第15話 ナツはやて

高校一年の夏。


大会を前に、夏合宿がある。

大自然の施設に泊まるのだが、サッカー部も同じく合宿に来ていて、中等部3年生もそこに参加していてもれなく翔太も来ていた。練習中は別々だが食事時は一緒で、彼らが日に日に真っ黒になっていくのを見ていた。


合宿施設内でも廊下で一年生たちはひたすらステップの練習をする。きつくて泣いちゃう子も続出したが、

「泣くならもっと練習する!」

と怒られるから泣きながらでもするしかないのだ...出来るようになるまで。それは、出来ないのが悔しいから、泣いても頑張るしかない。


でも、先輩たちは練習が終わればとっても優しくて、アメとムチの使い分けがとても、うまいのだ。

「今日もみんな頑張ったね!ありがと」

ニコッと微笑みとそして一口チョコアイスがアメとして配られる。


「あづき先輩どこまでも、ついてきます!」

こんな手に引っ掛かってしまう彩未は単純に違いない。

「あみ、ついてきて」

と笑顔で返されて、よしよしとハグされる。

「百合百合だぁ~」


「あづき先輩、私も~」

と次々とハグをされにいく。怖いけど人気の先輩なのだ。


そして...。


そんな合宿のある夜の事...。


彩未は、サッカー部員の男の子に食事の時にすれ違い様にメモを渡されたのだ。


『食事の後、宿舎の入口横でまってます』


とあったのだ。


行ってみると、渡してきたサッカー部の男の子はそこですでに待っていた。

行かなかったらいつまで待っていたのかな、と思う。

スポーツ少年らしく、キリリとした顔立ちと、平均少し高めな背と引き締まった体つきが男らしい。

「あの...」

彩未は、言葉もなくこちらを見ているその彼におずおずと呼び掛ける。

「呼び出して、ごめん」

「はい、どうかしましたか?」


「俺は、3年の光永(みつなが) 瑛斗(えいと)っていいます。長谷川さん、俺と付き合ってくれない?」

(これって、こくはくとか、そういうこと?)

「え、と」

と言っても彩未の方は彼を知らなかった。全く接点が無かったからだ。

「あ、そっか。いきなりじゃ戸惑うよな。俺の方は、休憩中にブラバンの子達、見てたから...頑張ってるのみて、いいなって思ってたけど。長谷川さんは俺の事知らないよな?

合宿終わったらさ、一回...会ってくれない?これ連絡先だから、連絡ほしいんだけど」

「あ、わかりました...」

とまたメモを渡されて、ペコリとすると彩未は先に宿舎へと帰った。


どうしようか、と。それを無くさないようにしまう。

(うーん)

というか、全く...そんな事が起こると思ってもなかったのだ。

男女交際は禁止だし...。


(あ、そっか向こうはもう今年で卒業か...)


だいたい、お年頃の男女に禁止をしたところで無駄な事。しかし、禁止だから大っぴらにイチャつけないだけで隠れカップルはたくさんいるのかもしれない。


翌日で、合宿は最後だったが気になってつい、瑛斗を探して見てしまった。つまりは告白された事で気になる存在に一日にしてなったのだ。


告白って、それだけの力があるのだ。

(びっくりだけど、うれしい、かも)


合宿はそうして終わりを告げたのだった。


学校からの帰りは、春花と和奏と一緒に電車に乗った。


「ね、どうするべき?」

「って、例のせんぱい?」

和奏が答えた。


「うん...。だって、知らない人と会うのってどうなんだろ?」


「じゃあ、その時近くにいてあげよっか?」

「ほんと?」

「確かに不安っていったらそうだし、だけど、会わないって言うのもどうかと思うよね。向こうは付き合ってって言ってきた訳でしょ?」


「うん...だよね」


「彩未どうした?翔太くんにはなんか、全然積極的だったのに」


「でも、それはわかるよ。だって、今回は全く知らないような人なんだから、会おうって言われても躊躇うよね」


「とりあえず...明日にでも会ってみる」

「じゃ、待ち合わせ決まったら知らせて」

和奏の言葉に彩未はうなずいた。


「和奏...なんか頼もしいね。経験あり?」

「ん?私はないけど、お姉ちゃんからよく話聞くから。邪険にしすぎても、トラブルになったりとかあるみたいだし。どっちにしろ会うのは必要かなと思うよ」


「だけど、なんで私かな?春花の方が美人だし和奏だってかわいいに」

「あ、以外と本命は二人だったりして?」

「それだったら、わざわざそんなややこしいことしなくても」

「漫画とかであるでしょ?本人には行きなり近づきにくいから友達から近づいてとか」


「んー。でも、彩未は充分かわいいし」

「それって、かわいいって言うのは、ほとんどがおせじでしょ?」

「はらま、じゃあ、その辺のところも確認しがてらメールしてみ?」


彩未は、

「なんていれたらいい?」


「普通に、名前と明日どうですか?で、いいんじゃない?場所とかは返事が来てからで」


「ん、わかった」

和奏に言われるがままに、その日彩未は瑛斗にメールを送る。そしてその時間と場所の確認をする返信が来たのは、その日の夜であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る