Confessions
第44話 10年越しの約束
。゜。 ゜ 。 ゜ ☆ ゜ 。 ゜ 。 ☆
遠い通りすぎた過去だと、とっくに忘れたはずだと、そんなつもりでいたけれど彩未はやはり翔太の事を忘れてなんていなかったのだ。
再会してみれば、その事がよくわかった。
キスを交わしたと言うことは、翔太の方も彩未と同じ気持ちでいるだろうか?
会う約束をしたということは、彩未と翔太の関係はまだ終わっていない...続いているということ。
部屋の箱の中には古い、棄てられなかったスマホがある。
電源を入れてみればそこには彩未と翔太のその時のキラキラとしたそんな想いは、その時のまま甦ってくる。
RENの、そのアドレスには今も翔太の名前があり先程別れたばかりの彼に、彩未は躊躇う指でメッセージを打ち込む。
『明日はテーマパークに行かない?』
中学校のはじめてのデート以来結局2度目はなかったテーマパークのデート。
もう一度、あそこから....。
そんな想いは彼に伝わるだろうか?ドキドキしながらスマホを眺めていると、ほどなくして既読がついて返信が返って来た。
『わかった。明日、8時に迎えに行くよ』
明日の...8時。
返事が返ってきた事にホッとして彩未はポスンとベッドに横たわった。酔っていたからこそ、大胆に振る舞えた...。
なんでダメになっちゃったのかな...。
そう彩未は呟いたけれど。
そんなの、聞かなくてもわかってる。
彩未にも、そしてきっと翔太も、当時はどうするべきかわからなかったまま、宿題を先延ばしにしたのだ。
そして今、その問いを、うやむやにしたままだったあのときの答えを出そうとしているのかも知れなくて、その為の、神様が用意した再会なのかも知れなくて...。
燻ったまま、閉じ込めたそんな想いが一気に噴出する。
束の間の再会で終わるのか、それとも終わらないのか。
明日になれば彩未にも翔太にもその答えは出るのだろうか?
彩未はもう18歳じゃない、24歳だ。
高校生でもなく大学生でもなく、ちゃんとした社会人で...。
そしてそれは、彼も同じ。
(ほんとうに、どうしたい?)
突然の再会で、舞い上がってる?それとも、戸惑ってる?
前よりも短くなった髪は肩にかかるくらい。
顔は、大人になった?体はどう?大人になった?
翔太はこの6年...。何をしてた?そして誰かに恋もしてきたのかな?
明日会うのは、会いたくてそして、それが怖いような
(わたしは、とても...臆病になってしまった...)
ワンルームの部屋にあるクローゼット。
明日は何を着ようかと迷って、そしてホワイトのカットソーに袖が透けたものと、ホワイトにグレーのストライプの入ったホワイトのガウチョパンツを選んだ。
カバンはリュックで靴はスニーカー。スニーカーはかつてと同じブランドの物だった。
(そういえば、春花たちはまだ盛り上がってるのかな...)
そんな事を思いながら、ベッドに入るとお酒の残る体は次第に意識を夢の中へと誘って行った。
・*・*・*・*・
翌朝、約束の8時前に
『もうすぐ着くよ』
とRENが入ってきた。
根が真面目な翔太らしくきっちりと5分前に着く感じだ。
マンション下に降りると、ハザードランプを点けてネイビーのスポーツワゴンが停まる。
「彩未、乗って」
中から助手席側のドアを開けた。
翔太は昨日のスーツとは違って、ジーンズにホワイトのシャツとネイビーボーダーのTシャツで爽やかなコーデだった。
「そっか...車だったんだ」
「迎えに行くって言ったら、そうだと思わない?」
「男の人と車に乗るのはじめてかも」
「...へぇ、そうなんだ...」
走り出した車の中、運転する翔太を見れば昨日に引き続いてその空白の年月を感じさせる。
助手席に座るのも、初めてで彩未は内心ドキドキしていた。
助手席って、振る舞い方とかどうするべき?
「...そんなに警戒しなくても、いきなり襲ったりしないから」
「えっ?、そ、そういう心配じゃなくって。単に助手席が珍しくて...昨日も言ったかもしれないけど、ここ何年も小さい子としか接してないし...」
そう、大人の男性に対して免疫が切れている。
「そっか、ならいいけど」
(どうしよう。これじゃまだ昔の方がウブじゃなかった気がする)
なんで昨日は翔太にキスなんかできてしまったのだろう。
やはり酔っていたから?
いきなり大人の男性になって再登場なんて、反則...。
ちらりと運転する横顔を見ては、慌てて背けてるなんて本当にどうなの?
彩未のそんな挙動不審に、クールなその表情の中にも何となく笑われている気がする。
「パークインする前に、コンビニでも寄ろっか?」
「あ、そうだね」
(あー、私ってばどうして映画にしなかったの?並んでる間とか何を話せばいい?)
思わず初デートの場所を選んだけれど、なんのてらいも無かったあの時と、この諸々のこじらせた状態でのテーマパークなんて気まずいにも程がある。
相変わらず紅茶派の翔太は、アイスティーを買い彩未もまた同じくアイスティーを選んだ。
彩未がアイスティーとそれから、チョコレート味のお菓子を持ってレジに行けば、後ろから現れた翔太が彩未の分もまとめてスマホをかざして払ってしまった。
「私、出すよ」
「こういう時はありがとで良いと思うけど?」
レジ袋を持って、先に歩き出すと
「乗って」
「うん。...ありがと翔太」
(本当に...大人になってる)
当たり前だ。何年たったと思うの。
「免許、いつとったの?」
「高3の終わり」
「私も取ろうかな」
「取ったら?便利だよ」
「休みにまとめて行ってみようかな」
「うん、そうしたら?」
彩未の緊張を余所に翔太の方は全く通常運転のようだ。
その事に彩未の、緊張は少しだけ解れてくる。
地元ともいうべきテーマパークのある地域は二人にとっては懐かしい場所。
駐車場に車を停め、入場ゲートの方へ向かう。
「懐かしいなぁ。ここ、彩未と来て以来だ」
「同じかも...」
高校3年間も、そしてその後も来ることは無かった。
ここでもチケット代を翔太が払ってしまい
「ちょっと、さすがにここは出すよ」
「出したから。どうこうって、いうのはないから、単に大人の男としてのプライドだから」
「ええ~」
「彩未が俺の倍以上稼いでるなら、出してもらうけど?」
決して高給取りとは言えない幼稚園教諭の彩未。対して、viearthは子供の通信教育からその他のジャンルまで手広く知られている大きな企業。
きっと給料は2年目の国立大卒の翔太の方が良いに違いない。
「いえ...ありがとう」
「うん」
10年ぶりのパークは、懐かしさとそして、新しいアトラクションの増加でまた、楽しさが増しているようだ。
「絶叫系から攻める?」
「もちろん、そこからよね?」
「ん、だな」
にこっと笑みを向けられて懐かしさに胸がいっぱいになる。
過去と比べる事べきではないかも知れないけれど、変わっていない所を見つけては安心してしまう。
新しいアトラクションの大行列は、お約束の180分待ち。
「...聴く?」
「聴く...」
イヤホンを一つずつつけて、同じ曲を聴く。そして…懐かしい翔太との距離間。
「あ、これ好き」
「そ?」
「最近、子供向けばっかりだから、新鮮」
「さすがセンセ~」
彩未もやっと、自然に笑った。
「だってそれがお仕事ですもん」
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