第34話 わたし、しんじてる

 いつもより、一杯喋れた。

 私自身、こんなに喋れたんだって、少し驚いてる。

 喉も、少し痛い。


 でも、喋って良かった。


 二匹はグッと涙をため込んで、それからポタポタと地面に落として、そして言ったの。


「は、ハシビロコウ……ごめん! お、俺たち……俺たち、とんでもないことをしてしまった……! 友達だったのに……!」


 オーロックスはわなわなと震えて、夜空を見上げてた。

 アラビアオリックスも、愕然と自分の手を見つめてる。


「信じられなかったんだ! 本当は、自分たちが悪いってことは、なんとなく感じてたんだ。時間が経つごとに、自分たちは間違っている気がして来て。でも、それを認めたら、誰からも友達なんて、言ってもらえないと思って。こんなことしてたら、ますます言ってもらえないって、分かってたのに! ……なのに、それなのに。俺たち、シロサイの風船、潰しちまった。あいつを、最後まで信じてあげられなかったんだ!」


 分かってくれた……!


 そっか。

 この二匹も、引くに引けない状態になってしまって、それであんなに暴走しちゃってたんだ。


 でも、もう大丈夫。

 私たちは、お友達だから。


「……なぁ、許してくれるか? 本当に、こんな俺たちのこと、許してくれるのか?」

「うん。 だって、私たち、友達だもん」


 当然だよ。

 きっと、みんなも許してくれる。


 嬉しさが胸をいっぱいにして、涙があふれて。

 私は、もう、立ち上がれないとすら思った足に力を入れて、二匹のところに駆け寄った。


「オーロックス。アラビアオリックス。一緒に、ヘラジカ様と、ライオンのところに行こ?」

「ハシビロコウー!」


 二匹とも泣きながら駆け寄って来る。


 ああ、信じあえるって、とっても素敵。

 これから手を繋いで、一緒に、歩いて行こう。

 後の話は、それから考えよう。


 でも、その瞬間。

 ひゅうッと、風が吹いたと思ったら、私の風船がボシュっという音を立てて、潰れた。

 あっけないと、思う暇さえなかった。


「なっ……!」


 そして、驚く二匹の目の前で踊る影。

 多分、二匹も気を抜いてしまっていたんだと思う。

 影が、二匹へ向かって飛び掛かる。


「く、くくひ、ひひ、ひゃははははは!」


 奇妙な、ゾッとするような笑い声。


「だ、だれだ、お前は! ぐっ……!」

「オーロックス! く、くそ! や、やめろー! うっ!」


 完全に、奇襲には絶好のタイミングだったとしか言いようがない。

 ぐしゃり。ぐしゃりと、風船と潰れる音がした。

 オーロックスと、アラビアオリックスの風船も、あっという間に潰されてしまったんだと、その音だけで分かった。


「ひ、ひぃあひひ! ひゃは! つ、潰し合い、するけものなんて、わ、私が、許さないんだ、から!」

「う、うわぁぁぁぁ!」


 アラビアオリックスが叫んで、地面に落とした槍を探している。

 オーロックスは、素手で襲撃してきた誰かを掴もうとして、避けられてしまった。


「ち、ちくしょう……! 誰なんだよ! 俺たちの、風船を潰して!」


 二匹とも、犯人の正体が分からないみたい。


 だ、誰?

 潰し合いを許さないって行ってたけど、どういうこと?

 違うよ……! 分かってくれたんだよ!

 潰し合いはもう、しないのに!

 誰なの?

 あなた、だれなの?


 私は、自分の風船が潰されたことも忘れて、ジッと目を凝らした。

 月明かりが一瞬、その顔を照らす。


「あ、あなたは、PPPぺパプの、マ」


 パンっという音がして。


「倒れた? 大丈夫か、ハシビロコ」


 それから同じ音がアラビアオリックスの声を遮って、続けて二回。


 腕時計が作動したんだ。

 腕が、痛い。

 でも、その痛みすらも、だんだんと消えていく。


 なんで?

 なんで、PPPぺパプのマネージャーが。

 マーゲイが……なん、で。


「……ひ、ひぃ! 潰れてる! 風船が、潰れてる! ひ、ひぃ、ひ酷い! だ、誰がこんなことを! やっぱり、悪い奴が、風船を潰して、回ってるんだ! クジャクの言葉なんか、やっぱり、信用できない! ロッジになんて、誰が行くもんか! そ、そうだよね、みんな! 私、間違ってないよね? だから、私が、頑張らないと! 頑張るから! PPPのみんなは、私が守ります、から!」


 何を、言ってるの?

 マーゲイの声は、本気で怖がって、本気で悲しんで、怒っていた。

 意味が、分からない。

 私たちの風船を潰したのは、あなたじゃない。


「ひ、ひ、ひひひひ、ぎ、ひひひ! あふぁひゃは! そうだよね! あんたたちみたいなのが、いるから、潰し合いなんかするから、いけなんだから!」


 ぼたっと、地面に液体が落ちる音。

 なんとなく、よだれなんじゃないかと思う。

 それにしても、行ってることが、支離滅裂だよ……?


 ……そっか。

 多分、あの子は、きっと、私たち以上に怖い目に遭って、それでおかしくなっちゃったんだ。


 ……意識が遠のく。


 その時、ふと、私の手に誰かの手が触れた気がした。

 感覚なんて、ほとんど残ってないし、距離もあったから気のせいかもしれないけれど、でも、それでも。


「……」

「……」


 オーロックスと、アラビアオリックスの、指。


 分かってくれた。

 分かってくれたのに。

 これから、一緒に頑張ろうって、思ったのに……


 マーゲイが、走っていく。

 遠くに、誰かの足音でも聞こえたのかも。


 ヘラジカ様、ライオン……それからパンサーカメレオン。


 私たちは、ここまでみたいです。


 あなた達は、どうか、ご無事で。

 私、信じて、る。


 みんなを助けて。

 モツゴロウを、倒してくれること。

 私の、素敵な友達たちのこと。


 ……ああ、もう、何も分からない。

 夜が濃くなっていく。

 音も、何も、聞こえなくなって。


 もう、何も、考え、られな、く


 ……


―――――――――――――――


退場フレンズ


シロサイ(32番 ウマ目サイ科シロサイ属シロサイ)

アラビアオリックス(07番 クジラ偶蹄目ウシ科オリックス属アラビアオリックス)

オーロックス(14番 クジラ偶蹄目ウシ科ウシ属オーロックス)

ハシビロコウ(40番 ペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属ハシビロコウ)


(残り36匹)

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