咲くや恋花

桜 詩

Reunion

第1話 金曜日

日が傾き、園舎の影が園庭に長く延びている《あおぞら幼稚園》。

園児が帰った後の園はとても静かなものである。


長谷川 彩未あみは職員室で机に向かい書き物の仕事をしていた。

業務連絡事項を確認して保育日誌をつけ、そして園児について気になる事は自宅に電話をする。はじめは子供たちに振り回され、なかなか上手くいかなかった仕事も、少しずつ経験を経る事で要領もわかってきた。


「彩未」

きゅっと、隣の席から椅子を近づけたのは昔からの友人の北原 春花はるかである。背のすらりと高い美人な先生だ。

「なに~」

「今日・だ・よ♪」


「うん、覚えてるよ」

ようやく6月の終わりになり、担任をしているクラスの子供達も落ち着いてきた所である。この時期、約束していた事は‘’合コン‘’であった。

女性の多い職場なだけに自然な出会いというものはまずは望めない。


3年目の幼稚園教諭で24歳 独身。彼氏なし。

出会うのは3歳児年少 ぱんだ組22人とその父兄。

帰れば寮で、住まうのもほとんどがこの職場の仲間と系列園の保育士たち。

隣の席で仕事をしている、こあら組 担任の春花も中学校からほとんど同じプロフィールを辿ってきていて同じく彼氏なし。


同じ高校に通っていた友人の本条 和奏わかなは大手グループ会社connoの支社で勤務をしている。

あと、もう一人同じく中学時代の友人の島崎 英乃はなのは、はなぶさ銀行に勤めている。きっちりと真面目な彼女にはぴったりだ。


遡ること、一月前中学時代仲良しグループだった4人は久しぶりに会った所...。お年頃であるのにみんな彼氏がいない。ということが判明したのだ...。

そこで和奏が、会社の先輩に話した所今回の合コンをセッティングしようという事になり、ものすごく久しぶりの話に春花は少しばかりいつもより張り切っていた。


翌日は土曜日で彩未も春花も休み、つまりは飲んでも仕事に支障はない日であった。

仕事を終わらせた彩未と春花は、幼稚園の先生らしい白に空色のロゴ入りポロシャツと紺色のジャージから着替えをする。


「彩未、ちゃんとした服で来ててよかった」

ロッカーで着替えをしていると、その姿を見て春花が言った。ちゃんとした服って一体、日頃はどうだというのか。

「ええ~?」

「だって、あんまり最近恋愛興味なしって感じだったし」


その指摘通り、この2年はひたすら仕事に必死だった。彼氏どころの話ではなかったのだ。


「私もそろそろ彼氏とか欲しいし」

彩未はほとんど落ちてしまっている化粧を直しながら言った。

「どれくらいいなかった?」

「んー…すぐに別れちゃったのをカウントすれば、大学3年だから…」

「3、もうすぐ4年か…」


「げ…そんなになるか…」

改めて数字にしてしまうと恐ろしい。


「だいたいさ、彩未は顔は可愛いのに、けっこう恋愛偏差値が低いよね。あの子と付き合ってるときくらいじゃない?ラブラブしてたの」

「...あの子、」

「えーと、なんだっけ。高校の時の彼、あのカワイイ子」

「もう、昔の事はいいよ」


「うーん。ど忘れ、園児の名前しか浮かんでこなーい、これって職業病か…?」

「私の事より美人なのに、彼氏のいない歴=年齢の春花の方がやばいでしょ?」

「あー、私はね…。中身、オヤジだから、女として見られないみたいなんだよね…」


しみじみと言う春花は、男兄弟に挟まれて育ったせいか発言などが時々オヤジ臭がどこか漂う。けれど、美人だからその中身とのギャップで親しみやすさがグッと増しているのも事実なのだ。


彩未は、白のゆるっとしたサマーニットにパウダーピンクの膝丈のレーススカート、ホワイトグレーのローヒールのパンプス。白のハンドバッグ。

春花は白のとろみのあるシンプルなブラウスにネイビーのすっきりとしたパンツスタイル、黒のヒールを履いて黒のキレイめリュックを持っている。

彩未のほんのり茶色くした長い髪はコテで巻いて緩くカールをつける。春花は黒髪ストレートのロングヘアーだ。


「北原先生と、長谷川先生合コン?」

ロッカーか出て来て二人にそう言ったのは、うさぎ組の担任の野原 笑瑠えみる先生だ。

「そうですよー」


「今度あったら誘ってよ~」

「了解しましたぁ!次に繋げてきます」

先輩に明るく返事をしたのは春花だった。


そうして彩未と春花はあおぞら幼稚園を後にしたのである。

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