第13話 サクラさく

春、満開...は少し過ぎてしまって葉がちらほらと見えるそんな季節。


「どう?」

彩未は紺色のブレザーと、チェックのスカート。着ているのは目の前にいる翔太とお揃いの真新しい制服。髪は2つに括って両肩に垂らしている。

「似合ってる、かわいい」


「ありがとう」

おどけてスカートをつまんでポーズをとって見せた。


無事に惶成大学 高等部に進学した彩未は今日からハイスクールライフが始まるのだ。


同じ校舎を共有する中等部の翔太とは、行き先は同じだった。

だから、今日からはエレベーターを降りてからも、左右に別れずにすむのだった。


駅につくと、鞄につけたパスケースを改札口で ピッ! とさせて通るの事に密かに興奮してしまう。


「ねねね、つっかえなかった」

ピコーンと止められている人を見ながら彩未が言うと、

「よかったね」


「あれ鳴ると、焦っちゃいそう。バーンって当たって あうってなるかな」

「そうだなぁ...」

そういうけれど、翔太はなんだか笑いをこらえているような感じである。


「あ、そうだ、翔太とはまだ撮ってなかった!」


彩未はスマホを取り出して、ホームで写真を撮った。

朝、それほど混雑しないこの駅は混み合うほどでもなく、中高生が自撮りしていても邪魔ではない。


「スマホ、禁止でしょ」


「電源オフするから、ポーチにしまうし、それに...なんか不安でしょ?」

「なんで?」

「乗り間違えたり、乗り過ごしたり」


「今日は俺がいるけど」

「そう。ほんとに頼りにしてるからね」


「そこだけね」


いくつか乗り換えを必要とする通学は、慣れるまで緊張してしまいそうだ。


ひとつめの乗り換えの駅で、同じく進学した春花が乗ってくる。

「おはよー」

春花は長い髪を後ろに1つにくくって、すっきりとした美形女子高生だ。和奏は1つ前の電車でずいぶんゆとりをもって登校しているようだ。英乃は南苑丘に進学したので別の学校になってしまった。


「翔太くんもおはよ」

「おはようございます」


春花にはきっちりと敬語なのは、親密度の差なのかそれとも彩未が下に見られているのか...。


大きな駅に着けば、さすがに人がすごくて足早にあちこちに歩く人たちに圧倒される。

「こっちが近道だよ」


翔太は二人を連れているせいか、前に見たときよりもゆっくりと迷いなく歩いていく。


「あ、そうだ彩未ちゃん。惶成って男女交際禁止だから、学校では親しそうにしちゃ駄目だから」

「え、そんなの今時?」


「あるんだ、コレが...」

「えー、じゃあみんな、彼氏彼女いないのかな?」


「さぁ、バレないようにしてるんじゃない?」

「つまらん。カッコイイ先輩とかいても、告白して~とか出来ないんだ」


「...だね」


「ちょっと、彩未」

「ん?」

前を歩く翔太の後ろを二人で歩いていると春花がつんつん、とつついてきた。

「あんたさ、翔太とはキスとかしちゃってるくせに、そんな事言って」

ボソボソと小さな声で言ってきた。

「え、だって付き合ってるわけじ...」


「じゃないよ。彩未って鈍いっていうか、悪魔っていうか...」


違う路線の改札を通れば後は学校の最寄りの駅だから、さすがにちらちらと同じ制服が見える。


半分くらいが中等部からの進学組であるこの高校は、何となくだけれど進学組と新入組の境目が今のところくっきりとしている気がした。慣れている、進学組とウキウキ、ドキドキして、戸惑っているのが新入組。

春花たちが一緒の学校に来てくれて良かったなと思う。でなかったら不安になっていたに違いない。


駅に着くと、翔太には彼の友達がいるから、そこで別々になる。


「男の子たちも、なんかお上品な感じするね」

春花が言う。

「そうだね」


やはり校則が厳しいせいか、スカートは膝下丈、髪は黒か紺のゴムで、肩よりしたの長さは1つか二つでくくる。制服の下に着るものも、白の無地、靴下は黒。標準服しか認められていないので、みんな一様にピシッと揃っていて気持ちいいくらいだ。

惶成のkoseiのロゴの入った通学用のナイロンバッグにも、キーホルダー禁止なのでじゃらじゃら飾ってる子もいない。


男の子は耳にかからないように、細かく指定されているらしくてみんな清潔感ある感じた。


「色々ときちんと決まってるんだね」


「みたいね...」


一年生の間は、進学組と新入組はそれぞれクラス分けされているので彩未たちは同じクラスになった。


「クラブ、見に行く?」

「うん、そうしよっか」


中学から引き続き吹奏楽をしようかと言っていた3人は、見学に行くことにした。ここの吹奏楽部は強豪校の1つで、マーチングバンドの映像を見たときの衝撃は凄く、ここに絶対に入りたいと思わせたのだ。


行けば同じように見学に来ていたたくさんの一年生がいる。

やはり、活気がある練習風景に、厳しいことはわかっていたけれど、すぐに入部を決意したのだった。

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