第5話 ヨルごはん

「彩未ってさ、見た目に反して女子力低いよね」

春花が部活を終えての帰り道で言ってきた。

「え!?ほんとに?」


「そういえば、恋ばなとか聞いたことなかったな」

和奏が春花に同意するように言った。

「うん。別にキュンとくる相手もいないし」

「枯れかけのババァみたい」

春花がわりあい、サックリと切り込んできた。

「ぅわ、それヤバイ」


「そこで!枯れかけ彩未さんは例の惶成ボーイとはどうなんだい?」

「翔太には今度勉強教えてもらうつもり。」

「ほうほう。どんな勉強かな彩未さんよ」

「数学とか?」

その答えに春花は不満げに、うへっと声をあげる。


「数学即答!受験生だって、恋もしっかりとしてる子はしてるんだよーそこは、恋の要素もちっとは いれないと」

和奏も、声をあげる。

「翔太はもう、赤ちゃん時から知ってるし年下だし。考えたことないよ」

「ショータくんは年下か、でも、1こや2こなんて関係ないよ」

和奏がなだめるように言う。

「和奏まですぐにそういうことと結びつけようとする」

「そういうお年頃だってば」

春花が言い含めるように言えば

「彩未はさ、そうでも向こうはしっかりと思春期迎えてるかもしれないよ?」

和奏も続いてもっともらしく解説をする。

「翔太がぁ?」


「枯れてるわ…やばいくらいに、枯れた彩未」

「575に当てはめないでよ」

「きれいにはまったね!我ながら」

春花が頷きながら言った。

「全く感銘をうけないわ」


そんな事を言いながら歩いていると、


「あれ?翔太?」

信号で止まると、ちょうど横に停まった自転車の少年が翔太だった。


「彩未ちゃん、今帰り?」


翔太はスポーツタイプの自転車から降りると彩未たちに近づいてきた。

「そう。翔太は?」

「買い物頼まれて、ひとっ走りしてきた」


と、背負ったリュックを示した。

「暗いのに女の子だけじゃ危なくない?」


(あら…女子扱いか…)


「ほんじゃ送って♪」

春花が明るくいうと、

「俺でいいなら」

と快諾する。


(ふぅん…ちょっと頼もしい?…)


「ショータくんは何部?」

「サッカー部」

「翔太は小さいときからずっと頑張ってるね」

「下手くそだけどな」


翔太は笑いながらいうが、本当に下手なのかはわからない。

兄の颯もサッカーをしていたけれど、翔太とは学年が離れているから翔太がサッカーをしているところは見たことがない。


「サッカーか、いいね」

「ありがちでしょ」


暗い中だから翔太の顔は影が濃くて、その表情がよく見えない。何となくぐっと大人びて見えて、ドキッとさせられる。


(なんてことないやり取りだったのに)


春花と和奏が変なこと言うから。


「ポジションどこ?」

兄の影響で多少はサッカーの知識はある。

「ん、バック中心かな。あとはキーパーとか多いかな」

颯はトップだったから、バックには何となく地味な印象がある。


「今地味って思った?」

「いやいやいやいや、守りは大事でしょ」

ぷっと翔太が笑っている、見れば春花と和奏も笑ってる。

「彩未って、ほんとに顔に出るよね」


「あ、私の家、そこだからじゃあね~翔太くん。彩未をよろしく」


「じゃあね春花、和奏」


翔太は横でペコんと頭を下げている。

「買い物、翔太ママ待ってない?」

「待ってると思うけど、怒ったりしないよ」


おっとりした雰囲気の翔太ママを思い浮かべると確かに怒らなさそうだ。


「確かに…怒るの想像できない」

「そんなことない。めっちゃ怒る」


「そっかぁ…。やっぱり怒るんだ…翔太ママも」

「彩未ちゃんとここそ、怒らなさそうだけど?」

「おんなじ。怒るときはスゴく怖い」


「そういえばあれさ、勉強すんのっていつ行ったらいい?」

「翔太、そうだ!携帯持ってない?」


「一応あるんだけどさ、学校持ち込み禁止だからほとんど使ってない」

と、言いつつもポケットからスマホを取り出した。


「RENでいい?」


彩未も無料のこのRENというアプリで友達と連絡を取っているからそれに異存はなかった。自転車を押しながらなので彩未が翔太のコードを読み込んだ。


「出来たよ」

「ありがと」


そんなやり取りをして、早くも遅くもなく歩いていると自宅マンションにたどり着いた。

翔太が自転車を停めるのを待ち、エントランスのセキュリティドアをキーリモコンで彩未が開ける。


「じゃあまたね」

「うん。またね」

エレベーター前で翔太とは別れを告げて帰宅する。


母の京香きょうかは夕飯を作っている最中らしく、玄関を開けて靴を脱ぎながら、その匂いからすると今日はハンバーグかと推測できた。


「ハンバーグ!」

玄関を開けて彩未が言うと

「正解!」

と声が飛んで来る。

「じゃあ、着替えてきまーす」


「その前にただいまでしょ?」

ひょこっとキッチンから顔を覗かせて京香が彩未を見た。

「はい、ただいまぁ~」

「おかえり!」


母は絶対に、見送りと帰宅の時は顔を見ないといけないと思っているらしくてこれは毎日の恒例だった。


制服を脱いで、プチプラの部屋着がわりのロングワンピースを持ってまずはお風呂に入って着替える。


そうすれば寝る支度とともに、夕飯も出来上がっているというタイムスケジュールなのだ。


いただきます~と言ってから、箸を手にして、家族の誰よりも真っ先にご飯を食べる。出来たては美味しい!

「ママ、ハンバーグ美味しい!」

「彩未は女の子なんだから、たまにはお手伝いしないと。困るよ?」

「…んー。その時になったらするぅ」


と、もぐもぐしながら返事をする。


そうやってほとんど食べ終えた頃に


「ただいま~」

と、颯が帰って来た。


そして、彩未の半分くらいでお風呂に入って出てきた颯は、妹から見ても文句なしにカッコいい。

「お兄ちゃんおかえり」

「ん、ただいま」


彩未の倍くらいの量を、颯は勢いよく食べ始めると、目の前の料理は瞬く間に消えていく。


「...作るのは大変だけど、なくなるのは一瞬...」


ピカピカになった皿を京香が切なく見つめていた。

「ご馳走さま」


食器を下げた颯は、後から来たのにさっさと部屋に向かっていった。お年頃なのかやはり無愛想に感じてしまう。


「...お兄ちゃんは、好きだけど、やっぱり女の兄弟が欲しかったな」

単に颯と彩未が疎遠だというだけか?

「うーん。ママは颯と彩未で良かったな!」


「ママうまい!」

彩未は京香を褒めた。

「んふ、ありがと」

京香はにこにこと彩未を見つめている。



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