第39話 恋人の時間
『お疲れ様、それから
全国大会が終わって、少しホッとしたそんな日に翔太からのメッセージが入ってきた。
『今日空いてたら、うちにこない?』
と入ってきて、彩未は勉強は一先ず置いて
『行く!』
とすぐに返信をした。
白にオレンジ系の花柄のワンピースとそれからイエローのカーディガン。一応の勉強道具を持って1215室を鳴らす。
「開いてるよ」
とインターホン越しに声がして、開ければリビングから翔太が出て来て彩未はジャンプして飛び付いた。
「ん―――」
ぎゅぅ~としがみつけば、それに応じて抱き止めてくれた。
「もし、誰かいたらどうする?」
笑いながら言われて、
「うそ!」
と、慌てて離れれば
「誰もいないって」
クスクスと笑われて彩未は少しムッとした。
事実上は受験の為に引退の彩未はともかく、翔太はどうしたのか。
「今日はオフ?」
「練習中に、怪我」
「え、ウソ、大丈夫なの?」
「うん。打ち身だけだよ、少し痛みがあるから明日まで休み。で、うちの家族は旅行中」
「えー、そうなの?」
「行かないって言ったの俺だから」
「じゃあ...」
「ゆっくりしていって、って言っても勉強あるよな」
「一日数時間くらい、いいでしょ?せんせ」
3年前、翔太に数学を習った日を思い出して、そう呼んでみる。
「その呼び方、なんかヤバい」
キッチンでアイスティーを淹れる翔太は楽しそうに笑ってる。
「ほんと?」
ひさしぶりの、おバカな会話だ。思えば3年目に入った翔太との彼氏彼女としての付き合い。
「アイス食べる?」
「うん、チョコの方」
「そういえばなんで、金賞とれたって知ってたの?」
「動画、アップされてたから」
「えー、そうなの?」
「うん、彩未もバッチリ映ってたよ」
見る?と、大型のテレビを操作してインターネット上に乗せられた動画を再生した。
「ま、ま、待って、なんか恥ずかしいよ」
その反応に翔太は笑うと、そのままリモコンを高い所においてしまった。
「カッコ良かったよ」
するとその撮影者はソロを弾く彩未をアップにしてる。
「やぁーだー!なんでアップにするの~!」
もしかすると、保護者のうちの誰かかもしれない。
金賞、惶成吹奏楽部という題名だった。
「な?カッコ良かったでしょ」
「まぁ、みんな良かったよね」
「3年間、お疲れ様」
アイスクリームのカップで乾杯をする。
「翔太は、また冬に向けてだね」
「そ、だからまた...しばらくこんな時間はないかもなぁ...」
「じゃあ、いっぱい...充電しとかなきゃ...」
彩未は勉強もあるし、翔太はサッカーとそれから当たり前だけど、学校の勉強がある。
動画を見終えて、リモコンを操作してテレビをつけた翔太は彩未の側に立った。
「彩未」
屈めてキスをしてきた翔太の、その唇は少しひんやりとしていて、そして文字通り甘い。
その両頬に手をあてて、彩未もまたキスを返す。
易々と彩未を抱き上げた翔太は、そのままソファにそっと横にして大事そうに腕で囲い込んで、キスを続ける。
「翔太...」
名を呼んで、その体に手を伸ばせば、そこに鍛えられた体があることをしっかりと掌からその感触を伝えてくる。
部屋着のTシャツを脱げば、若々しく、そして細くしなやかでそれでいて筋肉もしっかりとついた見事な上半身がそこにあって、この数年での翔太の変化を改めて伝えてくる。
「スゴく、綺麗だね」
その体躯には、彩未がこの数年、彼の成長の過程を見てきたからこそ、そこに努力の証を知る。
「それ、こっちのセリフだから」
「彩未も、腹筋縦に割れてる」
「ひゃっ」
お互いにクスクスと、笑いあいながらじゃれあい、頑張った痕跡を称えあった。
「スゴく、綺麗だ」
コツンと額を合わせて、鼻の頭をくっつける。
腕を伸ばして、そのすんなりとした首に回し、自分の方へ引き寄せた。
「おふざけは...そろそろおしまい」
ふふっと彩未は笑みを向けた。
二人が本気のキスを交わせば、そのあとは。
この日ばかりは、時の制限もそして親の、学校の制限もなくて、心のままに、そして本能の赴くままに、止めどなくお互いに気がすむまで。そうして過ごしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます