クジャク(24番 キジ目キジ科クジャク属クジャク)

第23話 わたしのすてきなおともだち

「私はトーキィィィィィィ!」


 その歌が聞こえたとき、私、クジャクはジェーンさんとフルルさんでロッジ方面へ向かっていました。


「クジャクさん……! あの歌、聞こえますか?」


 ジェーンさんが驚いています。

 当然です。

 あんな大きな声で歌を歌うなんて。


「聞こえます。ジェーンさん、あれは、トキさんです。歌を聞いたことがあるので、間違いないです」


 トキさん。

 最近、友達をたくさん見つけられたと喜んでいた、あのトキさんです。

 続けて歌われた「仲間を探してる」と言う言葉に、私たちは笑顔を見せあって喜びました。


「クジャクさん!」

「ええ、ジェーンさん、行きましょう。多分、火山の方角だと思います。ここからだと見えませんが、きっと目立つところにいるはずです」


 しかし、ジェーンさんは、私の「目立つ」と言う言葉に反応して、複雑そうな顔をしたのです。


「クジャクさん」

「……どうしました? ジェーンさん」

「目立つって言うのは、少し不味い気がします。とっても」

「なぜです?」

「ゲームに乗ったフレンズさんがいたら、きっとトキさんの風船を潰すために向かうと思うんです。危険だと思います」


 言われてみれば、その通りです。

 信じたくありませんが、誰かがゲームに乗ってしまっている。

 遠くで腕時計が作動する音も聞きました。

 確実にゲームは進行している。その事実が、私たちに暗い表情を浮かばせるのです。


「確かに。急がないと、トキさん達が危ないですね」


 私の言葉に、ジェーンさんがうつむいて、それから力ない言葉で言いました。


「ええ。でも、問題は、向えば私たちも危険になるということなんです。向かってる途中で、乗り気になったフレンズともし鉢合わせたら……いえ、それどころか、仲間になろうとトキさんに近づいたフレンズの風船を狙って待ち構えているフレンズがいるかもしれない」

「……そうですね」


 なるほど。

 これは気づかなかったことです。

 ジェーンさんは怖いのか、体をプルプルと震わせています。

 きっと、ジャガーさんのことを思っているのでしょう。

 多分、誤解なのですが、それでも怖いと感じている気持ちを、必死に隠しているのです。

 なんと健気なことなのでしょうか。


「ジェーンさん? 大丈夫ですか?」

「う、うん。でも、行かないと、ですよね。いえ、行かないといけない気がします。危険でも、見捨てるなんて私には出来ません」


 流石アイドルです。

 私は、感動して彼女の手を取りました。


「ジェーンさん……! ありがとう! 良く勇気を出してくれました!」


 そこまで言って、私の手が無意識に震えていることに気が付きました。

 ジェーンさんが、ハッと私の目を見て、それから、涙をためて見返してきます。


 そう、本当は私も怖かったのです。

 勇気を出さなければならなかったのは、私も一緒だったのです。


 いえ、きっと、彼女以上の恐怖が、私の中にある。

 でも、ジェーンさんが、私に勇気をくれた。

 彼女がアイドルなんだということが、すごく分かりました。


 と、その時、三匹目の手が、そっと私とジェーンさんの手に重なります。


「フルルも行くー」


 ああ、なんて素敵な方々なのでしょう!

 この殺伐としたゲームの中で、彼女たちに出会えたことの、なんと幸運なことか。


「ジェーンさん、フルルさん」


 私は、感極まって、それ以上の言葉が出て来ませんでした。

 同時に、思います。

 アイドルである彼女たちを危険にさらして良いものなのか、と。

 もしものことがあったら、取り返しがつかないと、そう思ったのです。


 私は決意しました。

 みんなの希望になってくれる彼女たちを、危険な目に遭わせるわけにはいかないと。


「私が、行きます。すぐに戻りますので、隠れていてください」

「え?」


 ジェーンさんが心の底から驚いたような顔をしています。


「ふふ、私、飛べるんですよ?」


 私は必死に微笑みながら言いました。

 精一杯、怖いという気持ちを隠して、自慢の羽を広げて笑います。


「飛んで行って、すぐにトキさんを連れてきますね。そしたら、4匹で、ロッジに行きましょう。とりあえずはそこで一休みでもして、対策を考えれば、きっといい考えが浮かびますよ」

「クジャクさん、でも……」


 ジェーンさんは、何か言いたそうでした。

 でも、言わせません。


「ジェーンさん、行かせてください。私、貴女に会えて、本当に良かった。フルルさんにも。お二方は、私に勇気をくれているんです。流石アイドル、ですね。こんな臆病な私でも、貴女方に会えたからこんなにも頑張れる。会えていなかったら、きっと隠れてトキさんを見殺しにすることしかできなかった」

「……クジャクさん」


 ジェーンさんは、私の手を握り直しました。

 少し強い力で。

 それからフルルさんも上から私達の手をギュッと握ります。


「クジャクさん。どうしても一人で行くんですか?」

「はい。私が飛べばすぐです。それに大勢で動くと目立ちますから」


 ジェーンさんは涙を目に浮かばせています。


「大丈夫ですよ。心配なさらないでください」

「……クジャクさん、どうかお気をつけて。私たち、ここでクジャクさんのこと、待ってますから」

「はい。必ずトキさんを連れて来ますね」


 私は飛びます。

 でも、飛ぶのはあまり得意じゃない。それでも、ここで情けない姿を晒すことはできません。

 私は精一杯、強がって、力強く上へ飛びました。


 夕暮れが近づいています。

 オレンジの空。視界の隅、遠くにロッジが見えました。

 きっと、あの場所でも誰かがいて、トキさんの歌を聞いているはず。

 もしかすると、トキさんのもとへ向かうために移動を始めたかもしれない。

 それがモツゴロウさんと戦うための仲間であれば良いなと、私は思います。


 そして、真下に二匹のペンギンがいました。


 ……ジェーンさん、フルルさん、私に勇気をくれてありがとう。

 すぐに連れてきますから!


 私は、今も聞こえている歌の方角へ向かって、力いっぱい飛びました。

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