第30話 秘みつ
テストは終わり、また通常授業が始まる。
藍と秀人は家に帰り、彩未は少し淋しくなった。藍のいる生活は大変だったけど楽しかった。
そして、ドキドキの帰ってきた成績は、ボチボチの辺りをキープ出来ていてなんとか自分を安心させられたのだった。
お昼休憩は、クラスは分かれしまったけれど、中庭で春花と和奏とお弁当を食べている。
「なぁんか、彩未ってさ。女の子らしくなったよね」
和奏がそう言った。
「あー、なんか分かる」
春花もそれに同意した。
「なにそれ?何も変わってないけど?」
「ね、本当の所どうなの?」
和奏に聞かれて内心ドキリとしながらも、とぼけて見せる。
「どうって?」
「最近、例の事。話してくれないでしょ」
こそこそと言われて、その事で思いあたるのはただ一つ。翔太との事だ。
今の...例えばつい最近の事を、話すのは。
話しづらいしそして、誰かと共有するのもなんだかそれは違う気がするのだ。
翔太の話をさっくりと言えていたのは、彩未がまだ子供じみていたから...。それでいくと今の彩未は指摘通り“女の子らしく”なったのは正解だとも言えた。
「そんな、暇ないよ。部活もあるし、今なんか幼稚園児の従弟も来てたから面倒見ないといけなかったし。それに、あっちだって忙しいから」
(...言えない...。リアルになると言えないってこういう事だわ)
「...だよねぇ」
春花も和奏もそれで納得したように頷いている。
「今日も、多分遅くなりそうだしね」
地区大会が近づきつつある今、最後の追い込みに入ってきている。嘘でも誤魔化しでもなく本当に余裕もなくなりそうだった。
「春花と和奏こそ、ないの?」
「ん~あったらいいけど。」
和奏が言うと
「バカ兄がいるせいで、なんかついそんな気にならない」
「ふぅん。春花なんて美人だし和奏も女の子らしくて可愛いのに。どっちが枯れてるん?」
彩未がニヤニヤと笑うと
「あ。ちょっと彩未!」
「私はね、ちゃんと小学校の時に、葉月はづきくんという初恋の相手がいるからね?」
「私だって同じピアノ教室の立木たつきくんに片思いしてたからね?」
「はいはーい」
「ちょっと褒めたら、調子にのっとる」
春花がそう言うと、
二人にえいっ!と芝生に倒されてこしょこしょを受けて彩未は笑い転げた。
そんな事をしていると、通りがかった翔太とその友達とバッチリと目があってしまい、翔太にクスッと笑われてしまった。
(何よ~笑うなんて)
翔太ともう一人はそのまま中庭で楽しそうにボールをパスしたりしながら軽く運動をしていた。どちらもボールが足に吸い付くようなコントロールの良さだ。
「あの子、たぶん木下きのした 昂牙こうがじゃないかな」
和奏が言うと
「あー、サッカー部の問題児か」
春花がそう思い当たるように答えた。
「なに、それ」
知らない彩未が聞くと
「1年生なんだけどけっこう先輩に突っかかるらしいよ、気性が荒いみたい。ショータはいつもクールなスタイルなのに。気が合うのが不思議だって、うちのクラスのサッカー部の田所たどころくんが言ってた」
「へぇ~」
「へぇって、知らなかったの?」
「知らなかったなぁ」
(これって。なんだろ...ちょっとムカッとする)
翔太の事、分かってないんだな...。そう知らしめられた事に腹が立つ。
春からインターハイに向けて予選の試合をこなしていたサッカー部は何とか勝ち上がり、夏のインターハイ出場を勝ち取っているそうだ。しかし、それも翔太からというよりは、同じ学校の情報として知っているという感じで...。
つまりは、大会前の彩未たち吹奏楽部もサッカー部も、本当にとても忙しい。
だから、昂牙のことも、それから翔太が落ちて、落ち込んでいたユースの事もあれから聞きづらくて聞いてもいなかった。
でもどこまでが、恋人だからって踏み込んでもいい領域なのか...。彩未にはわからなかった。
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