第47話 恋の花は栄養がいります
途中のコンビニで、化粧品とそれから下着と。それに飲み物と食べ物を購入してから翔太の住まうマンションに入った。
きちんとエントランスのある綺麗なマンションの、そのエレベーターで上がったその部屋は10階建ての7階にあった。
「あがって」
「お邪魔しまーす」
足を踏み入れた翔太の部屋は、片付いているエリアと、片付いていないエリアがあった。
つまりは適度に散らかっている。
ブラウンの木の家具たちが翔太らしくて、何度か行った彼の部屋を思い出させる。
「片付けるから、お風呂いってきたら?」
クローゼットから出してした、タオルとTシャツとハーフパンツを借りる。
「洗濯、回したかったらそこ」
「ありがとう、使わせてもらうね」
彩未の部屋と違い、トイレとお風呂が別になっている。
バスルームを使い、翔太の服を借りて洗濯も回す。
(なんてゆうか、ムードないよね)
と、思うと可笑しくなる。
そうした程よくゆっくりとバスルームを使いそして部屋に出ると、適度に散らかっていた箇所はきちんと片付いていた。
「あ、そういえば石鹸変わった?」
「うん、好みが変わったから」
道理で香りは、大人びたグリーン系になってたんだ。ちなみに彩未も今はその香りに包まれている。
「彩未はまだ、使ってるよね」
「気づいてた?」
「うん、さっき」
「私もさっき、気付いた」
さっき、とはさっき、抱きついた時だ。
「ゲームとかする?」
「あるの?」
「あるよ」
翔太が出してきたのは、誰でもできるという有名なゲーム。
「あ、私めっちゃ下手」
「練習しといて」
何となく、残ったままの緊張を解すべく苦手なゲームをする事にする。
「はーい」
翔太がお風呂の間、熱中したけどどうしても上手くない。
洗濯が終わりをつげて、ベランダに彩未の服を干す。
夜景はきれいとかロマンティック言いがたいけど、都会の町並みが見え、ライトが色とりどりで目を楽しませる。
「大丈夫?いけた?」
「うん、大丈夫」
Tシャツと、スウェットパンツを履いた翔太が聞いてきた。
ふわりとグリーン系の香りがさっきよりも強く香る。
「じゃあ~協力してクリアしよっか」
「下手でも怒らないでよ?」
「わかんね~」
「えー」
TVの前に二人で座り、コントローラー持ってスタートさせる。
「うっわ。ほんとに下手」
「だって、持ってないもん」
「あ、しんだ」
「はやっ」
画面の彩未の操作するキャラはあっという間に落ちてしまう。
「復活させてー」
そんなこんなで下手なりに楽しんで、一旦ゲームは休憩にする。
コントローラーを置いた翔太は冷蔵庫からアイスを出してきた。
「抹茶?」
「で、いい?」
「うん、これ好き」
コトンと置かれた抹茶アイスを、とり、蓋を開けた。
翔太も同じ抹茶のアイスを食べながら、話を切り出した。
「明日さ、俺は朝から予定あるんだけど彩未はどうする?家に送っていくか、一緒にいくか、ここで待ってるか」
「朝から?私も行っても問題ないの?」
「うん。行っても暇だよ?」
「ついていって良いなら行きたいな」
「いいよ」
アイスを食べ終え、またゲームに戻る。
そして…少し躊躇いの残る翔太が聞いてくる。
「彩未、ベッド一緒でいいわけ?」
「...だめ?」
いや、と翔太は首を振った。
寝る支度をしてから、隣の扉で区切られた部屋へ入るとベッドとそれからPCのテーブルが置いてある。
「こういう風にさ、自分の服を着てるのってけっこう、くるんだけど?」
立ち上がってついて来た彩未を見下ろして、そう言った。今の彩未は、翔太の服がまるでワンピースのようになっている。
「ほんとに、俺の事もうこわくない?」
「どうして?こわいなんて思ったことないよ」
「俺は...、怖かったよ。彩未の事なんて簡単にねじ伏せれる、簡単に、奪える」
そうか...と、思った。
彩未と翔太ではもう身長差もあれば体格も違う。
きっとあの時に、彩未のあまりの非力さを怖れたに違いない。
「うん。しようとすればでしょ」
何でもない事のように言えば、翔太の少しばかり緊張していた顔はふと解れる。
「やっぱり彩未はすごいな」
「そうかな」
そっと回された長い腕は、彩未の事を柔らかく抱き締める。
「そんな簡単に壊れたりしないから」
「俺からしたら、すごい小さくて折れそうだ」
「そんな華奢じゃないと思うけど?」
もっと小さくて華奢な子なんていくらでもいる。
「あの頃の方が、恐れ知らずだったな...」
「大人になったって事なのかなお互いに。」
「大事な事を、言い忘れてた...。今度こそ...大事にするから、もう一回俺と付き合ってくれる?」
「私も...大事にするからお願いしてもいい?」
改めて言うのはとても恥ずかしい。
「ここまで来て今さらだけど」
翔太は笑うと、彩未を抱きあげて目の前のベッドに運んだ。
「緊張してる?」
「してる」
「もっと、飲めば良かったんじゃない?」
「酔った頭で彩未といるなんて、勿体ないだろ」
「私は酔ってる方が素直になれていいみたい」
クスッと笑うと、腕を伸ばしてその顔を引き寄せた。
重なりあう唇とそれからふれあう手と肌は、記憶と少しのずれがある。6年の間、枯れたようになっていた二人の恋は再びまたその花を咲かせていく。伝えあった言葉とそれから態度が、糧となりもっと、もっと美しく開くように...。
どんなに思いあっていても、努力をしなくては枯れてしまうから、だから今度こそ大切に育てたい
その夜は、何度も言葉を紡いで『好き』を伝え、そして確かめあった。それはこの6年、行き場のなかった想いの分。何度も伝えても足りない位なような気がして、彩未は目の前の左胸に唇を寄せた。
「なんで翔太じゃないとダメなのかな?刷り込みかな...」
「俺の方は、わかるけど?」
「なんで?」
「彩未が言ったから。好きっていう気持ちはどんどん増えるって、だからだろ?」
「バカじゃない?大したことない女なのに」
「そのまま返すよ。大したことない男なのにな」
「変なの...」
「変でいいんだよ、多分」
「ほんっとに変で、おかしくって。でも...私嬉しい」
「うん」
「変で、いいよな…」そう翔太が囁くと、そこからは言葉もなくただ熱の熱さに喘ぐように、何も考えずにただ目の前の彼の事だけを感じて、そして秘めた情熱を迸らせてシーツの波を漂うように夢中で二人で過ごす、だだそれだけが2人には必要な時間だった。
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