第26話 いっしょにうたを

 その子は涙目で、私に抱き着くようにして降りて来た。


 紅い羽根を持つ、やっと出会えた私のお友達。

 ショウジョウトキ。(31番 コウノトリ目トキ科シロトキ属ショウジョウトキ)


「こんなところで、何やってるの? 危ないじゃない!」

「歌を歌ってるの」

「そんなの、見ればわかるんですけど!」


 彼女は、そう言って泣きべそをかいた。

 きっと、怖かったのね。

 私と同じように。アルパカと同じように。


「わぁぁ、いらっしゃい!」


 ニコニコしながらアルパカの顔が近づいてきて、それからショウジョウトキの手を取る。


「お茶はないけど、ゆっくりしていってねぇ」

「そ、そんな場合じゃないんですけど」


 ショウジョウトキは慌てた口ぶりで、私たちに言ったわ。


「こんな目立つ場所にいたら、危ないんですけど! 誰か来るんですけど!」

「そのために歌ってるのよ」

「だから、そうじゃなくて、ゲームに乗った誰かが来たら……」

「危険は承知の上よ。アルパカと二人で相談して決めたの。今なら、まだ、ゲームに乗ってない誰かと合流できるから。だから歌わないと」


 私は、ショウジョウトキを抱きしめて、それから彼女の首元に顔をうずめたわ。


「な、なな何して……!」

「あなたと会えて良かった。私の大切なお友達。怖かったのね。でも、もう大丈夫だから」

「……うん」


 彼女の胸の音が、こっちにも聞こえて来たわ。


「ふふ、きっと大丈夫。あなたもこうして来てくれたでしょ? 仲間はもっと集まるから。そしたら。みんなで、こんなゲーム、ぶち壊してやりましょう? みんなで考えれば、きっといい方法が見つかるから」

「それなんだけど、あのね、ちょっと聞いて。ロッジに、助手とツチノコが……」


 その時、パンッて言うあの音が聞こえたわ。


「腕時計の音?」

「また、誰かの風船が?」


 多分、遠くない場所で誰かの風船が潰されてしまった。


「なんで? どうして? 私の歌は、届かないの? 潰し合いなんて、みんな、やめて。お願いだから……」


 私は呟くようにしてそう言ったわ。

 でも、それは夕暮れ時の風の中にかき消されて、やっぱり誰にも届かないんじゃないかと思ったの。

 そしたら、ショウジョウトキが、私の手を取って、それから言ったわ。


「届いたよ。私には歌、聞こえたから。でも、悲しいけど、潰し合いしてる子はいるみたいなんだ。だけど、もう、大丈夫だよ。さっきの話の続きだけど、ロッジに助手がツチノコといて、あとは『かばん』って言う子がそろえば、モツゴロウと戦えるって。良い作戦があるんだって」

「……かばん? 私のファンね」

「そうなんだ。私は直接会ったこと無いけど、良い子なんだね!」

「何で?」

「だって、あなたのファンなんでしょ? そしたら、良い子に決まってるんですけど」

「照れるわね」


 ショウジョウトキと話してると、心が軽くなる。

 本当に、会えて良かったわ。

 と、ショウジョウトキは触れていた私の手をギュッと握り締めて、それから言ったの。


「ねぇ、私も一緒に歌うからさ。モツゴロウと戦う手段、みんな見つけられ無いから潰し合いなんかしてるって思うから。だから、教えてあげましょう! ここに来れば、モツゴロウと戦う手段があるって」

「……そうね。でも、これ以上は危険かも。あなたは逃げた方が」

「ううん。一緒だよ。一緒にいる。一緒に歌おうよ! ほら、私の紅い色、とっても奇麗で目立つでしょう? だったら、みんなが見つけやすいように、私もいた方がいいと思うの」


 どやぁっと、胸を張るショウジョウトキ。

 でも、夕暮れ時でみんな赤くなってるようなものだから、逆にそんなに目立たないかも。


「……でも、良いの?」

「この際、付き合うって。それに来るとき、チラッとクジャクの姿が見えたの。きっともうすぐ来ると思うけど、あの子、飛ぶの苦手だからさ。で、クジャクが来たら、みんなでロッジの方に行きましょう! それから、『かばん』って子も探してさ。とりあえず、一緒に歌ってみましょうよ!」


 私はとっても嬉しくなって、ショウジョウトキと手をつないで、空に向かって歌ってみたの。

 そしたら、ショウジョウトキも声を合わせてくれた。


「私はぁ、トキィィィィ!」

「私もぉ、トキィィィィ!」

「仲間を探してるゥゥゥ!」


 息ぴったり。

 私たちは顔を見合わせてにっこり笑ったわ。


 と、その時、アルパカの声が聞こえたの。

 どうやら彼女は、微笑ましく私たちを見ていたみたい。


「やったぁ! ふたりとも。良い感じだよぉ! おかげで新しいお客さんが来てくれたみたい!」

「お客さん?」


 どうやら誰か来たみたいで、近くの茂みからスッと誰かが姿を現したわ。

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