第21話 さんびきよれば

「つ、ツチノコさん?」

「びっくりするだろうがッ!」


 現れたのはツチノコさん(36番 ???)でした。

 ツチノコさんは、フフンと鼻を鳴らして言います。


「部屋に閉じこもってるそいつに、今は何を言っても無駄だ」

「ど、どうして?」

「最後まで大好きなロッジから離れたくないって言うんだよ。負けたら、ロッジのオーナーを辞めさせられるって話だから」


 罰ゲームの話です。

 負けたら大事なものを取られてしまうという、恐ろしいルール。


「全く、ふざけたルールだ。こいつのせいで、誰が潰し合いをしてるのか分からない」

「あの、それなんですけど」

「ん?」

「僕には信じられないんです。潰し合いなんて、何でするんですか? みんな、友達なのに。信じられません」

「お前なぁ」


 ツチノコさんはイライラした様子で言いました。


「誰だって、失いたくないものがあるんだッ。負けたらそいつを取られるって言われたら、例え友達が相手でもゲームに乗っちまうかもしれないだろ? お前はゲームに乗った奴が、負けたら何が奪われるのか知っててそういうことを言ってるのか?」

「それは……」


 考えてもいませんでした。


「分からないだろ? だったら、ゲームに乗った奴の心なんて、分からないんだよ。誰だってゲームに乗る可能性がある。仲間を作ってモツゴロウと戦おうだなんて、時間がたつごとに難しくなるし、そもそも仲間を探そうだなんてのは、もともと難しいことなんだよ。自分が危険になるってのに、そんなこと誰がするか。よっぽど運が良くないと……て、ついでに聞くけど、お前は何を取られるんだ? 負けたら」

「ぼ、僕は」


 確かに、言うのも恐ろしい。

 確かに奪われたらと思うと、怖くて……

 僕はそれを思うと、絶対に負けたくない。風船を潰されたくないと思うので、ツチノコさんの言葉にはすでに納得していました。

 でも、何とか言います。


「負けたら、パークを出て、二度と戻ってこれないって。サーバルちゃんとも、みんなとも二度と会えないって」

「くそっ、なんだよそりゃ」


 ツチノコさんは憤慨しました。


「お前が負けたら、お前だけじゃなくて、パークのみんなだって寂し……」


 言いかけて顔を赤くします。


「んらぁ! そんなのはどおぅでも良いんだよッ! と言うか、ここにいたショウジョウトキはどうした?」

「こ、声をかけたら、逃げてしまって」

「なにぃ!」


 ツチノコさんは苦虫を潰したような顔で、僕を見ました。


「ちくしょー、あいつ、びっくりしすぎだろ! ロッジの外に行っちまったのか? そう言えば、羽ばたいてく音が聞こえた気がしたな! 遠くに行っちまったのか?」

「す、すいません。僕のせいで」


 ツチノコさんは、舌打ちして、それから言います。


「でも、まぁ、オレは運がいいぞ。いや、オレたちと言うべきか。お前と会いたかったんだよ。風船が潰される前に会えてよかった。もしかすると、オレたち、モツゴロウと戦るかもしれないぞ!」

「え、どういうことですか?」

「それは私が説明するのです」


 突然、声が割って入ってきたのでびっくりしました。

 誰ですか? と、思いつつ、誰だかわかっている自分に驚きました。

 そう言えば『音を立てずに飛ぶなど朝飯前』と言っていたことがあります。


「助手さん?」

「はい。助手です」


 助手さん(54番 フクロウ目フクロウ科ワシミミズク属ワシミミズク)でした。

 いつのまにか僕らの前に現れて、フンと胸を張っています。


「運がよかった。来てくれて、助かったのです。どうやって探そうかと、途方に暮れていたところだったのです。お前と会えなければ、アウトだったのです」

「僕が? あの、皆さんは、ここで何を?」


 疑問を口にした僕に、ツチノコさんが言いました。


「オレとショウジョウトキがここで会って、それで引きこもってるアリツカゲラの奴を部屋から出そうとしてたんだけど、そこに助手が来たんだ。で、モツゴロウと戦う手段があるって言うから、オレたちはかばんを探す方法をどうしようかって、相談してたんだよ」


 助手はツチノコさんの言葉から説明を続けます。


「私が手段を思いついたのは、ここに来てからです。でも、この計画にはかばんの協力が不可欠だったのです。会えて本当に良かった。協力してほしいのです」

「僕が、ですか?」

「そうです。とっておきの方法を考え付いたのですよ。我々は賢いので」


 我々。

 言ってから、博士さんがいないことに気付いたのか、助手さんは表情を少しだけ暗くしました。


「……私は、博士を何としても助けなければなりません」

「はい。いえ、その、それで、モツゴロウと戦う手段と言うのは?」


 僕の質問に、助手さんは答えます。


「その方法は……」


 と、その時、ロッジの外から大きな音が聞こえました。

 でも、距離は遠く、それはものすごい声量で力任せに歌っている歌のような……

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