第9話 キュートなラヴデート
昼を過ぎているので、ワゴンで売っているファストフードを買って、道の端に座って食べることにした。
リュックから100均の一人用のレジャーシートを敷いて並ぶと、自撮りで2ショットのかぶりついた写メを撮る。
朝のパークインの時と、並んでいるところと、そして昼ごはんの写メをを送っている。
京香からは、
『楽しそうでいいね!』
と入って来ていた。
「彩未ちゃん、飲み物は持ってきてる?」
「ん?」
「そこで買ってこようか?」
「あ、持ってきてる」
彩未はリュックから、ペットボトルのお茶を出した。そして翔太も同じくリュックからストレートティを取り出して飲んでいる。
お腹がくちくなりそこで行き交う人を見ながら少し過ごす。
「次は、ホラー系行こっか」
「いいね、怖いかな?」
「どうだろ?」
小さい頃には行けなかったアトラクションだ。お互いに得意か不得意かも分からない。彩未も翔太も初ホラーにチャレンジするべく並びに向かう。
またまた110分という時間を並ぶ事になるが、まるでバカップルみたいに、じゃんけんをしたりしながら過ごせばあっという間だった。
お互いに時々あまりのリアルさに心底からびびりながら、
「怖い…というか、グロいね」
彩未の言葉に翔太も苦笑しながら返事をする。
「うん」
何て話しながらも、次また来たら入ろうと言っていた。
休憩がてらカフェに入ってアイスを食べることにして、空いたテーブルを見つけて座る。
「翔太、どれにする?」
「迷う」
どちらかと言えばガール向けのピンク色があふれる店内と、そのメニューである。彩未は、チーズクリームとベリーの。迷った末に翔太は抹茶とバニラを選んでいた。
またまた、買ったアイスのカップを持って写メを撮ると、今回の写りもなかなか良い。
「一口ちょうだい」
「ん、いいよ」
翔太がカップごと渡してくれ、抹茶とバニラを一口ずつ食べる。
「彩未ちゃんの一口、多い」
「翔太にも、こっちあげるから」
笑いながら、チーズクリームとベリーを渡す。
翔太もスプーンで一口ずつ食べて、またチェンジする。
(…あ、やらかしちゃったかな…?)
翔太にはなにかとハードルが低くなっている。見れば翔太も気にした風ではなくて、幼馴染みゆえの気安さかと納得させた。
「晩ごはんどうする?」
「うーん。パレードみるかアトラクションかどうする?パレード前がいくない?」
「アトラクションに一票かなぁ、じゃあパーク内ね」
ガイドブックを見れば夜の光と音のショーは8時過ぎ。それからごはんにしてしまうと、中学生の二人には遅すぎる。
比較的値段のお手頃な店を、ガイドブックを見ながら確かめる。
「えー、と。いいや、食べたいの食べようよ。だってお金貰ってるし」
「じゃそうしよっか」
親たちもパーク内はお金がかかることを知っていてお小遣いをくれている。思いきって中学生にとっては豪遊をすることに決めた。となれば、時間はまだゆとりがあるので人気のエリアに向かうことにした。
異国情緒たっぷりのそこは、歩くだけで別世界に踏み込んだような気持ちになる。もちろんそこにも目当てのアトラクションがあって、彩未は翔太の手を握ってウキウキと歩いた。
そこもまた50分ほど並ぶのだが、思ったよりさくさくと進むからそれほど苦ではない。
映像と乗り物を組み合わせて迫力のあるアトラクションを楽しめば、彩未と翔太の好みが合致したレストランに入る。
二人ともハンバーグとエビフライのセットメニューを頼んだ。そしてここでは料理を写メで撮って送ることにする。
横にいた家族連れが、席を立つと
「あ、忘れてる」
翔太が呟いて席を立ち、子供用の靴を拾ってその家族を追いかけて渡していた。
「フットワークが軽くてよろしい!間に合って良かったね」
「だね」
ニコッと笑う。翔太は颯よりはちゃんと味わって食べているような速度である。そして、はじめてみるその食べ方はとても綺麗だった。
どのエリアもこれから空きそうだから、どれを見るのか相談する。植木の窪みにあった空いているベンチを見つけると夜のパーク内でもう一度、写メを撮ることにする。
「こっち寄って」
夜になったこともあり、彩未も翔太も親密な距離感だ。
二人してがおーポーズで写メを撮る。そして、アプリで加工して飾りを付ける。
「アプリやば、べつじん」
「こっちつけたる」
と二人ともに猫耳をつける。
(やばい、翔太の猫耳可愛すぎ)
「リアルで着けたら?」
想像するとにまにまとしてしまう。
「え、それはちょっと恥ず」
「見て、似合ってるし」
スマホの画面を見せると、
「似合ってないし」
「猫耳、カワイイし」
「彩未ちゃん、男はカワイイは褒め言葉じゃないからね」
「カワイイからカワイイっていうんだもーん」
「あ、もう。そんな事言うならそれ消して。削除削除」
「そんなんせぇへん。消すのあかんし」
「残したりしたらあかんし」
以外にノリがいい。きっちりと関西弁には関西弁で返してくる。
「えいえい、こうしてやる」
髭までつけて猫の二人を京香に送った。
「あ、送った?」
「ちゃいましたぁ」
テヘ、と笑うと
「彩未ちゃん」
ちょっと怒ってるよ。という呼び方をするが、本気じゃないのでちっとも恐くはない。
「あれ行こ」
クスクスと笑いながら手を引っ張って、ベンチから立って最後のアトラクションに乗るべく歩き出す。
思った通り、空いていてすいすいと進んで乗ることが出来た。
「あー、ひさしぶりに満喫できた」
「うん。俺も」
にこっと笑みを向ける。
時間はそろそろパレードの終わる時間。
「混む前に帰ろっか?」
「それがいいね」
パレードが終わると一気にみんな動き出すのでその前にパークアウトすることにした。
「ね、翔太」
歩く場所はパーク内の植栽たちの、影になっているそんな場所…。
「ん?」
振り向いたその翔太の唇にめがけてキスを軽くする。
「今日は楽しかったから、そのお礼」
顔を少し離せば、暗がりでも耳まで赤くなってるのがわかった。
(やり過ぎちゃったかな?)
そのまま、少しずつパークアウトに向かう人の波に乗って二人とも手を繋いで歩いていく。
駐輪場へ向かえば、そこは暗がりであまり人気もない。
自転車のカギを挿していると
「彩未ちゃん」
「自転車みつからない?」
そう聞いて振り向くと、肩に手を置いた翔太のその顔がすぐそばにあり、全くさっきと同じシチュエーションで、今回は逆に唇を奪われる。
しかも…。さっきのは触れあうだけの軽いものだったのに、翔太のキスはゆっくりと長くて、唇の柔らかさをお互いにじっくりと脳内にインプットしていく。
「彩未ちゃんが...悪いんだ。俺をからかうような事をするから」
ゆっくりと離れていく顔を見つめながら、少し呆然としていると
「帰ろっか...」
と続けられた。
「うん...でも、からかってる、訳じゃないよ…」
翔太が自転車を出してくれ、自転車を挟んで並ぶ。からからと車輪の回る微かな音と、パークの音楽が風にのって聞こえる中
「ね、翔太。もう一回したいな」
そう言うと、ちょっと照れ臭そうに笑った翔太と自転車を間にして今度はちゅっと軽くキスをした。
「...ね、翔太。ちゅーって気持ちいいね」
「彩未ちゃんは、すぐにそういうことを口にする」
ぷはっと吹き出して笑われる。
「デートって楽しいね。また勉強頑張ったら来ようよ」
「だね」
自転車はのろのろと、乗らずに押しながら歩いた。
楽しい雰囲気の余韻を楽しみたかったからだ。
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