第31話 対のふたり
夏休み前に入ってからは毎日の部活動がある。
朝から、そして昼を過ぎてもひたすら演奏とそして、マーチングの練習と...。
そんな、くたびれた足を動かしよろよろと帰路についた彩未たちはちょっとした騒ぎを目にした。
大きな駅のある乗り換えの駅地下の賑やかな通りの事だった。
金曜日だからか、若い女の子に酔った若い男性が二人組が絡んでいるようだった。
「え、なんかヤバくない?」
春花が呟き、和奏も彩未も足を止めて遠巻きに見た。
ミニスカートのすこし露出度高めの二人組の若い女の子の肩を酔っぱらいの男性がどこかに連れていこうとしていた。
周りの人は気づいていないのか...いや、気づいているけれど面倒事は避けたいのか誰も助けようとしてない。
親しそうに肩を組み、女の子たちは戸惑っているだけなのか...?
「でも、知り合いに見えなくもないよね?」
和奏が困ったように言っていると、
「ね、お姉さんたちは困ってんの?困ってないの?どっち」
そう男女四人の前に立ち、乱入したのは昂牙とそして翔太の二人だった。
どうやら少し前を歩いていたらしく引き返してきたようだった。
「困ってる!」
ホッとしたように言った女の子は、たぶん彩未たちと変わらないくらいの年頃らしい。休みだからおしゃれをして出掛けたに違いない。
「お兄さんたちさ、困ってるってさ」
昂牙が言うと
「なに?こーこーせー?子供は帰って寝てな」
ケラケラ笑う若い男性たちは気にした風でもない。
昂牙が一人に向かい、翔太はもう一人に向かってる
「この子らの方が誘ってきたんだからさ、気にせずにかーえーれ」
「誘ってないから!」
女の子が叫ぶように言うと、
「押さえててやるから、早く行きな」
昂牙が言うと二人組の女の子は、彩未たちの方へ走って逃げてきて、そのまま立ち去った。
「お前何してくれてんの?」
相手が酔っているから、喧嘩になるんじゃないかと心配になる。
「お兄さんたちさ、カッコいいんだからモテんじゃない?」
昂牙がへらっと笑って言えば、すこし顔が緩む。
「あ、なんか騒いでると思って警備員来たかも、早く行った方がいいよお兄さん」
翔太も視線を後ろに向けて言うと、男性たちは
「えー、それは嫌だなわかったわかったぁ」
「じゃあお兄さんたち気を付けてね~」
「おお~」
何とか騒ぎにならずに収まって遠巻きに見ていた人もまた動き出した。
「へぇ、なかなかやるね。1年生」
春花がホッとした声をだした。
「翔太」
呼び掛けると、ジャージ姿の彼は彩未を振り向いた。
「おつかれ」
「そっちも、お疲れ様。スゴいね翔太たち」
彩未がそう言うと
「俺はなにも。昂牙が上手かったね」
「いやいや、翔太の警備員とかもいいタイミングだった。でも、あれで去ってくれて良かったな」
「まあね、この時期にトラブルとかはちょっとな」
近くで見た昂牙は、くっきりとした上がり気味の目とそして意思の強そうな口許をしていてなかなかのカッコよさだ。
雰囲気は確かに翔太とは対照的である。
「2年生?」
「そうだよ、1年生」
そう春花が返すと昂牙が笑った。
笑うときつさが和らいで、少し可愛らしくなる。問題児だと聞いたけれど、やんちゃそうな彼は女性ウケはしそうな気がした。
「センパイ、翔太のカノジョ?」
『翔太』と呼び掛けたからか、彩未を見て、昂牙が聞いてきた。
「違うよ、幼馴染みなだけ」
「そうなんだ?」
「サッカーばっかやってないで女の子と遊べば?翔太」
「...そんな事言って。お前はサッカーばっかりしてるだろ、人を蹴落とそうとするな」
「だってさ、一年から試合に出されるのなんて何人もいないだろ?お前くらいしか今のところ俺より上手そうなの居ないしな」
「アホ。ポジションが違うから関係ないだろ」
「ポジションが違っても、さ。俺は負けたくねーの」
なるほど、気性は確かに荒そうだと言われればそうなのかもしれない。
翔太と昂牙の話を聞きがなら、それぞれの沿線まで行き、そして乗り換えて春花と和奏と別れると翔太と二人になった。
「仲、いいんだね」
「まぁね。あいつは...本気でプロ目指してるから。まずはjリーグ入るの目指してる」
「そっか...」
(それは、翔太も?だから仲がいいの?)
なぜか、そう軽くは聞くことは出来なかった。
「また、今年も合宿の日程かぶってるよね」
「そうだな」
「今年のインターハイ...出られるといいね」
「うん」
ニコッと翔太は笑みを見せた。
去年は一回戦で負けてしまったけれど。今年高校1年生の翔太は試合に出れるのか...
「そういえばこうがって珍しい名前だね」
「昴に牙だって、なんか強そうだよな」
「翔太は?由来とか聞いた?」
「小学校であったな、悠然と羽ばたく鳥をイメージしたらしいよ。まぁ、今のところ少しも飛翔してないけど。彩未は?」
「あみって、フランス語で友達って意味があるんだって。で、彩いろどりある未来と友達でありますように、って」
「なんか綺麗な意味。正直、なんであやみ、であみ、なんかな、って思ったときもあった」
「あ、それ。よく言われる」
「フランス語からって言ったらなんか、格好いい」
「やっぱり?ちょっと憧れるよね、フランス語で愛の言葉とか囁かれてみたいかも」
笑いながら言うと
「...フランス語で愛ってゆうと、あれかJe t'aimeってヤツ?」
会話の中でもJe t'aimeなんて聞くと、少しドキリとする。
「それ」
「なかなか、日本人には無理だって。フランス人と付き合うしかないよ」
「ええっ!もっと頑張ろうよ日本男子!」
「...」
翔太は、そっぽ向くと小さく「じゃあそのうち」とすこし目の下を染めて言った。
「待ってるね」
彩未はクスクスと笑いながら返事をした。
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