第8話 おタメしデート
京香と共に選んだデート服は、夏らしい白のふんわりシルエットのカットソーとデニムのショートパンツ、それにチェックのシャツを腰に巻くというベーシックなコーデだった。
それに髪を緩く巻いてリボンバレッタで右側を留める。
「…いつもとそんなに変わらないけど、これで良いの?」
「そう?このくらいがちょうどいいと思う。で、仕上げはこれ」
と色つきのリップとほんのりピンクのチーク。それに軽くマスカラをつけてくる。
「ママの方が楽しんでるよね」
「わかる?すごく楽しいドキドキしちゃう」
見た目だけは中高生らしい女の子の完成だ。
「スポンサー命令です。ちゃんと写メを撮ってママに送ってくること!」
「はいはーい」
お金と1dayパスを渡されて、リュックに仕舞う。
ピンポーンとインターホンが鳴って出ると、予想通り翔太だった。
お互いにその姿を見て思わず二人して笑ってしまった。
翔太の方は、白の半袖カットソーに青のシャツを少し折り曲げて、赤のラインをちらりと覗かせていた。
ズボンはチェックでそれに、靴は人気ブランドの黒のスニーカー。これは彩未の靴と全く同じだった。
それに極めつけに肩に持っていたフラップスクエアリュックは、同ブランドのブラックと彩未のものがライトグレー×ピンクという色ちがい。
なんだかちょっぴり全体的にお揃いのようなコーデだったからだ。翔太の方はいつもと違って眼鏡をかけていてなんだか全体的におしゃれな雰囲気がしている。
「じゃあ、行ってきまーす」
彩未が言うと
「行ってらっしゃい。晩ごはんも二人で食べてきてね」
「ええ~」
「その分のおこづかいあげたでしょ。ママも翔太ママとご飯に行ってくる」
「はいはーい。飲み過ぎに注意ね!」
「うちもついさっき同じ事言われた」
翔太がリュックを左肩にかけて、少しだけ前を歩いてエレベーターのボタンを押した。
「翔太のおかげで、数学良くなった!ありがと。だから、今日は翔太の乗りたいのに合わせるからね」
「そっか、良かった」
そういう翔太の目の下が少し赤くて照れているその顔が可愛い。
(翔太のくせに…カワイイ)
「そっか、こういうのが胸キュンていうやつだ」
「むねきゅん?」
「あ、口に出してた」
ぷっと翔太が噴き出して、
「じゃ、いこ」
「gogo!」
ノリよくエレベーターに乗り込む彩未に翔太はまだ笑いが治まらないようで、少しだけ肩が震えている。
翔太は、3人兄弟の長男だからか、面倒見も良いしどこか落ち着いて見えるのはそのせいかもしれない。
こうして行動すると、彩未の方が年下のようだ。
駐輪場で自転車を出して、翔太が待っている所に彩未の小さめのタイヤの自転車を押しながら歩いていく。
道路に出て、並走して走らせると、少しいけばすぐにお目当てのテーマパークが見えて、指定の駐輪場に留める。すでにチケットは持っているからそのまま入場ゲートに並んだ。
この日は休日であるから、人気なのでたくさんの来客でひしめいていた。
「やっぱり混んでるね。どれからいく?」
「んー、新しいアトラクションから?」
「やっぱりそれ!」
彩未も大賛成だ。
入場ゲートを抜ければ、何度もきているこのパークでは、二人ともほとんど地図は要らないので慣れた足取りで歩いていく。
「あ、写メ撮らなきゃ」
ちょうど人気キャラクターがいて、近くの人にスマホを渡して撮ってもらう。
3枚ほど撮ってもらった写メには、ペアルックで決めた中学生カップルがばっちり写されていた。
「よし、送信っ」
「彩未ちゃんのママに?」
「そ。スポンサー命令」
スマホをポケットに仕舞うと、彩未は思いきって翔太のシャツを掴んだ。
「じゃいこ」
そういうと、翔太は左手を出してくる。その薬指と小指をきゅっと掴むと、顔を見ればやはり照れている様子だ。
(…イヤン…カワイイ…)
颯という兄がいたからか、付き合うなら大人と決めていて、全く年下なんて、対象外だったけど翔太は可愛い。
「ね、どして今日はメガネ?」
「...もし、知り合いに見つかったら、恥ずかしいから」
ぼそっと言う。
(コヤツ…いちいち、ハマるわ)
「そっか、確かに男ってデートとかみたら、茶化しそう」
そしてすぐにエロな事に結びつけるのだ。
目的のアトラクションは、新型の絶叫系のマシーンで彩未もはじめてだ。
待ち時間は90分、ゆるゆると進む列に並びながら翔太は音楽プレーヤーを出してきた。
「聞く?」
「良いね、それ」
方耳ずつイヤホンをつけるなんて、本当にカップルみたい。
いや、はたからみれば疑いようもなくそうなんだろうけど…。
「何入ってる?」
翔太が告げたのは人気のあるグループが中心で、彩未はもちろん知っていた。
「いい!この選曲」
「ほんと?通学中聞くんだ」
にこっと笑みを向けてきて、それがやっぱり可愛い。
自然と距離が縮まるのは、元から翔太に緊張もないし自然体でいるからと、一緒にいて楽しんでいるからだ。
90分はあっという間だった。まもなくやって来た順番に隣同士で座ればガッチリとバーが固定されて、いよいよだとワクワクする。
「これ、ヤバい」
ゆっくりと上昇していったかと思うと、その時が本当に少しの怖さと期待とでドキドキする。
「翔太、くるよぉー」
「きゃーーーー」
視界が目まぐるしく回ったりしながら、風景を写していく。
「あはは!めっちゃ楽しかったね」
「うん。そうだね、おかわりする?」
「するする」
翔太はぷはっと笑うと、預けてあったリュックを2つもつ。
「じゃ、もう一回並ぼっか」
次は60分と少しだけ縮んだ待ち時間をまたのんびりと喋りながら過ごした。
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