第14話 イチネンセイはタイヘン

いざ、高校生活がスタートすれば、通学、それに授業、それに部活動と彩未も春花も和奏もへろんへろん状態であった。


特に強豪である吹奏楽は大変厳しかった。

きっと運動部以上に...。


特にマーチング初心者であるから、歩幅62.5を叩き込むのに、直線の上を腕をしっかりあげて下を見ないで歩くのだ。


それに、ロングトーンの練習。グランドの隅でひたすら吹く。

足の筋力を鍛えるのに、片足をあげてキープを3分。等々...


「き、つ。泣きそう」


部活が終わればそんな泣き言がついポロリと出てしまう。


家に帰れば、たくさんの宿題。


「ママ~ただいまぁ」

「おっかえりー!」


明るく出迎えられ


「カレーライス!」

「正解♪」


「お腹すくぅ...」


寄り道も校則では禁止されているけれど、そもそも寄り道をする元気がない。

「先に食べちゃう?」


「うん。着替えてくるぅ..」

「ん、なぁんかヘロヘロ。...えぃっ!」


「あっ...ママ...そこはだめぇ」


「太もも~」


筋肉痛でぶるってる足をうりうりと触られて、彩未は京香を恨めしく見た。

「ぱんぱん」


「ひどいママ~」


「うりゃ、がんばれがんばれ」


「わぁー、お風呂ダイブしてくる!」

京香の秘技“痛いところ攻め”から逃れるようにバスルームに向かう。


部屋着のスカラップレース付きのシャツとショートパンツセットに着替えると、早速ごはんを食べる。

空腹だから本当に兄の颯並みに早くなったのじゃないかと思うくらいだった。


ご飯の後には廊下にマスキングテープで五メートルを8歩で歩くラインを張ってメトロノームをかける。それをビデオで一回ずつ確認しながら、叩き込んでいく。

それから宿題をやっつける...。

帰宅部が多いのもわかる気がするのだ。


『しょーたー。高校は大変だよ~』

泣き言を送ってみる。

『頑張ってたね。ブラバンは練習きついから。がんば』

『見えてた?あみも練習しながら翔太のサッカーみてたー』

『おー。なんかハズ』

『なんで。なんかこういうの楽しいね』


そう。練習しながらでも、サッカーをしてる翔太の事はすぐに見つかる。向こうも頑張ってると思えば彩未も頑張れた。


そして1ヶ月ほど基礎をしてからようやっと楽譜を与えてもらえた。それと同時に、この学校のマーチングのウリであるsing sing singのステップを同時に先輩から伝授されるのだ。各パートごとに少しずつ動きが違うので、彩未はサックス隊の先輩たちにうんとしごかれるがなんとか形だけは自力で練習できても細かな注意はびしばし遠慮無く飛んでくる。

「そこは、こうだよ、こうじゃない」

「はい!」


「あみ、足あがってない!鍛えて!」

「はい!」


(先輩たち、みんなSすぎ...)


「これでできなきゃ楽器持ってなんて、とうてい出来ないから、やって」

「はい!」


(ワタシもMかも...)


しかし、先輩たちは彩未たち一年生が躍起に汗だくでしているこのダンスを、笑顔でしかも見事な演奏でやってみせて、鮮やかなフォーメーションをもの凄いスピードで整えていく。


「今度のパレードまでに一年生たちも仕上げていくからね、気合いいれてよー」

ドラムメジャーの中司(なかつかさ) 綾月(あづき)先輩がビシッと言うとやはり一気に引き締まる。


マーチングと、それと座奏の方も練習があるから本当に日々厳しい。移動の時は常に走るし、楽器は重たい。


しかし、そんな日々を過ごしていれば、格段に一年生たちもなんとか演奏と動きが出来るようになり、パレードの日を迎えたのだ。


イベントに呼ばれたその日は、ミニスカートの可愛い衣装を身に付ける。


髪型はポニーテール。紺色に、白のラインと金ボタンのおしゃれなものだ。


彩未たちアルトサックスも重たいが、さらに重たいスーザフォンやパーカッションの子達も持ちながら踊るから、本当にみんな凄い。

一年生たちは初のお客さん付きの演奏だが、頼もしい先輩たちのお陰でなんとか笑顔で演奏することができたのだった。


そしてそして...慌ただしいことに、最初の中間テストがやって来た。


「ひぃ...大変だよ」

舞花も和奏も彩未同様、テスト勉強に苦心している。


「ね、手分けしてテストノート作らない?」

「あ、それいいかも」

「やろ」


「彩未は国語が得意でしょ、で、和奏は数学で、私が理科する。社会は、えーとページで分けよっか」


こうして、テスト範囲をまとめたノートを三人分コピーして緑の蛍光ペンで文字を塗ると、赤の透明下敷きで文字を隠して覚えるのだ。

電車の行き帰りで必死にそれを繰り返した。


それで、なんとかテストを乗り切ることが出来たのだった!

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