第12話 おまじない

受験するとメールをした次の日の朝。

朝いる?とRENでやり取りをしていたから、ピンポンが鳴り、扉を開けてみれば連絡通り翔太が立っていた。


「はい。彩未ちゃん」

「なに?これ」

渡されたのは、はじめて眼にしたそれはどうやら受験票。

翔太の名前と、554の番号。


「受かった人の受験票を、持ってると合格するっていうおまじない」

「へぇー、そんなのあるんだ」

そう感心したかのように言うと


「や、うちのがっこだけかもだけどね」

にこっと笑うその顔がやはりカワイイスイッチを押してくる。

「ありがとう、翔太」

「ん、頑張って」


これからサッカーなのか、ジャージ姿の翔太を見送った。

「いってらっしゃい」

「ん、いってくるね」


体に対して大きいバッグを持って、エレベーターに乗る翔太を見送った。


(受かってほしいって事だよね~?)


なんだかそう思うと、ちょっぴり嬉しい。


翔太も部活なら、彩未も部活だった。


この日はいよいよ地区大会。桜花中学校は強くはないので、まず…突破は難しい。しかし、これで終われば彩未たち3年生は活動は引退状態になる。


おまじないといえば、くしくも、この大会直前には3年生みんなでミサンガを編んだ。victoryのVの形に水色と白とピンクで編み、男の子の部員には青と白と赤で編んだものをみんなお揃いで手首に着けていた。


学校に集合して、運べる楽器はそこで持ち電車で現地に向かう。

たくさんの学校が集まっていて、いろんな制服がそこかしこに見られる。


課題曲は、架空な伝説のための前奏曲 自由曲は 天空の騎士だった。

運動部にはそれなりに試合というものが存在していて、結果というものがすぐにでるのだが、吹奏楽のようなクラブにはこういうコンクールというものが待っている。


大会はホールでコンサートもするような場所でおこなわれるので、緊張はするし、ほかの学校の演奏を聞けばどこもすごく上手くて、圧倒される。


彩未は、ネックストラップをつけてアルトサックスを手にした。

いつも元気な春花と、しっかりものの和奏がみんなに号令をかける。

「みんな、緊張しちゃってる?緊張しすぎて、変なオナラみたいな音、ならしちゃダメだからね」

と春花はちょっぴり笑わせる。


「と、北原部長のことはおいといて、今日はいつも通りやれば絶対に金賞とれるから!どんなに他の学校が上手く聞こえても私たちも絶対におんなじくらい上手いから!」

春花が少し笑いでほぐして和奏が引き締める、そんないいコンビである。

「じゃ、いくよ!」


それぞれが座席につき、いよいよ森村先生の指揮で演奏が始まる。

いつものように…。


手応えとしては、とても、とても、良かった!


「うん、みんなよく頑張ったね!金賞とれるかもしれないよ」

「初全国、行けるかな…」


しかし…結果は、ダメ金だった。全国には届かなかったのだ。


彩未たちの3年生はこれで終わりだった。

帰りの電車は、少しばかりしんみりするのかと思いきや...


「金賞は、良かったけど...」

「うん、そうだね...」

としんみりは、ここまでだった...


「ま、これで終わりで、次は受験だ!」

春花は拳を作った。

「みんなどこにするの?」

「彩未は?」

「惶成、受けることにしたよ」


「やっぱり?良かったもんね~私も、受けるって言ったよ~」

春花がそう言った。そんなことを、話しているとすっかりいつもの調子だった。


「私も受けるよ」

和奏が言う。


「え。そんなぁ、受からなかったらみんなのせいだよぅ」

「がんばれ」


「英乃はどうかな、南苑丘かな」

春花が、和奏に聞くと

「私学はやっぱり高いし、うちには無理かなって言ってた」


「そっか...」

別の高校になるのは少し淋しい。

「でも。みんな希望校に受かったら良いな」

「だね!」


「...受験は絶対にVじゃないとね、それまではコレつけておく」

お揃いのミサンガを彩未は見つめた。


ミサンガと合格祈願の御守りと、翔太の受験票。

翔太の受験票は、カードケースに入れて巾着に常に鞄に入れていた。夏が終われば本格的に勉強が始まったのだった。



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