第11話 キめました。
惶成大学 中等部・高等部のある街は、学舎に相応しく静かに学問に集中出来そうな自然に囲まれたところだった。
と言えば聞こえはいいが、それ以外には何もないということだ。
京香と春花、和奏、英乃とそれぞれの母と学校説明会にやって来た彩未たちは、そのあまりの規模に驚かされた。
校舎は13階建てだし、公立の中学校とはまるでちがう新しい教室には黒板の代わりに電子黒板が、机と椅子さえ違っている。
ライブラリーから、PCを自由に使えるスペース、それに温水プール。グランドは人工芝だった。
夏休みに突入していたが、クラブ活動はそこかしこで行われていて、翔太の属するサッカー部も練習をしていた。
グランドの横を通りがてら見学して、
「彩未、翔くんいるかな?」
京香がそう見渡す。
「んー?いるんじゃないかな?」
練習着の上に紫と白のビブスをつけた男の子たちの中に翔太は見つかった。
「ママ、紫の7番だよ」
「あー、ほんとだ」
ちょうど7対7のミニゲームをしてるらしくて、翔太はDFらしく攻撃からゴールを阻む。多少サッカーを知っている京香と彩未にはいい動きをしているように見えた。
ボールをカットすると、そのまま相手ゴールにドリブルで上がっていき、左サイドから真ん中にボールを蹴ると上手く機能してFWの男の子と思われるチームメイトへパスが通りヘディングでシュートが決まっていた。
ピッピッ、ピ―――――――!
とホイッスルがなってどうやら試合終了の合図が鳴る。
コートから出ると、また違う黄色と赤のビブスをつけたチームが入ってゲームが始まる。
じっとゲームを見ていたせいか、水分補給をしていた翔太が彩未たちに気づいた。遠巻きにペコッと頭を下げて、コートサイドに座ってストレッチをしている。
「翔くん活躍してたねー」
「そうだね、ママ」
そのままみんな揃って、説明会のあるホールに向かった。
説明を聞いても、何もかもが魅力的に思えてウリを紹介してるのだからそうなのだろうけど、通いたい欲を刺激させられる。
ホールから出て
「ここ、いいね~」
彩未がいうと、3人とも同意している。
「私立を甘く見てたわ。違うね、全然」
「楽器みた?ピカピカだったよ」
お目当ての吹奏楽をみたが、ボロい楽器は無かったし、手入れが行き届いていた。そして何よりも演奏のレベルが高くてここに入りたいと思わせた。
何よりもすべてが綺麗だし、通っている生徒たちが楽しそうだった。
「ママ、ここ受験したいな」
「じゃあパパにも相談してみよっか。ママもいいと思った。彩未は女の子だし私学でも良いかもね」
春花たちもみんな一様に気に入ったみたいで、楽しんで学校を後にした。
帰宅する電車に乗ると、惶成の生徒と思わしきTシャツとジャージ姿の集団が乗ってきてその中に大きなスポーツバッグを背負った翔太を見つけた。
同じような男の子たちと話ながら楽しそうにしていた。
大きな駅で乗り換えると、そこで路線が違うらしく友達と別れた翔太は彩未たちの方に駆け寄ってきた。
「こんにちは、今日見に来てたんですね」
京香に挨拶をして、春花たちにもペコッと頭を下げている。
「そう。いい学校ね」
ふわっと石鹸の匂いがするから、私学なだけにシャワーでも浴びて来たのかもしれない。
翔太のTシャツとジャージは大きめなのだろう。だぶっとしていてそれも、少年らしくて可愛い。
「そうですね…なかなか充実してるなとは思います」
「ね。ビックリしちゃった」
「サッカー、活躍してたね」
「いや、ほんとの試合でしないと意味がないんで、でもありがとうございます」
ニコッと京香に笑いかけている。
(うん…やっぱりカワイイな)
「じゃ、先に行きますね」
またペコッとすると慣れた足取りで乗り換えに向かう。
大きな駅だからたくさんの人がいるのにぶつからず、器用に人の間をすり抜けてあっという間にその背中は小さくなった。
「可愛いねショータ」
春花が、顎にピストル形にした手をあてて言った。
「確かに」
和奏がいい英乃も続けた
「それに爽やか。シャンプー?柔軟剤?なんかいい匂いもしてたよね」
「彩未がカワイイって言ってた意味がわかったわ」
母たちはどこでお茶をするのか相談をしていて、駅構内のケーキショップにぞろぞろと向かった。
「さっきの子、彩未ちゃんの彼じゃないの?」
和奏ママがハッキリと聞いてきて、
「違うみたい。デートには行かせたんだけどね、みてみて」
と京香が答えると、この前に彩未が送った一見ラブラブの写メを見せている。
「ママ、恥ずかしいからやめて」
「いいじゃない。こんな時期今しかないわよ?高校になったら何だかリアル過ぎちゃって、ママたちもこんなこと言えないわよ」
「そうゆうもん?」
「そうゆうもんです」
彩未は、フルーツタルトと紅茶を、舞花はシフォンケーキと紅茶を、和奏はイチゴショートとコーヒー、英乃はザッハトルテとコーヒーを頼んだ。
「彩未ちゃんの年頃は、年上が良いと思っちゃう時期だもんね、年下が対象外でもしかたないか」
和奏ママが納得した風に言っている。
「みんなやっぱりそうなのかなぁ」
対象外とか言いながら、付き合ってもないのにキスはしてしまってる。
まさか親たちにまではいくら彩未でもそんな事は言えない。
夜、帰宅した父 真人(まさと)に進路を相談すると、
「受けるのはいいんじゃないか?頑張ってみ」
「ありがとう~」
とすぐに許可が下りる。
早速翔太に受験する事をRENで知らせた。
『よかったね、頑張って』
とかわいいキャラが踊ってるスタンプと共に入ってきた。
(なんで、こんな一文にも喜んじゃうんだ)
彩未は、その画面設定している二人の写メを指先で触れながら軽く息を吐いた。
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