第22話 わからずや

「私はートーキィィィィィィィィィ」


 遠い。

 でも、確かに聞いたことのある音。いえ、歌でした。


「……トキさん?」


 僕たちはロッジの外に飛び出します。


「なかまぉぉぉぉさがしてるぅぅぅぅぅ! 潰し合いをぉぉぉやめてぇぇぇぇ、みんなでここに来てぇぇぇぇ! 手を取り合ってぇぇぇぇ! ああぁぁぁぁ、みんな仲間ぁぁぁぁ!」


 火山の方からです。

 どうやら、あの、見晴らしの良い高台のところで歌っているのでしょう。


「やっぱり、あの歌はトキさんだ! いたんだ、仲間を探そうってフレンズさん」

「……不味いぞ」

「ええ、不味いですね」


 ツチノコさんと助手さんは二人でつぶやきました。


「ど、どうして?」

「あれじゃ、目立ちすぎるんだよ。ゲームに乗り気になっているフレンズに狙われてしまう!」

「えっ」


 思えばそうです。

 トキさんの歌を聞けば、きっと誰だってその場所に向かおうとするでしょう。

 怖がってたフレンズは仲間になろうと。

 でも、ゲームに乗ったフレンズは、トキさんの風船を潰すために。


「た、助けに行かないと!」

「だめだ!」

「だめです!」


 僕はツチノコさんと助手さんに掴まれます。


「な、なんでですか」

「お前まで風船を潰されるぞ! 目立つってことはなぁ! 近づいたらお前まで狙われるってことなんだぞ!」

「我々の計画に、かばんは必要不可欠なのです。失うわけにはいかないのです」


 ツチノコさんと助手さんは必死でした。

 でも、それでも、僕は。


「僕は、見捨てるなんて出来ないです。助けに行きたい」

「なぜですか? お前が風船を潰されたら、いったいどうやってモツゴロウと戦えばいいんですか?」

「それは」


 そもそも、モツゴロウとどうやって戦うのか、まだ聞いていません。

 でも、こんなの、間違ってます。

 声を抑えようとしましたが、それでも、少し大きくなった声で言いました。


「でも、やっぱり助けに行かないと。ツチノコさんも言ってたじゃないですか。こんな時に、周りが敵だらけなのかもしれない時に、仲間を探してるってみんなに呼びかけるのは、とっても勇気がいるんです。僕にはとてもできない。でも、トキさんは多分、危険も承知で歌ってる。それを見捨てるだなんて、間違ってると思うんです。僕は助けに行きたい。それに、トキさんは友達だから」

「お前……」

「賢くないっていうのは、なんとなくわかるんです。でも、狙われてるって言うんなら、なおさら行かないといけない気がするんです」


 ツチノコさんと助手さんは、グッと口を閉じて、それから言います。


「チッ、分かったよ」

「ツチノコさん!」

「まったく、お前はヒトっぽくないな。でも、お前はだめだぞ。ここに残れ。お前じゃトキのところまで着くのに時間がかかるからな。助手が空を飛ぶのも目立ちすぎるからダメだ。だから、オレが行く」

「え?」


 ツチノコさんはフンと鼻を鳴らしました。


「良いか、助手の計画じゃ、お前はいなくちゃいけないらしいし。それに、もちろん、助手もいないと困るだろ。何かあっても計画に問題がないのは、オレだけだ。それに、もし、待ち伏せだとかされても、オレには『ピット器官』……だとか言うので、丸見えだ。問題なくやっていけるさ」


 ツチノコさんは言いながら下駄を履き直して、それから歩き出します。


「ツチノコ。お前がいると、心強いのです。トキたちと合流出来たら、ロッジへ。それで、もし失敗したら、ゆきやまちほーに向かってください。温泉で合流しましょう。ロッジは目立ちすぎますし、いずれやる気になったフレンズもやって来るでしょうから、タイミングを見て我々はこの場所を離れます」

「温泉か。そこにあるんだな? モツゴロウと戦うための『武器』が」

「ええ。そうです」

「全く。計画、無事にまた合流出来たら、作戦が何なのか、オレにも教えろよな」

「もちろんなのです。気を付けるのですよ、ツチノコ」


 ツチノコさんは一度だけ振り返り、それから言いました。


「あー、あのさ。ついでなんだけど、もし、スナネコの奴見つけたら、助けてやってくれないか? 計画に支障が無ければ、だけど」

「え? スナネコさん?」

「……ええい! とにかく、オレは行くから。じゃあな!」


 ツチノコさんは顔を赤くしながら歩いていきます。


 と、ツチノコさんが去ってからすぐ、遠くの空に、とても奇麗な羽が見えた気がして、僕と助手さんは顔を見合わせました。


(残り44匹)

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