アフリカタテガミヤマアラシ(03番 ネズミ目ヤマアラシ科ヤマアラシ属アフリカタテガミヤマアラシ)
第18話 じれんま
ひぃ……!
またどこかで腕時計が作動する音が聞こえたですぅ……
私は、アフリカタテガミヤマアラシ(03番 ネズミ目ヤマアラシ科ヤマアラシ属アフリカタテガミヤマアラシ)。
出発してから、ひたすら合流場所まで歩いていたのだけれど、少しだけ迷ってしまって……
そしたら、モツゴロウの放送が聞こえて、仲間のアルマジロの名前が呼ばれたので、怖くてうごけなくなっちゃった。
「アルマジロ、なんで潰されたですぅ?」
どれだけ考えても、答えが出るわけない。
だって、ありえない事なのです。
アルマジロは守りに徹すると、とても頑丈で、しかも風船をお腹につけていたのでそんな簡単に風船を潰されるはずが……
なんて、ボサっともしていられません。
アルマジロみたいな頑丈なけものでも、簡単に潰されてしまうのならば、ジッとしているのは危険なのかもしれません。
とにかく動かないと、と私は思い、周囲を見渡しました。
そして偶然にも木で出来た屋根のある『たてもの』を見つけて、そこに逃げ込んだのです。
でも、そこには先客がいたみたいで……
「だ、誰ですぅ?」
気配は確実にありました。
でも、思わずかけた声に返事はありません。
もしかするとへいげんちほーの誰かかもしれない。
そう思えば確かめずにはいられず、勇気を出して『たてもの』の奥へと進みます。
でも、返事がなかった理由はすぐに分かりました。
だって、そこにいたのはボスだったから。
「な、なんだ、ボスだったですぅ。驚かせやがって、ですぅ」
かばんと一緒にいたボスは喋っていたらしいですが、もちろん、このボスはかばんと一緒にいたボスではありません。
あのボスは、今もかばんと一緒にいるはずなのです。
「あ、ジャパリまん!」
おなかペコペコだったので、飛びつきました。
ボスは、食べ物を入れた
それでもぐもぐ食べていたのだけれど、お腹がいっぱいになったら涙がボロボロ出てきました。
やっぱり、アルマジロが風船をつぶされてしまったなんてショックで。
でも、泣いてばかりもいられません。
早くヘラジカ様と合流しないと……それに、ライオン達とも合流できれば怖いもの無しです。
みんなと力を合わせれば、きっと、あのモツゴロウをやっつけられます。
私は涙を拭くと、立ち上がって合流場所に向かおうとしました。
でもその時、『たてもの』の入り口のところに、誰かの気配が。
……誰?
今度は、声が出せませんでした。
足音と、壁を叩く音。
確実にフレンズの誰かです。
ここに私がいることがばれたら、きっと、戦いに……
私は、必死に想いました。
誰だか知りませんが、どうか私に気づかずに、そのまま遠くに行ってくださいと。
でも、足音は、どんどん私がいる部屋に近づいてきます。
「う、うう、誰か……助けて、ですぅ」
でも、ここには私以外のけものは誰もいません。
ここにいるのは、ボスしか。
と、その時、閃めきました。
助けを呼ぶ手段なら、ここにあるのだと。
「ボス、お願いします、ですぅ」
すごく小さな声で、私はボスにお願いします。
怖くて、涙がボロボロとこぼれましたが、それでも必死に声を殺して言いました。
「もし、ヘラジカ様の近くにボスがいるなら助けを呼んでください、ですぅ。パークの危機なんですぅ」
足音は、私がいるすぐ部屋の外にまでやってきました。
私はとっさに、近くにあった台の下にボスごと隠れます。
「ボス……お願い、ですぅ」
そして、とうとう、ボスの目が光りました。
前回のパークの危機があった時と一緒です。
やった! と、内心喜びながら、必死にボスに語り掛けます。
「へ、ヘラジカ様、助けてですぅ。私、誰かに襲われてて。待ち合わせ場所から少し離れた、木で出来た小さな『たてもの』にいます。ヘラジカ様、助けに来て……」
でも、ボスから聞こえてきた声は、ヘラジカ様の声ではありませんでした。
『駄目ですよぉ、ヤマアラシちゃん。助けなんて誰も来ませんよぉ』
モツゴロウの声でした。
「ひ、ひぃ!」
私は思わず叫んでから、ボスを突き飛ばしました。
それでもケタケタと笑うモツゴロウの声が聞こえて来て、私は悲鳴を上げてしまいます。
「いやああああ!」
『良いですかぁ? 群れの力は偉大ですが、生きていれば、たった一匹で生きなければならない時があるんです。今がその時なんですよぉ? さぁ、元気に潰しあいして、勝ち残ってくださいねぇ!』
もう、モツゴロウが何を言っているのかもわかりません。
きっと、私の叫び声は聞かれてしまった。
部屋の外の誰かに聞かれてしまった。
そう思うと、頭がグルグルして、呼吸も上手く出来なくなってしまいました。
そして、部屋の外から決定的な声が聞こえます。
「誰だ? 誰かそこにいるのか?」
この声は誰でしょうか。
知っている声のような気もしましたが、怖くてそれどころじゃありません。
汗がだらだら出て来て、体がガタガタ震えて来て、必死になって考えました。
もはや、隠れてやり過ごすことは出来そうもありません。
部屋に入り口が一つしかないので、逃げ出すことも難しそうです。
だとしたら、どうしたら……?
「誰かいるなら、返事をして」
私は必死に耳を塞ぎました。
怖い。
きっと、フレンズを探して風船を潰し回っている、悪い奴……敵なのです。
私なんかが見つかれば、あっという間に潰されてしまう。
私は、ヘラジカ様やライオンみたいに戦えないのです。
だとしたら……
「や、やらないと。潰される前に、潰さないと」
涙が止まりません。
体も震えたままで、歯もカチカチして、息も苦しくて……それでも必死に立ち上がりました。
もう、やるしかない。
奇襲をかけて、敵の風船を先に潰すのです。
こんなところで潰されるわけにはいかない。
……私はヘラジカ様の力になるんだ!
私は部屋の外に飛び出しました。
「う、うわ!」
先手必勝、です!
私はぶったり蹴ったりはあまり得意じゃないですけど、でも!
私は手を振り回して、無我夢中で暴れました。
「私の背中にある針は、鋭いんですぅ! 風船なんて、ちょっと触ったくらいでつぶれちゃいます、ですぅ!」
「す、すごーい! じゃなくて、やめて! やめてって、あ」
手に、手ごたえがありました。
グシャっと、風船が潰れる感触。
一瞬だけ静かになって、それから腕時計が作動するピッピッと言う音が鳴り始めました。
「ざ、ざまぁみろ、ですぅ。私の、風船をつぶそうと、するから」
「や、ヤマアラシ……なんで」
「……え?」
私は、ハッとして敵を見ました。
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