第45話 彼と彼女の駆け引き

またしても、彩未と翔太は恋人みたいにしてるけれど今は本当の所では違うという、そんな関係で、でもそんな事はよくあることなのかな?


「昨日...居心地悪かったでしょ?」

「なんで?」


「だって、合コンなのに元カノとその友だちが勢揃いしてたら。気になる相手を見つけるどころじゃなかったでしょ?」

「あー、そこ。そもそも数合わせだから」


「そっか...。そもそも、合コンなんて必要ないとか?」


もしかすると、カノジョが居たりして。

今日は単に区切りをつけるためだとか、昨日のキスは酔っていたから、その場のノリだとか。

思い付くことはたくさんある。


「必要ないというか、あんまり好きじゃない」

「へぇ...」


(モテるってことかな?)

「モテるから?」

そう聞くと、

「...今は、適当に気が合うってだけの相手と、付き合いたい訳じゃない。って感じかな」


(ど、どういうこと?それは、過去のわたしとのこと?さりげなくこれって敬遠してるの?)


「...ふぅん?」

「気になる?」


「別に...」


(うそ、気になるよ!バカ)

「別に、か」

ふっと、唇が笑みの形になる。それとともに細まった目とその目尻のホクロが、目に入る。

多分、翔太はそこそこにモテると思う。

昔から、バレンタインのチョコだって貰っていたし、一緒に帰りたがる女子だっていた。


「あ...この曲懐かしい」

ちょうど中学当時に流行った曲が流れて、話題を変えた。

「懐かしいって、なんか年くった感じする」

「どうせ、予約のないクリスマスケーキよ」


「それなら、まだ買い手あるかもしれないだろ」


「慰めになってないよ」


男と女の、年齢というのは同じじゃないと思う。

彩未は今年、25歳になる。そこには何となく区切りがあるように思う。20代はまだまだ若い。でも、そろそろ30歳までに結婚をしたいとか、仕事をもっと頑張るのか、そんな意識の出る年齢。

幼稚園教諭や保育士の女性たちは、結婚を選べばやはり両立は難しいから退職をする人が多い。


まだ23歳の若い翔太にはわかるまい。

なにせ、合コンなんて好きじゃないなんてサラリと言ってのける。それは彩未も同じだけど...。現実的にはもしも、将来結婚とかそういうのを考えるなら、合コンもアリなのかなと思っての、今回の話だった。そうしたら、そこに来たんだから...。


「あのね、言っておくけど昨日は、本当にたまたま合コンに参加しただけなの」

「大人なんだし、そういう日もあるだろうな」


「...というか、私たちってさ、どうなんだろ?別れたの?別れてないの?」


つい口走ってしまった...。


「6年も連絡してなくて、続いてるっていう方がおかしいだろ?」

「だよね...。3年音信不通なら夫婦でも離婚できるっていうし」


(あー...バカ。私って本当にバカ)

わかりきったことを、聞くなんて。

それに自分だって、終わったと思っていた癖に


「待ってたのなんて、バカだって事だよね」

「バカなんて思ったことはないよ」

間髪いれずに翔太が小さく呟いた。


「...とりあえず、もうすぐ叫んじゃお」


「それは、いいかもしれない」


まもなく、新型のアトラクションに近づいていた。

落下防止のために、鞄やポケットの中身を預け入れて、席につけば体を固定するバーが下りてくる。


上昇して、一気に回転しながら落ちるコースは見てるだけで、心拍数が上がる。


みんな一斉に「きゃー」と悲鳴をあげる中で、彩未は「しょーたのバカー!」と叫んだ。


隣にいるんだから聞こえてたっていい。そんな気持ちだ。

(いいんだから!)


「きゃぁーーー!」


くるくると日常では味わえないスピードでめまくまるしく移り変わる景色を見れば、気分は爽快である。


「しょーたのバカって叫んでたね」

降りた翔太は、クククッと笑っていた。


「叫んだ叫んだ!スッキリした」

「うん、彩未は正しいね」

「翔太も、次はあみのバーカって叫んでいいから」


翔太から、彩未のバッグを受け取りながらそう笑みを向けた。

「ね、次はどうする?もう一回おかわりする?」

「それも良いけど、そろそろ昼にしよっか?」

「確かに、そんな時間だね」


視線をやった彩未の腕時計は、かつて一緒に買った物。

未練がましいかな...。ちらりとそんな事が脳裏を過よぎる。


「使いやすいから、だから、深い意味はないの」

彩未は視線を受けてそう言った。


「そうだね、シンプルで使いやすいよな」

翔太の左腕には同じもの。


そう、深い意味なんてない。単なる物なんだから

靴だってそう。

人気のブランドのスニーカーだから、また一緒なだけ。


「持ってる物が、被るのなんて。よくあることなんだから」

「そうだね...彩未とはよくあることだね」


「...どこで、たべる?」


「俺、鶏」

「鶏かぁ~じゃあ、この辺かな」


洋食のレストランをパークガイドから見つけてそこに向かうことにした。

「改めて見ると、こういう中で食べんの高いよな」

「ね」


「ひとり暮らしだと、ご飯とかどうしてる?」


「昼は給食でしょ、後は作り置きを消費する感じ」

「作り置きかぁ、わりとやるね」

「体力勝負なところあるから、食事はちゃんとしないとね。翔太は?」

「俺はもう、カットサラダと夜は焼くだけとかそんなの」

「ちゃんとしてるんだ~」

「俺も体力勝負なところあるから」

同じ台詞を返されて、笑みを返す。

「ふぅん?そうなんだ?」

「だよ」


二人してチキンピカタを頼み、ジンジャーエールを飲む。

翔太とほとんど同じくらいの速度で食べ終えると


「職業病?結構早食いになったね」

「うん、そうかも」


土曜日だけあり、人気のアトラクションはどれも大行列だ。


「次はどれにする?」

「うーん。期間限定もの?」

「そこにするか」


CGと乗り物のミックスした、大人向けのアトラクションだ。

次はそれに向かうと、それもまた160分待ちだった。


朝から一緒にいて、食事も共にするとはじめは緊張の解けない彩未も次第に態度を軟化させていっていた。

思いっきり叫んだのも良かったのかも知れない。

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