合流出来てよかった……! イワビー……!」


 ホッと一息。

 とは言え、他のメンバーも待たなきゃいけない。こうしている間にもPPPペパプの他のメンバーが出て来るかもしれないんだ。

 コウテイと一緒に出口に、最初の茂みに戻る。

 と、丁度茂みに隠れた時、サーバル(27番 ネコ目ネコ科ネコ属サーバルキャット)が出てきたのが見えた。


 コウテイと顔を見合わせて、声をかけることに決める。

 が、その時、サーバルの風船目掛けて突撃したフレンズがいた。

 オレ達の死角になるところに隠れていたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る